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10−5 王都に寄せる影

 月曜の朝一に王都から北の王国に特派員が出発した。捕らえた不審者を迂闊に処分出来ないので、これを前提に交渉を有利に進めようという事になったのだ。とは言え、侵入した工作員があれだけとは思えない。厳重な護衛を付けて国境の関所に向かった。


 月曜の午後、クライブが皆を応接室に呼んだ。

「クリスティンが心配している通り、これが報復の破壊工作で無いと言う保証が無いんだ。校内でも出来れば人のいない場所へ行くのは避けた方が良い」

さて、この場にはレジーナがいない。レジーナがいない時のデボラは要注意だ。だからデボラの席の前にクリスティンは大型犬を象った手に乗る大きさの彫刻を置いた。

「地味子…これは何のつもり?」

「可愛いでしょ?あなたの番犬として置いておくからね。席で暴れたりするとあなたに覆いかぶさって抑えつけてくれる躾けの良い子よ」

クリスティンがふふふ、と笑った。クリスティンが闇魔法を使えると知ると、こんな微笑みもちょっと恐い。もっとも、クリスティンとデボラの間に座っていたイザベラからすると、何をやったか明らかだった。つまり、暗示をかけたんだ。暴れるとこの犬があなたを襲う、と言う事で、本人が暴れた時にその暗示に負けて動けなくなってしまうんだ。犬に覆いかぶさられる幻想を見ながら。


 そんなイザベラをクリスティンが見た。

「あなたも欲しい?」

「無用だ。お前も知っている通り、人前では私は礼儀正しいから」

「そうだっけ?」


 そうして、お茶とフルーツケーキが出た。

「おかわりっ!」

デボラが一瞬後におかわりを要求した。既にこの集団はこの娘にとってホームグラウンドだったので、遠慮は無かった。そしてこの娘にとって甘い物は躊躇せず飲み込む物だった。スイーツは飲み物です。喉に詰まらせるから真似しないでください。

「もっと大きく切ってくれないか?」

カーラも同類だった。夕食が入らなくなる心配はしていないらしい。


「あれは置いておくとして、ジェシカの家の方では何か情報は持ってないか?」

「王都の貴族の情報は殆ど一緒だと思うわ。北の王国がゴタゴタしているから、そちらから情報が入りにくくなっているのよ」

「情報が入りにくいのを利用して、どさくさ紛れに破壊工作をしていると言う訳だね。困ったものだ」

クライブとジェシカに割り込むのも無粋なので、クリスティンはジャッキーに話しかけた。

「後継者争いを傍観している諸侯経由で情報は入らないかしら?」

「どうだろうね。いずれにせよ、こちらの国に近い地方はノルマン公がアメとムチで着々と手懐けているだろうから、正しい情報は入ってこないでしょうね」

「陽動でこちらに上陸していた連中は、今何の仕事をしているのか分かれば良いんだけど」

「どっちにしろ主力じゃないよね。主力はあちらの首都に向かった奴らだろうから」

「だから捲土重来を計ってないか心配なんだけど」

「まあ、その時は微力ながらクロちゃんと一緒にクリスティンを守るから」

ジャッキーとクロちゃんは軽く頷き合った。


 一方、王都に不審な影が増えつつあった。魔法研究所でアニー・バーナードが後輩であるレイラに話しかけた。

「ねぇ、最近野犬が増えた気がしない?」

「そう?どこでもこのくらいいると思うけど?」

「いや、地方ならともかく、王都は結構、清潔な都市だから、餌が足りなくなるのでそんなに野犬が増える筈ないのよ」

「じゃあ、最近ゴミを捨てる奴らが増えたんじゃない?」

「随分適当な言い草ね?」

「だって今まで餌が無くて野犬がいなかったんなら、いま増えた理由は餌があるって事じゃないの?」

「誰がそんなに捨ててるのよ?」

「さあ?仕事がいい加減な料理店とか?」

「料理店の裏口とかは役人もちょくちょくチェックしてるんだけどね」

「じゃあ、屋台?」

「あなた本当にいい加減ね?」

「だって興味ないし。役人がする仕事なんでしょ?」

「まあ、そうだけど…じゃあさ、平民街に浮浪者が増えた気がしない?」

「ノーマネーだから平民街には最近顔を出してないの」

「先月のお給料はどうしたの?」

「サイコロ賭博で負けてオケラ」

駄目人間がここに居た。多少遊ぶだけならまあ良いが、全額使っちゃ駄目だろう。


 ここで貴族の侍従の様な男がやって来た。

「そんなお前達に特別手当が付く仕事を紹介しよう」

「私は別にオケラじゃないです」

アニーが反論するが。

「是非、ご紹介をお願いします旦那様」

レイラが駄目人間らしい卑屈な話し方で答えた。


「さっきから話していた様だが、王都の治安が悪くなっている。野犬が増え、浮浪者が下位貴族街にまでうろつく様になった。それぞれが増えた理由の調査をして欲しい。一件の原因が分かれば特別調査手当として通常の基本手当の50%を与える」

「二件とも分かったら?」

「勿論、特別調査手当は倍の100%を与える」

「是非やらせてください!」

この娘が仕事をする場合、お目付け役として私も付いて行かないといけないのよね…アニーは遠い目になった。

 最初っからこちらはコントとして作劇しているんですが…向こうと比べて単純過ぎる気がしてきました。向こうは頑張るからご容赦下さい。


 明日はキアラの更新です。

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