談話室
3人で連れ添い談話室へ戻ると、オフィーリアとエレンがレトルトを人数分取り出して夕食の準備を始めていた。
頭上に視線を向けると、グレッグとカルヴィンもすでにいて、何やら話し込んでいる。
オフィーリアが部屋に入ってきた3人を見つけ、声をかけた。
「ジョン、ゆう、ボルシチとビーフストロガノフ、どっちにする?」
ジョンがビーフストロガノフを選択し、ゆうは、ボルシチを頼んだ。ソフィアに聞かなかったのは既に頼んでいるからなのだろう。
「ゆうがボルシチ頼んでくれたので、旅の終わりはボルシチばかりにならなくて済みそうだよ」
英国人が言うジョークは解りにくい。
周りは無反応を決め込んている。近くにいるエレンまで聞き流している。
自然とオフィーリアは、会話の相手であるゆうにリアクションを求めてくるが、既にパターンは出尽くしているので周りに合わせ無反応を決め込もうとしたが、そこは日本人としての性なのか気付けば苦笑いで返していた。
オフィーリアは、白髪の似合う英国紳士で地質学の教授だ。今回のリーダを任されている。火星で地質の成り立ちなどを研究するため、このプロジェクトに参加した。教授が主宰するゼミは、学生に人気が高く、直ぐに定員が埋まってしまう。
それは、教授の人柄によるところが大きく、温厚で、居るだけですべてを包み込んでくれる。そんな感じを与えてくれる。チームの信頼も厚い。ただ、たまに出るジョークが場の空気を悪くする。
エレンはテキパキとボックスから、食材がフリーズドライされた容器を取出して給水口にセットし、容器にお湯を満たしていた。お湯を満たして10分ほどで完成する。既に5つほど容器が水で満たされていた。
エレンは、心理学を修得した精神科医で航海の間、搭乗員の精神状態の管理を担当する。
この3年にわたる航海で、8人が狭い宇宙船の中で共同作業を行うため強調性や強い忍耐が必要になる。ただ、個人の努力に期待することはナンセンスだ。
専門の医師が、しっかりチェックしてくれるその安心感が、搭乗員のストレスの軽減につながる。
エレンは、縁のない眼鏡の下から、鋭い目線でゆうたちをとらえると、ゆうに声をかけた。
「ゆう、これにお湯入れるの手伝って、それからジョンは、レフを呼んできてコックビットに居るはずだから」
「え~なんで俺がレフを呼んでくる役なんだよ」
ジョンは少しばかり不機嫌になる。
「いいの。早く呼んでくる。急いで」
否応なしのエレンの言葉が飛んできた。
「あたしが呼んでこようか」と、ソフィアが助け舟をだすが、エレンはそれを否定した。
しぶしぶの態でジョンがコックビットへ向かう。
エレンは、仕切り屋なのだ。最初のころは船長であるオフィーリアに遠慮し、確認を取ってから指示をだしていたが、3年前の閉鎖訓練のころから遠慮が無くなり、仕切るようになった。この船を実質的に動かしているのは船長でなくエレンだ。
コックピットからレフが入って来た。
190cmを超える偉丈夫で、穴ぐらから出で来る熊を思わせる。
ジョンに言わせると、「奴が隣に座ると俺の居場所がなくなる。」
元露国空軍のパイロットで、主に輸送機などを操縦していたそうだ。
無口で無愛想。しかし、打ち解けると意外と多弁になる。
レフは露国の矜持からか英語を使いたがらない。
米国人2名、英国人2名、加国人1名と搭乗員の半数以上が、英語圏だとどうしても英語が共通語となってしまう。そのため、無口で無愛想のキャラが定着してしまった。




