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童話「かあさんあのね」が、生まれた背景  作者: 琴乃夕月
第1章 そしてわたしは目撃者の一人となった・・
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バグダッドに向かう砂漠の道で、イラクの星空はまぶしいほどに光輝いた

日本での高速道路を行くような快適な走行が続く。

この道路の違いが、産油国と非産油国の国力の違いなのかもしれない・・

そんなことを考えながらバスの中で少し疲れた体をシートに預けていると、眠りが襲ってきた。

隣の席にいた私よりも一回りくらい年上の人が少し体調を崩していたが、彼女も眠りについた様子だった。

うつらうつらしてどのくらい時が流れたのか・・バスが止まった。


当然のことだけど、イラク国境まで・・都市部だけでなく、イラクのすみずみまで整備されたこの幹線道路が、爆撃の標的になっていないはずはなかった。

あくまでもまっすぐに砂漠を貫くハイウェイは、哀しいかなところどころに、浴びせられた爆弾によってゴッポリと大穴が開いていた。

寸断されてしまった街道をいったん降りて、砂漠の中の道なき道を行く・・

少し進んだら元の道に戻れるように、あまり遠くには外れないが、運転手は慎重に進んでいた。

いつの間にか、ちゃんとした道路にバスが戻っている・・

すっかり暗くなったな・・

戦争がひとまず終結したように見えてから、2ヶ月が経っていたが、電気の途絶えたイラクに灯りはなかった。

そんな私たちの道先案内人は、煌々と冴えわたる満月と宝石箱をひっくり返したような綺羅星の群れだった。

そんな星空のもと、私たちはバスを降り小休止を取った。

どこまでも続く砂の海に星が降り注ぐ・・

見上げれば、瞳の中に星のかけらが落っこちてくるんじゃないかってドキドキした・・


これを見ることができただけでも、ここに来たかいがあった・・

星の神話が大好きで、高校のころは天体望遠鏡で観測だってしてたけど、こんなに星があったんじゃ知ってる星座にならないよ・・・


でも、生きてるってこういうことなんだな・・・

吸い込まれそうな空を見上げながら、いつしか冷たいものが頬を濡らしていた・・


そう・・私がこの地を訪れたのは、自分が生きている証がほしかったのかもしれない・・

オペラの舞台に役をもらって立ち始めたとき、やっとこれから・・そんなときに私は甲状腺がんの手術をすることになった・・

まだ、大学を出て少ししかたっていなかったのに・・

傷口は大きくて構わないから、声を残してほしいと願った・・

私にとってすごくラッキーだったのは、とてもいい先生に紹介していただくことができ、無理なお願いを聞いてもらえたおかげで声を残してもらえたこと。

1年休めばまたステージに立てるかなと思っていたら、今度は別の場所に・・

そして、再び手術をして、今度はお腹を切ることになった。

腹筋を使って声を飛ばさなくてはならないというのに・・

腹直筋は、傷跡が大きくなってもいいので縦に切ってもらうようにした・・

わたしにはまだ背筋が残ってる・・

小さなホールでピアノとなら・・

でも、もうオペラの舞台に立つことはできなくなった・・そう感じていた。


2度も助けていただいた・・声も残してもらえた・・

きっと私はこの道ではなくて何かこの世でやらなきゃいけないことが残っているんだろう・・

そんなことを考えるようになっていた。

こんな風にしていただいた命・・私は二度目の人生を生きようとしていた。

そんな時に起きたのがこの戦争だった・・


何かにはじかれたようにして、私はここに来ていた・・

もちろん、誰かに迷惑をかけないように、せめて自分のことは自分でできないとと思って、日赤の救急員の適任証を取るために合宿に通い、資格を取ることができたのが4月だった・・


私の歌声に癒されるというのを何度か聞いたことがある。

もし、私の歌にその力があるのなら、せめてこの地で歌える限り歌いたい・・そのことで、声が枯れ果てることになっても構わない・・だから・・神様もう少し、私を支えてください。


ずっと走り続けていた運転手の顔に疲れが見えていた。

もしかして手が洗えなかったりする時のためにと、日本から持ってきていたウエットティッシュをリュックから取り出して、彼に手渡す・・

少しひんやりしたそのティッシュを使って、嬉しそうに手を拭いて、顔をぬぐった。

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