【第1話】完璧な執事は、私の耳元だけで本性を現す
専属執事は超イケメンですっごく頼りになる良い男!
多分、脈アリ!
でも、なかなか本性を表してくれないからやきもき…
頑張って執事を落として結婚まで行き着かなきゃ!
「お嬢様、本日のスケジュールでございます。10時より社交ダンスのレッスン、14時より領地の収支報告、そして17時からは——」
「——ライアル様との、お見合いの件でしょう?」
黒縁の眼鏡を押し上げながら、淡々と本日の予定を読み上げる男。
私の専属執事、アルフレッド(27歳)。
整いすぎた目鼻立ちに、隙のない立ち振る舞い。
漆黒の燕尾服を完璧に着こなす彼は、我が公爵家が誇る「絶対に感情を崩さないクールな執事」だ。
そして——私が世界で一番大好きな人。
「……ご理解いただけていて助かります、エレノア様」
アルフレッドは一切の感情を排した声で頷く。
その冷ややかな態度に、私は思わず唇を噛んだ。
「……他人事みたいに言わないでよ。私、あと半年以内に『意中の相手』を連れてこられなかったら、あのライアル子爵と政略結婚させられるのよ? 嫌に決まってるじゃない!」
私は17歳。公爵家の一人娘。
我が家には「18歳の誕生日までに意中の男性から求婚されなければ、親の決めた政略結婚に従う」という厳しい掟がある。
私の好きな人は、目の前にいるあなたなのに。
「ご安心ください。ライアル様は資産も豊富で、家柄も申し分ございません。お嬢様の将来のお相手として、これ以上の人物はおられないかと」
(……またそれ! どうしてそんな平然とした顔ができるのよ!)
悔しくて、悲しくて、私はキュッとドレスの裾を握りしめた。
アルフレッドが実は「ただの執事」ではないことを、私は知っている。彼は訳あって身分を隠しているが、元々は歴史ある高貴な貴族の出身だ。家柄だって、何も問題はないはずなのに。
「……もういいわ。ダンスのレッスンに行ってくる!」
私はぷいっと横を向き、彼を置いて部屋を出ようとした。
——その時。
スッと気配が消えたかと思うと、腕を掴まれ、背後から抱きかかえられるように壁へと押し付けられた。
「っ……!? アル、フレッド……?」
さっきまでの冷徹な雰囲気はどこへ行ったのか。
死角となった扉の影で、アルフレッドは私を逃がさないように閉じ込めると、すっと顔を近づけてきた。
眼鏡の奥の瞳が、見たこともないほど濃密な熱を帯びている。
そして、私の耳元に唇を寄せ——低く、甘く、強引な声で囁いた。
「……他の男の名を呼んで、俺を試すような真似をするな。落とせるものなら落としてみろ……お嬢様?」
ぞくっと鳥肌が立つような甘美な声が耳腔を揺らす。
彼が離れると、そこにはまた「完璧でクールな執事」の澄ました顔があった。
「——では、レッスン室でお待ちしております、エレノア様」
そう言って深々と一礼し、嵐のように去っていくアルフレッド。
熱を持った耳たぶを押さえながら、私は真っ赤な顔でその背中を見送る。
(……ズルい! 表面上はあんなにすまし顔のくせに!)
脈アリなのは間違いない。
でも、この男はお堅い執事の仮面を被って、私からのアプローチを待っているのだ。
「見てなさいアルフレッド……半年以内に絶対にあなたを攻略して、プロポーズさせてやるんだから!」
こうして、私と意地っぱりな専属執事の、甘くてもどかしい駆け引きが始まった。




