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【エピローグ】

白堊理研第8基地、リトルベース。

あの日、人工知能SANATとの接触と拒絶を経てから数ヶ月。

季節は巡り、荒野に吹き渡る風も少しだけ穏やかになっていた。


「はぁ、また決裁書類っすか」


司令官室のデスクで一人の女性が深いため息をついた。


ミカ・フォルクス。

かつての少尉はその功績と実力を認められ、異例のスピード出世を果たしていた。

現在の階級は少佐。

このリトルベースの新たな指揮官である。


「現場でトリガーを引いている方がよっぽど気楽だったっす」


ミカは真新しい階級章を指で弾き、窓の外を見下ろした。

そこには広大な演習場が広がっている。


「ほらほらー、足が止まってるよ新入りたち!晩ご飯抜かれたくなかったらあと5周!死ぬ気で走る!」


拡声器片手に鬼のような、しかし内容は食い意地の張った檄を飛ばしているのは、金髪の女性教官だ。


フレンダ・ディーコン。


彼女もまた数々の激戦を経て、大尉へと昇進していた。

現在はリトルベース専属のヘキサギア教導隊・隊長として、新兵たちに生き残る術と食事の尊さを叩き込んでいる。


「ふふ、すっかり板についたっすね」


ミカは微笑みながらコーヒーを啜った。

かつて実験動物と呼ばれた少女はもういない。

そこには、人間として生き人間を育てる一人の立派な指揮官がいた。


「よーし、午前の訓練はここまで!食堂へダッシュ、一番遅かった奴は私の皿洗いね!」


「イエスマム!!」


新兵たちが蜘蛛の子を散らすように食堂へ走っていくのを見送り、フレンダは汗を拭った。

ふと、彼女は北の空を見上げた。

どこまでも続く青い空。その遥か彼方には地図に載らない深い森がある。


「お母さん、元気かな?」


フレンダの脳裏にウサギ耳のシルクハットを被った小さな母の姿が浮かぶ。

血塗られた運命を乗り越え、ようやく見つけた心の故郷。


「きっと今頃、優雅に紅茶でも飲んでるんだろうな。また会いたいな、お母さん」


フレンダは空に向かって小さく手を振り、食堂へと駆け出した。


彼女は知らない。

その優雅な母が今、とんでもない騒動を巻き起こそうとしていることを。

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