船内
「そろそろ食事の時間よ」とソフィアが声をかけて、軽やかに壁を蹴ってこちらに向かってくる。
見えない翼があるかのように、足元から音もなく浮かんでくる。
「二人してなにぼ~としてるの」
ジョンは、その言葉に「俺は、ぼ~となんてしてないぞ」と言い返す。
ゆうは、なんだか可笑しくて声に出して笑った。
「ゆう、なに笑ってるのよ」
「そうだぞ」
「いや、あまりにもふたりが同じことを言うものだから」
ソフィアとジョンはお互いを見つめて、ソフィアとジョンはそれぞれに違った表情だが共通してお互いを思う気持ちが読み取れた。
ゆうは、気分を変えようとソフィアに尋ねた。
「それで、今日の夕食は何?」
ソフィアは、ジョンを睨むのをやめて、「ああ、今日は、レフの国のピロシキとボルシチ、ボルシチはビーフストロガノフに変更できるわ」
「ロシア料理かよ。食事だけが楽しみなのに、あ~、ゆうの国のなんだっけ」
「カレー?」
「そう、カレー。あ~カレー食べたい」
「私も、カレーは好きよ。」
ソフィアとは、プロジェクト開始以来ずっと一緒に訓練をした仲だ。
すらっとした足はバービー人形をそれを彷彿とさせる。今もその美貌は変わらない。
地球を出発するまでは、ブロンドの髪を肩まで伸ばしていたが、今は、耳元まで短くしている。
出会った時から、ゆうを弟の様に接してくる。まあ、東洋人は、童顔で幼く見えるから仕方ないのかも知れない。
彼女は、この2年近い航海でチームの健康管理をサポートしてくれる。
このプロジェクトに参加する前は、国立病院でERに努めていた。
そのためなのか様々な医療に精通している。
ゆうたちは、ソフィアがさっきまでいた下方――談話室――に向かって跳躍した。ジョンとソフィアが前に立ち、ゆうが後に続く。
宇宙船は、月軌道上で建造されている最後のパーツとして作られていて、生命維持に必要なものが詰まっている。
船の全てのコントロールが可能なコックピット。ここは狭く船長、操縦士2人、システム担当の4人でいっぱいになる。
コックピットの後方に4人分の席があり、天井が高い。これは、無重力状態の時、談話室として機能する様設計されたものだ。食事をとるための、給湯システムもここにある。
コックビットと反対方向には、月軌道上でドッキング後、後方エリアへ行くためのエアロックが設置されている。
天井方向と逆にも部屋が有り、ここは3方の壁を2つに区切り、6人分の個室と窓が設置され外を見ることができる。
また、マニピュレータのコントロールも置かれ、窓からと数台のカメラでコントロールする。潜水訓練でここにずっといたためか、地球を出てからなにもやることがないとここへ来ていた。
この部屋のひだり側には2人分の個室と改良型筋力トレーニング装置(ARED)が置かれ、1日2時間程度の運動が義務付けられていた。
全ての部屋への通路は気密ハッチで仕切られているが、今のような平時では開放されている。