8−7 視察 (1)
レジーナが王都に戻ってきたその数日後、第三王子エドウィンの招集があった。
「東の海で異変があるとの通報があり、レジーナを調べに行かせたところ、アザラシと思われる海獣が見つかった。その影響とは言い切れないが、漁獲が減っていると漁村の人間が言っている。その相関を確認する為に、金曜にこちらを出て、土曜一日をかけて調査しようと思う。どうしても外せない用がある者は言ってくれ」
クライブが挙手して発言をした。
「生き物については事前調査はされたので?文献等で?」
「ああ、西の帝国の情報の中で、フォーカと呼ばれる生き物、つまり彼の国の言葉でアザラシの事なのだが、その生態について書かれた文献があった。写しを持ってきたから見てくれ」
クリスティンが目を輝かせて単語を読み上げた。
「アザラシ…成獣の体長は7ft前後…基本的に肉食…目がクリっと大きい…恐い顔なのかしら、キュートな顔なのかしら…」
イザベラが小声で呟いた。
「ああ、おかしくなってきたな…」
ジェシカがその言葉を拾った。
「おかしい?何が?」
「前に言ったろう、動物好きなので愛情が歪んでいると」
「ああ、成程、変わった生き物だから」
「現地で取り乱さなければ良いがな」
「そんななの!?」
「そんなだ」
こんな風にイザベラはクリスティンの歪みを良く理解していた。愛故に。その愛が歪み切っているのだが。
クライブが一応、確認しないといけない事を口に出した。
「金曜出発と言う事は、金土の授業は休むことになるのですか?」
「王家からの依頼でペナルティなしの休みとなった」
クリスティンの瞳がきらきら輝いた。彼女の他に何が何でも学院の授業を受けたいという真面目な者はいなかったから、この王子の発言は歓迎された。もちろん、クリスティンにとっても、この辺りに生息しない生物が見れるかもしれないという機会は授業に優先するものだった。
金曜日の朝、王子の馬車はともかく、クライブ、ジャッキー、クロちゃん、クリスティンは同じ馬車に乗った。魔女用馬車では、イザベラ、ジェシカ、カーラの中にエグバートが乗る事になった。なかなか恐い面子だったので、エグバードは口をしっかり閉じていた。もちろん、魔女達はそのエグバートを置物として扱った。レジーナとデボラは別の馬車に乗ったが、二人とも相手に遠慮せずに居眠りばかりしていた。
クライブ達の馬車では、考えられる進展の考察が進められた。
「まず、何頭くらいいるのか確認しないといけないな。それにより対処が変わってくる」
クリスティンとしても出来ればそのまま繁殖して欲しいとは思うが、現地の人の考え次第である。
「漁村があるとの事ですので、いずれにせよ他所に行ってもらう事になりそうですね。残念ですが」
ジャッキーが言葉を挟んだ。
「その場に住みついて欲しい?」
「私の今後の研究テーマの一つが動物の生態調査だから、この国近辺に居ない動物が住みついたら、今後の調査の対象としたいんだけどね。現地の人の生活に支障が出る様な生き物の乱入は避けるべきでしょうね」
「アザラシを追い出すには何が有効かな?」
「動物にもよりますが、弱い動物なら強い動物の臭いで逃げる事もありますし、陸上の生き物なら他の生き物の痕跡があれば逃げ出す可能性もありますが、海ですからね」
「そもそも、アザラシは何故この国の東の海に現れたんだろう?」
「そこですね。内海の方に生息しているなら、わざわざ出て来たというのは強い生き物または強い群れにより追い出された可能性があります。海流的に、こちらにくるとは思えませんから。大陸の南の方の群れから来た可能性もありますが、残念ながら大陸の南の方に生息しているかどうかは不明です。これまでの目撃証言が無いという事から、南の割と近いところに営巣地があるとは思えません」
「それだと一匹で済まない可能性がある訳だ」
「そうですね。だから数量を数えるのが第一とは思います」
そんな風に真面目な話をしているのはクライブ達の馬車だけだった。もちろん、王子の馬車で真面目な話をしていたか不真面目な話をしていたかは不明だ。ちなみにイザベラ達の馬車では、クリスティンの恥ずかしい話が暴露されていた。
「まずクリスティンが一山向こうの川で亀を見つけて、それを飼うために川から水を引いて池を作った。もちろん小さな子供のやる事だから降水時の決壊などは考えていない。それで大雨の時に決壊して山肌を削って一部がはげ山になった」
「子供らしい考え無しとは言え、酷い環境破壊ね」
「子供とは言え、悪さをしたら叱ってやらないといけないな」
…カーラは悪さをする度に叱られたのだろうか。どう見ても反論が煩いから放置されていたとしか思えない程口が悪い女だった。
「次に、狐の親が熊に襲われて子狐だけになってしまったので、それを飼う為に山に穴を掘った」
「また大雨で山崩れを起こした訳ね。懲りない奴」
「大体、何で家に連れて帰って親に怒られなかったんだ?その程度の知恵はあったのか?」
「我々が物心付いた時にはもうあいつの家には番犬代わりの狼のアッシュがいたからな。家には連れて帰れないし、そもそも他の生き物の臭いがしたらアッシュが怒って近づけない。だからあいつは毎日家に帰る前に川に飛び込んで臭いを消していたんだ。それを乾かすのに毎日ドライの魔法を使っていたから、あいつの水魔法が上達したのはそのせいだ」
「悪さを胡麻化すので上達したというのね。性質が悪い」
ジェシカのクリスティン評はとにかく悪い。素直に彼女の能力を妬んでいるんだ。もちろん、素直なら良いという問題ではない。と言うか、行程中ずっとクリスティンの話題を喋れるイザベラのクリスティン愛は深いが、一々悪く言うところが歪んでいる。
アザラシの鳴き声の表現に迷っています。
木曜はキアラの更新です。こちらは日曜に更新します。




