2−2 氷結の魔女を追え
穏やかな時間は長続きしなかった。また第三王子エドウィンが皆を呼び出したのだ。とりあえず参加賞の昼食はみな黙っていただいた。王子の世間話にはクライブ以外誰も反応しなかった。そしてデザートの時間に王子が本題を話し出した。
「実は今まで3回、裏庭園の泉が凍り付き、学院から外部へ流れる上水道用の小川が凍り付く事件があってね。学院内の人間の犯行と思われるんだ」
クライブがうんざりしながら応えた。
「職員が見張っていれば良いのではないですか?」
「そんなところに張り付かせる余剰人員はいないよ」
しかし今回は被害が出ている。クリスティンが確認したい事を口に出した。
「泉はたしか噴水がありましたよね?凍り付けばその機構に問題が出るのですか?」
「後ろに岩があるだろう?あの中が空洞で水車で持ち上げた水が一定量溜まると水を流して噴き上げる機構になっているのさ。だから目詰まりすると施設内部が水浸しになるね」
「上水道用の小川はせき止められていたのですか?」
「当然、溢れて周囲が水浸しになったね」
「犯人の狙いは何でしょう?愉快犯?」
「狙いが分からないので正規の人員を割くわけにはいかないんだよ。そういう訳で君達に頼みたいんだ」
一見まともな事を言っている様に見えるが、この王子が首を突っ込む理由はなかった。クロちゃんは隣に座るクリスティンを見て、目で問いかけた。
(この男、いちいち首を突っ込まないと気が済まないのか?)
クリスティンはクロちゃんの言いたいことが分かったので、目で応えた。
(鳥頭さんだから首を突っ込みたいんじゃない?)
残念ながらクリスティンとクロちゃんの間にテレパシーは通じていなかったから、クリスティンの瞳の意味がクロちゃんには分からなかった。だから、何となくこの王子は他人を巻き込む厄介者と思う事にした。
「殿下、流れる小川を凍り付かせられる様な者は魔女の里の出身である可能性があります。森の里に加えて水籠りの里まで敵に回すのは得策とは思えません。ご自重下さい」
「そもそも森の魔女の里の噂の調査も進んでいないじゃないか。敵も何もないだろう」
「私が集めたところ、森の魔女の里から来た者の噂は学院内では広まっておりません」
「貴族界隈だけだろう。平民はどうかね、クロード?」
「魔女の里の噂は1年4組では聞かねぇな」
「君は寮生だろう?泉や小川の監視は遅くまで出来るだろう?」
「寮生は19時門限だ。その後はどうしようもないぞ」
「クリスティンは女子寮だろう、出入りする者を監視くらい出来るだろう?」
「私は荒事は苦手なので、人の気配などは分かりません」
よく気配を消しているクリスティンらしからぬ発言だったが、王子はそれを知るまい。クライブは聞き流した。
「では、出来る範囲で監視してくれ給え」
毎日一回見回りをすれば良いか、くらいに二人は考えた。
応接室から暫く歩いて追跡者がいない事を確認して、クライブは話し始めた。
「クロちゃん、分かってると思うが…」
「分かってる。水籠りの魔女の里から来た魔女がいるとしたら、勝負にならない。見つけたとしても追跡はよっぽど離れてする」
クリスティンは水籠りの魔女の里の事は詳しくなかったから尋ねる事にした。
「水籠りの魔女は何か特徴がありますか?」
クライブも首を捻った。
「特徴があるとは聞かないな。水魔法専門だとは聞くが。魔女の里の魔女は里により特色があるのかな?」
「炎熱の魔女達は感情的だとは言いますね」
「それ凄いイヤなんだけど」
「近寄らない方が良い人達ですよね」
「それで、クロちゃんとクリスティンは一日一回は一緒に夕方、泉と上水道を見て回ってくれるか?」
「はい」
「分かった」
「他の者は水魔法師をさりげなく監視してくれ。さりげなく視線をやるくらいで良い」
「そんなところかな」
「5組はそろそろ魔法が微妙な人間のクラスなんですがね」
「それならそれで良いさ。強い魔力を持つ者がいたら気を付けてくれ」
「分かりました」
この日は応接室で勉強をする気にならなかったから、一行は裏の泉に向かった。
「そんなものを凍らせて何が嬉しいんだ?」
クリスティンが想像出来るのは水生成工程の短縮だ。
「大規模氷結魔法を練習したいのだけれど、水生成の工程を省略して魔力の節約を図っているのかもしれませんね」
「それは、練習不足の下級生が上級魔法を練習する為の工夫だろうか?」
「あくまで一つの推測ですが」
「いや、参考になるよ」
「じゃあ、普通に暑がりだから氷を作ったって説はどう?」
ジャッキーだった。
「上級生の練習ならありものの水じゃなく、水生成から練習するだろ。試験ではそこからやるんだから。だから下級生か魔力が低めの者か、となるだろうな」
そうして話がながら泉に着くと、冷気が漂っていた。つまり、凍っていた。
「ほら、やっぱり暑がりの人がやったんじゃない?」
「このまま夕方まで解けないとなるとかえって寒いだろう…」
泉の凍結状況を見ると、手前は平らだが、奥に行くに従って歪みや盛り上がりがあった。つまり、手前から凍結魔法を徐々にかけたのだろう。
「一気に凍らせたのなら手前が平らで奥が歪む、という状況ではなく、真ん中が盛り上がりそうですよね…」
「やはり魔力または魔力制御が比較的未熟な者の仕業という訳か」
ジャッキーは泉の氷に乗ってみた。割れないし沈まなかった。
「頑丈だねぇ」
クライブはこれだから苦労が絶えなかった。
「危ないからさっさと降りろ。まだ凍ったばかりだから割れないだけで、時間が経てばもろくなるぞ」
「つまり、そろそろ人がいなくなると思ったから犯行に及んだんでしょうね」
「通いの生徒ならもっと早くにやるだろうな。そうなると寮生が犯人の可能性が高いな」
「門限のない職員なら19時以降に人気のなくなった後にやれば良いんですからね」
推測しているのは二人だけだった。つまり、残りの三人はやはり脳筋なのだろう。
次回は火曜に更新予定です。ちょっと予定を変えて、10月中は隔日更新したいと思います。次の中編小説のシリアスものの設定が中々固まらないんで、少しこちらを書くかな、と思っています。
あと、タイトルを変えるかも。これからクロちゃんも軸になるだけにこのタイトルはないかな、と思っています。




