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8−3 下期の始まり

 クライブの予想通りに王子からの全体招集は無かった。クリスティン自体はイザベラの事で一度呼ばれて話をしたが、それで終わりだった。


 魔法学院の下期の始まる日、授業前に1年2組の教師が一人の女生徒を連れて来た。

「第三王子エドウィン殿下の紹介で、下期からクラスに加わる事になったイザベラ嬢だ。皆、仲良くして欲しい」

教師の隣でイザベラが会釈をした。そのままクリスティンの近くに座りに来た。

クリスティンとしては眉間に皺を寄せてイザベラに話しかけた。

「どういう事?」

イザベラは愛想笑いをしようとして失敗した。表情が崩れただけだった。

「殿下が世話してくれたんだ」

クリスティンはイザベラの襟首を掴んで引き摺って1組の教室に入って行った。

「王子様、どういう事ですか?」

第三王子エドウィンは微笑んだ。凄むクリスティンが心胆寒からしめてくれるのを楽しんだんだ。

「イザベラ嬢も王家雇いの魔女となったのだが、王都に慣れる間に学院に通う事になったんだ。そうすると同郷の君に任せるのが最良の策だと思うのが普通だろう?」

クリスティンとしては里ではイザベラに迷惑をかけられたし、イザベラが懲りない性格をしているのを説明した筈だったのに、全く考慮してくれない王子様はやっぱり性格が悪いと怒りを感じた。

「深い意図は無いと仰るので?」

「もちろんだとも」

この王子は本当に相手の気持ちを読んでくれない、とクリスティンは怒りの念を飛ばした。意味は無いと分かっていながら。ところが王子はそんな怒りを飛ばしてくれるのを喜んでいるのだ。クリスティンには他人の怒りを楽しむ性癖はなかったから、そこを理解出来ていなかった。ちなみにイザベラはクリスティンに襟首を掴まれて喜んでいた。構って貰えて幸せなのだ。


 そういう訳でクリスティンはイザベラを引き摺って2組に戻った。

「出来れば授業中に騒ぐのは止めて頂戴」

「うん、休み時間以外には騒がない」

「出来れば人目を気にして騒ぎ方には注意して」

「お前の問題行動が無ければ騒ぐつもりは無い」

「私に問題行動などないでしょう」

「本人が気づかないだけで色々問題があるだろう、主に常識面で」

「あなたに常識を語られても説得力がないわ」

「自分の言動にも問題がある事は分かるが、評価というのは他人がするものだ。お前にも問題がある事は覚えておいた方が良い」

「無いわよ、別に」

そう言ってクリスティンは先程座っていた、イザベラと二席分距離を開いた席に座った。


 隣に座っているジャッキーは一応経緯を聞いてみた。

「殿下は何だって?」

「イザベラは王家預かりだから慣れるまで学院に通うけど、その間は同郷の人間が世話をしろとのお達しよ」

「まあ、同郷の方が気心が知れているか」

「別に親しくないからよく分からないわ」

「分かった。手に余る様なら手伝うよ」

「手伝う必要もないけど、私がキレそうならお願いね」

「いや、怒れるクリスティンの世話は無理だけど」

「普通に同級生を宥めてくれれば良いでしょう」

「普段大人しい人がキレると手に負えないのよ」

「そうそうキレないから安心して」

「まあ、キレてなくてもイラっとしたら言って。ボケるか突っ込むかするから」

「ボケはしないから突っ込まなくても良いわ」

「そうなんだ。デボラが驚くよ」

「何でよ」

「何でも」

そうして教師が入って来たので、二人の会話は終わった。


 その日の放課後はクライブの音頭で魔法練習をする事になっていたから、イザベラも付いて来た。

「そういう訳でイザベラは2組に編入しました」

クライブとしては王子が他人の気持ちを気にしないのは知っていたが、わざわざ嫌がる事をするのもおかしいと思いはした。まだ王子の変化に気付いていなかったんだ。

「そうなると、イザベラもこのチームの一員扱いなのかな?」

クリスティンは露骨に嫌な顔をした。

「えー、どうしましょう…」

クリスティンが途方に暮れるのは珍しいので、クライブは優しく微笑んだ。

「まあ、仲良くしてあげてくれ。問題があるなら仲裁するから」

「…そうですね。特に喧嘩をしなければ良いか」

そう話している間に、ジェシカがイザベラに近づいた。

「この間はクリスティンに色々言っていたけど、別に嫌っている訳ではないのでしょう?」

「それはそうだけど、問題児にはちゃんと指摘をしないと理解してもらえない」

「問題児だから理解してくれないのでしょう。ちなみに彼女の美的センスに問題がある事は里ではどう言われていたの?」

「美的センスというか動物好きなので、愛情表現が歪んでいるとは言われていた」

「ああ、なるほど」

それで魔法棒に謎生物を刻みたがるのか、とジェシカは理解した。

「そこ、何か誤解しているでしょう?」

クリスティンは指摘したが。

「誤解じゃなくて、適切に理解しようとしているのよ」

「誤解ではなく事実だ」

微妙にジェシカとイザベラは気が合っている様だった。

 昨日更新したつもりだったので文字数少なめになりました。次回更新は土曜になります。

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