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最強ドラゴンだけどビビりなので勇者に倒してもらいます  作者: マコPON


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第50話 伝説の終焉と最高のハッピーエンド

魔王城での最終決戦。アルクと眷属たちの全魔力を注ぎ込んだ勇者の究極奥義により、ついに絶対的な闇は討ち果たされた。

すべてが終わり、世界は救われ、完璧な大団円を迎えるはずだった。……しかし、魔族の絶対的な掟『強き者が弱き者を統べる』という理が、盤上の支配者であったアルクに最悪のシナリオを突きつける。

数千の魔王軍の残党が次なる絶対者として平伏したのは、あろうことか竜王アルクその人だったのだ。

勇者の旅をこんな中途半端な形で終わらせるわけにはいかない。敏腕プロデューサーとして、勇者を「世界を救った最高の英雄」にするための、悲壮にして完璧な最後の大仕事が今、幕を開ける。

玉座の間に響き渡る何千という魔族たちの狂信的な咆哮。

 彼らは一切の疑いを持たず、先代を打ち破った『竜王』こそが新たな絶対者であると平伏していた。

 その異様な光景の中心で、アルクは絶望的な事実に直面し、内心で頭を抱えていた。

(嘘だろ!? なんで俺が新魔王に就任する流れになってんだよ! 俺の目的はあくまで『光の勇者が魔王を倒して世界を救う、王道RPGの100点満点のハッピーエンド』を見届けることだぞ! なのに、俺が魔王になっちまったら、勇者の旅が終わらねぇじゃないか!!)

 プロデューサーとしての完璧なシナリオが、魔族の理という理不尽なシステムによって根底から崩壊しかけている。

 アルクは視線を動かした。そこには、突然の事態に完全に思考が停止し、震える手で伝説の剣を下げてしまった勇者の姿があった。

 このままでは、勇者は「魔王を倒せなかった中途半端な存在」として終わってしまう。それだけは、絶対に避けなければならない。

(……やるしかねぇ。最高のエンディングを迎えるための、最後の大仕事だ)

 アルクは腹を括った。彼は内心の激しい動揺を完全に押し殺し、歴代のどの魔王よりも冷酷で、底知れぬ威厳を放つ『絶対悪』の仮面を被り直した。

 そして、跪く魔族たちを一瞥すらすることなく、ゆっくりと勇者へ向き直る。

「……聞いただろう、勇者よ。理は示された。この瞬間より、我こそがこの世界を統べる新たなる『魔王』である」

「ア、アルク……? 何を言ってるんだよ。お前は俺たちの仲間で、一緒に世界を救うために……っ!」

「戯れ言を。我が目的は、先代という目障りな旧支配者を排除し、この玉座を簒奪することのみ。其方ら人間は、そのための都合の良い手駒に過ぎなかったということだ」

 アルクの口から紡がれる、あまりにも残酷な嘘。

 勇者の顔が絶望に歪み、隔離結界の中にいる魔術師も信じられないというように口元を覆った。

「さあ、勇者よ。世界を救いたくば、我を討ってみせよ。……新たな魔王たる、この竜王をな!!」

「できるわけないだろ!!」

 アルクの挑発に対し、勇者は血を吐くような悲痛な叫びを上げた。

「お前が裏でどれだけ俺たちを助けてくれたか……! 一緒に笑い合った日々が、全部嘘だったなんて絶対に信じない! 俺は……っ、俺はお前を斬ることなんて、絶対にできない!!」

 勇者はボロボロと涙を流し、ついに伝説の剣を石畳へと投げ捨ててしまった。

 その純粋すぎる姿に、アルクの胸が激しく痛む。

(ああもう、ダメだこいつ! 根が真っ直ぐで良い奴すぎる! このままじゃ一生俺を斬れねぇぞ! ……ノクス!!)

 アルクは表面上は冷酷な笑みを貼り付けたまま、己の影に潜む絶対的補佐官――ノクスへと、極秘の念話を飛ばした。

(勇者の身体を影から強制的に操作しろ! 俺の心臓を、あの伝説の剣で貫かせるんだ!!)

『……主。それは、あまりにも』

(いいからやれ!! これが俺のプロデュースする最高のエンディングだ!!)

 主の悲壮なまでの決意を受け取ったノクスは、一瞬の沈黙の後、冷徹にそのオーダーを実行に移した。

 投げ捨てられた伝説の剣が、まるで目に見えない糸に引かれるように宙に浮く。影から伸びた目に見えない魔力の糸が勇者の両腕を強制的に拘束し、剣の柄を握らせた。

「なっ……!? 体が、勝手に……っ! 違う、動くな……!」

「往くぞ、勇者よ!!」

 ノクスの力によって強制的に踏み込まれた勇者の足。

 光の軌跡を描きながら、伝説の剣が一直線にアルクの胸元へと突き出される。

「やめろおおおおおおおっ!! アルクゥゥゥッ!!」

 ズドォォォォォォンッ……!!!

 勇者の悲痛な絶叫と共に、白銀の刃が、漆黒の竜鱗を容易く貫き――アルクの胸の奥、鼓動を刻む『竜王の心臓』を深々と貫通した。

 圧倒的な聖なる光がアルクの体内から溢れ出し、周囲に平伏していた魔族たちが悲鳴を上げて四散していく。

「あ……あ……っ」

 己の手でアルクを貫いてしまった事実に、勇者はガクガクと膝から崩れ落ち、震える両手を見つめた。

「……よく、やった……。見事な一撃だ、光の……勇者よ……」

 胸から眩い光の粒子を漏らしながら、アルクはゆっくりと膝をつく。

 口から零れるのは血ではなく、世界を救う英雄に対する、心からの賛辞だった。

「お前は……真に、この世界を救ったのだ……。胸を、張れ……」

「アルク……! なんで……なんでだよォォッ!!」

 泣き崩れる勇者の頭を、アルクは優しく撫でた。

 臨場感を出すための迫真の演技を続けながら、隔離結界の中から涙を流して見つめている魔術師へと、最後の視線を向ける。

「……魔術師よ。我からの至上命題……しかと覚えているな。この英雄の軌跡を、勇者の勝利を……後世まで、伝承者として全うせよ……」

「……ええ。ええ、絶対に……! あなたの事も、勇者の事も、すべて語り継いでみせるわ……っ!」

 魔術師の涙ながらの決意を見届け、アルクは満足げに目を細めた。

「……さらばだ、人間たちよ。……短くも、悪くない旅であったぞ……」

 その言葉を最後に。

 竜王アルクの巨躯は、眩い光と共に無数の粒子へと分解され、玉座の間の深い闇の中へと完全に消え去っていった。

 後に残されたのは、世界を救った光の勇者の、いつまでも止むことのない慟哭だけだった。

 ───

 それから、どれほどの時が過ぎ去っただろうか。

 光の届かぬ地の底の底。いかなる魔族も、人間も、決して辿り着くことのできない『前人未到の巣』にて。

「ちょっとアイリス! いつまで主様に抱きついてるなの! ルミナも主様にスリスリしたいなの!!」

「あら、これはアルク様のために身を削ったヒロインの特権ですわよ。ルミナこそ、さっきから主様の左腕を引っ張りすぎではありませんこと?」

「ズルイなの! ルミナは主様の第一眷属(予定)なの! アイリスばっかりお姫様抱っこされてずるいなのー!!」

「ふふっ、お姫様抱っこはもうとっくに終わっていますわ。今はこうして、腕の中に収まるのが心地良いのです」

「……お前ら、頼むから少しは静かにしてくれ……」

 豪華な調度品で彩られた広大な地下空間。ふかふかの巨大なソファーの上で、アルクは頭を抱えて深々とため息をついていた。

 彼の右側には、紫髪を揺らしながらべったりと張り付き、勝ち誇ったような笑みを浮かべるアイリス。

 かつての戦いでの失明は一時的なものであり、アルクが注ぎ込んだ魔力と、ルミナの最高位の回復魔法によって、アイリスの目はとっくの昔に完治していた。

 治っているにもかかわらず、彼女は「あの時の名残で、たまに前が見えなくなるのですわ」と嘘をつき、隙あらばアルクに密着して離れようとしない。

 漆黒の影ノワールを捧げたことで、その執着心はさらに研ぎ澄まされたようだ。

 位置としては、アルクの右隣がアイリス。そして左側からは、アイリスへの対抗心を剥き出しにしてポカポカと抗議してくるもう一人の眷属、ルミナ。

『……主。本日の紅茶が入りました。それにしても、あちらの変態魔族はいつまで目が霞むなどと見え透いた嘘をついているのでしょう。本当に忌々しい執着心ですね』

 影から音もなく現れたノクスが、冷たく目を細め、アイリスを心底から軽蔑しきった眼差しで見下ろしながら、毒を吐くようにアルクに報告する。

「ノクス、お前まで余計な報告をするな。それよりお茶請けのクッキーは甘さ控えめか?」

『はい、主に合わせて焼き上げました。あの変態に分ける分はありませんが』

 ノクスは優雅な手付きでティーカップをテーブルに並べていく。

 ここは、アルクが自らのプロデュースの終着点として用意した、絶対の安全地帯だった。

 平和すぎる。そして、やかましい。

 だが、ソファーの上で眷属たちともみくちゃにされながら、アルクは内心でそっと口元を綻ばせていた。

(まったく……。俺の目的は、ただ勇者に魔王を倒してもらうだけだったはずなんだがな。まさか一周回って、こんな騒がしいスローライフに行き着くとは……。まぁ、これはこれで、丁度いいかもしれないな)

 温かい紅茶を啜りながら、アルクはあの玉座の間での「死闘」を思い返していた。

 勇者の剣に貫かれた竜王の心臓。だが、それはアルクの本体ではない。

 魔王から力を奪い取り、勝機を確信した直後。アルクは影の中にいるノクスに命じ、奪い取った莫大な魔力を用いて、アルクと全く同じ構造を持つ『完全な物体としての分身デコイ』を創造させていたのだ。

 勇者が貫き、光となって消滅したのは、その精巧極まりない分身。

 本物のアルクと二大眷属ノクス・ルミナ、そしてアイリスは、ノクスの展開した認識阻害の影の中に隠れ、勇者の涙の結末を特等席で見届けていたのである。

 今、この前人未到の巣は、ノクスが展開する超高度な術式によって絶対の結界が張られ、アルクたちの魔力反応も極限にまで落とされる工夫がなされている。

 地上で新たな主君を探して血眼になっている魔王軍の残党にも、アルクの生存が悟られることは絶対にない。すべてはプロデューサーたるアルクの計算通り、完璧な大団円だった。

 ───

 ふと、アルクはある重大な事実に気が付き、ティーカップを口に運ぶ手をピタリと止めた。

(……待てよ。俺、あの二人の『名前』を知らないな?)

 旅の最初から最後まで、ずっと心の中で「勇者」「魔術師」と呼んでいた。表面上は竜王としての威厳を保つために「勇者よ」「其方」としか声をかけていなかった。

 本来なら、どこかのタイミングで聞く機会はいくらでもあったはずだ。だが、自分自身の極度の口ベタが災いし、名前を尋ねるタイミングを完全に逃したまま、最終決戦まで駆け抜けてしまったのだ。

(あいつ、最後の最後まで『アルク!』って俺の名前を泣きながら叫んでくれてたのに……俺、あいつの本名すら知らないまま死んだ振りをしちまったのか……?)

 世界を救った伝説の英雄と、その後世に物語を伝える偉大な伝承者。

 100点満点のストーリーを作り上げたはずの敏腕プロデューサーは、最後の最後に発覚した自分の致命的な口ベタの弊害に、静かに遠い目をするのだった。

「アルク様? 急に黙り込んでどうされましたの? 私の顔に何かついていまして?」

「主様、クッキー食べないならルミナがもらうなのー!」

『主、紅茶を取り替えますか?』

「……いや、なんでもない。お前ら、クッキーは半分ずつ食え」

 まあ、名前なんて知らなくとも、あいつらが最高の英雄になった事実に変わりはない。

 アルクは小さく息を吐き、再び騒がしくなったソファーの喧騒に身を委ねた。

 世界を救い、歴史の裏側へと消えた最高のプロデューサー。彼の作った物語の幕は下り、ここからは彼だけの、少し口ベタで最高に温かいスローライフが続いていく。

ついに完結です!

「新魔王に祭り上げられる」という最悪のハプニングを、ノクスとの連携で自らの命(分身)を差し出すという超絶力技で乗り切ったアルク。血を吐くような思いで剣を振るった勇者の姿は、間違いなく100点満点の伝説の英雄でした!

無事に世界を救うプロデュースを終え、念願の平和な隠居生活……と思いきや、ヤンデレヒロインのアイリス、毒舌なノクス、元気いっぱいのルミナに囲まれた、想像以上にやかましいスローライフが幕を開けました(笑)。

しかも最後の最後に発覚した「コミュ障すぎて最後まで勇者と魔術師の本名を聞きそびれた」という衝撃の事実! 完璧な黒幕を演じきりながらも、どこか抜けているアルクらしい最高のオチとなりました。

ここまでアルクたちの裏工作と熱い冒険にお付き合いいただき、本当にありがとうございました!

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