101.これからの目標
「はぁ……どうなることかと思ったけど、なんとかなったね」
家に帰ってきて、ベッドに寝ころぶ。私のことを好きだと思う人がその場に二人いると、修羅場になることが分かった。
だけど、その修羅場は人心掌握によって難を逃れる。この特技がなかったら、今頃どうなっていたか……。考えるだけで恐ろしい。
「今後もこうやって乗り越えるか、それとも会わないようにするか……。どうにかして、修羅場になることは避けたい。一体、どうしたら?」
何か良い手段はないだろうか? そう考えていると、ピロンと通知音が鳴り、ウィンドウが開く。
「なんだろう……。特別イベント?」
なんだ、この取って付けたような題名は。また、神様の気まぐれか何かなのか?
そう思って、説明文を読んでみる。
「えっと……。『修羅場になってお困りのようなので、ここで特別なイベントを用意しました! これをすれば、修羅場の心配なし! 告白イベント、です!』」
……告白イベント? まさか、この特別イベントは対象者を絞るイベントってこと!?
「『この特別イベントを実行して、一人に告白し、一人だけを恋愛対象とすることで修羅場を回避することが出来ます。そして、イベントをクリアした暁には10000ポイントを進呈! これであなたも安心で甘い生活が送れます!』……か」
10000ポイントは凄い。この数か月、コツコツ貯めてきたポイントが一気に手に入ることになる。正直、これだけで心が揺れる。
でも、それを手に入れるためには三人の内、誰かを選ばないといけない。
「三人の内で一人を選ぶ?」
いきなりそんなことを言われても困る。それは、誰が一番好きかって決めないといけないことだから。
私、一体誰が一番好きなんだろう。そう考えるけど、全然思い浮かばない。思い浮かぶのは三人の顔だけ。
その顔を思い出すと心はドキドキするし、とても幸せな気持ちになる。
「うーっ……この中で一人を選べなんて、出来ないっ!」
頭を抱えて身悶えする。三人とも気になるのに、一人を選ぶことなんて出来ない。もっと三人と色んな事がしたいのに、色んな反応がみたいのに、それが見れなくなるなんて……!
それに、一人を選ぶと、もう他の二人と深い交流が出来なくなる。それは嫌だ。まだまだ、一緒にいたいのに、一緒にいれないなんて。
離れるかもしれないという事実に心が痛くなる。誰とも離れたくない、そう思ってしまう。
「誰か一人を選ばないといけない展開? そんなの無理だーっ!」
ベッドの上でごろごろと転がりながら、枕に顔を埋める。ぐしゃっと抱きしめて、そのまま足をばたばたさせた。
選べるわけがない。一人を選ぶってことは、残りの二人を選ばないってことだ。つまり――切り捨てる、ということ。
「そんなの……出来るわけないじゃん……」
ぽつりと漏れた声は、思ったよりも弱かった。だって、三人とも大切だ。
一緒に過ごした時間も、見せてくれる表情も、全部が全部、かけがえのないものだ。誰か一人が特別で、残りはそうじゃない、なんて割り切れるほど軽い関係じゃない。
目を閉じれば、それぞれの笑顔が浮かぶ。優しくて、真っ直ぐで、時々ちょっと不器用で――そんな三人。
「……無理だよ」
もう一度呟く。選ぶなんて、そんな簡単なことじゃない。むしろ、選ばないことの方が自然に思えてしまうくらいだ。
でも、現実はそう甘くない。このままだと、また修羅場になるかもしれない。むしろ、確実になる。今日だってギリギリだったんだ。あんな空気、何度も耐えられる自信はない。
「じゃあ……距離を取る?」
ぽつりと、別の案が浮かぶ。三人と均等に距離を置けば、衝突は減るかもしれない。そもそも会わなければ、修羅場にはならない。
……でも。
「それも、やだ……」
即座に否定した。会えないなんて嫌だ。話せないなんて嫌だ。一緒に笑えないなんて、もっと嫌だ。それじゃあ、本末転倒だ。
修羅場を避けるために、大切なものを手放すなんて――そんなの、意味がない。
「じゃあ、どうすればいいの……?」
天井を見上げながら、呟く。答えは出ない。選ぶのも嫌、離れるのも嫌、でもこのままもダメ。完全に詰んでいる。
「うぅぅ……」
再び枕に顔を埋める。考えれば考えるほど、ぐるぐると同じところを回るだけだ。
選ぶ? 無理。
離れる? 嫌。
じゃあどうする? 分からない。
ぐるぐる、ぐるぐる――。
その時だった。
「……ん?」
ふと、思考の流れが引っかかった。今、私はなんて考えた?
選ぶのが嫌。離れるのが嫌。
だったら――。
「……選ばなきゃいいんじゃない?」
ぽつりと、呟いた。その言葉に、自分で目を瞬かせる。
「いや、でも……選ばないってどういうこと?」
普通に考えればありえない。だって、イベントは「一人を選べ」と言っているのだから。
でも――。
「三人とも好きなんだから……三人とも選べばよくない?」
口に出した瞬間、心臓がドクンと鳴った。それは、今までの悩みをぶち壊すような発想だった。
普通じゃない。でも、私の気持ちには正直だ。
「……だって、仕方ないじゃん」
ゆっくりと起き上がり、膝を抱える。三人とも好きなんだ。
誰か一人に絞れるような好きじゃない。だったら――無理に絞る必要なんてない。
「三人とも選ぶ」
はっきりと口にする。その瞬間、胸の奥のもやもやが少しだけ晴れた気がした。
もちろん、問題がないわけじゃない。むしろ、問題だらけだ。
三人がそれを受け入れてくれる保証なんてないし、普通に考えれば揉めるに決まっている。
修羅場回避どころか、もっと大きな修羅場になる可能性だってある。
「……大変なのは、分かってる」
ぎゅっと膝を抱きしめる。簡単な道じゃない。むしろ、一番険しい道かもしれない。
それでも――。
「それでも、手放す方が嫌」
はっきりと言えた。誰かを諦めるなんて出来ない。だったら、全部抱えるしかない。
「三人とも幸せにする」
それが、私の出した答えだった。自分勝手かもしれない。わがままだと思われるかもしれない。でも、それでもいい。
「私が、ちゃんと向き合えばいいんだよね」
三人それぞれに、ちゃんと向き合って。三人それぞれを、大切にして。三人ともが不幸だって思わないようにすればいい。
「……出来るかどうかは、別だけど」
小さく苦笑する。正直、難易度はとんでもなく高い。でも――やる前から諦める理由にはならない。
「三人とも選ぶ。三人とも幸せにする。そのために、色んな手段を手に入れる」
人心掌握のような特技やスキルをガチャで手に入れる。そうすれば、修羅場なんて起きないし、みんなで仲良く暮らしていけるかもしれない。
「よし、これからもガチャを回しまくる! その為には、やっぱり運を上げなければ!」
運が私の運命を握っている。これからも運に全ツッパしていく!
「そして、私がちゃんと三人を幸せにする」
決めたからには、絶対に幸せにしてみせる。どんな形になるにせよ、絶対に泣かせないようにする。これは誓いだ。
大きな目標が出来たからには、全力で邁進していく。私の攻略はまだ続いていく!
ご愛読ありがとうございました。
本当はまだ書きたかったのですが、力不足で申し訳ありません。
もしかしたら、こっそりと番外編とか書くかもしれません。
また、5/2に新作を二作品出しますので、もしよかったら読んでください。
よろしくお願いします。




