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童話「かあさんあのね」が、生まれた背景  作者: 琴乃夕月
第2章 現実に見えていたものと、そこで感じたもの・・
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イラクでの私の過ごし方・・大切な友だち

当時、イラクに入るためのビザは、戦争開始以前からイラクにとどまり、戦争反対を唱えていた僧侶のおかげで同じ行動をとるメンバーとして発行してもらえたのであって、通常ではイラク国内に入ることが不可能だった。だから、どうしても、イラクの実情を知りたいと願う、自分の死をも厭わないような真実を求め続けるジャーナリストが何人か参加していたのだ。

当然、彼らの知識は豊富だった。


特に、危険なところに以前から出かけていたような人がいてくれるのは心強かった。

その報道カメラマンはとても慎重な人で、チェルノブイリの事故の後も、何度も検証作業に訪れているという勇気を持ち合わせているのにもかかわらず、「自分は臆病だから、確実にガイガーカウンターが反応するな・・と思うところでは、怖いからスイッチを切るんだ」とか話してくれたりした。

もちろん、いろいろな兵器や攻撃から身を守るための隠れ場所にも詳しくて、こうやって数々の修羅場を潜り抜けて来たのかと思えるくらいたくさんの知識を持っていた。


私たちは、かなり寄せ集めのグループだったから、最初こそぎくしゃくもしていたけれど、1か月も経つと、寝食を共にしているから連帯感も生まれてくる。

私と同じ部屋になったのは、最初は一回りくらい上の女性だったが、イラクに入ってからは、ドイツから来た若い女性と一緒の部屋になった。

たぶんドイツ人の女の人は、後から合流した記者さんたちのグループがいたけど、それまでは彼女一人だったから一人きりになってしまわないよう、私を同部屋にしたんだろうなと思った。


すごくかわいい人で、たくさん話をしたかったが、最初のうちはなかなか会話が弾まない・・

ああ、こんなことなら、せっかくウィーンで過ごしてた時に、英語に頼りっきりにならずに、もっとドイツ語を勉強しておけばよかった・・って後悔したけど、過ぎたことは仕方ない。

自分の専攻がイタリアオペラだったから、ドイツリートは習ってはいなかったし、なんとなく記憶に残っていて歌えそうなものを頭の中で探した。

これなら覚えてるかも・・全部歌いきれなかったら途中からラララになっても、超有名だから彼女はわかってくれるはず・・彼女と仲良くなりたくて私が選んだのは、「Ich liebe dich(御身を愛す)」というベートーヴェンの歌曲だった。


Ich liebe dich, so wie du mich,  

am Abend und am Morgen,


突然歌いだしたから、彼女はびっくりしたように目を見張り、そのあとにっこり微笑んでくれた。

noch war kein Tag, wo du und ich  

nicht teilten unsre Sorgen.

じっと、私の目を見つめて、それから優しい表情で目を閉じて聞いてくれている。


Auch waren sie für dich und mich  

geteilt leicht zu ertragen;  

(心配事や悲しみがあったとしても、ふたりで分かちあえば、耐えることもやさしくなるよね)

du tröstetest im Kummer mich,  

ich weint in deine,  

(あなたは私の哀しみを慰めてくれ、あなたが嘆いた時私は泣いた・・)

そんな風に歌っていたら、彼女は小さな声で一緒に歌ってくれた。

in deine Klagen.(あなたの嘆きに・・)


「ドイツ語分かるの?」って 嬉しそうに話しかけてくれたけど、ビッテ(Please)とダンケ(Thanks)くらいしか日常では使ってこなかったんだ・・

だから、正直に、あまりわからない・・って答えた。

「じゃあ、どんな言葉知ってるの?」って聞くから、「アプフェルシュトゥルーデル(アップルパイ)ウント(&)オランジェンザフト(オレンジジュース)」って言ったら大笑いしてくれた。

それから彼女とは、多少うまくコミュニケーションが取れないことがあっても、四苦八苦して英語とドイツ語をまぜこぜにした会話をするようになった。

日本に戻ってからも、メールのやり取りが続いた。

同じ光景を見て、彼女とはハグして互いに慰めあったり、同じように張り裂けそうな想いを確かめ合ってきたんだもの・・

こんなふうにして大切な友だちがまた一人、また一人と増えていった。

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