7−9 サバトを始めよう (4)
ファイアーアローは高密度の魔法だし、他の火魔法よりは空気抵抗が少なかった。それでも火が飛ぶ魔法である。着弾まで一瞬以上の時間があった。だから、相手が自分の魔法の制御で手一杯で動けない時に放つべきであった。かってレベッカはそこまで考えてファイアーアローを使用した。今、ジェシカは魔法攻撃を終えており、迎撃の準備をする時間はあった。避ける事も可能だったが…彼女は迎撃を選択した。左手を前に向け、雷撃で吹き飛ばした。
「何だと!?」
そう、ジェシカは火魔法ならバーバラより格下だが、雷撃魔法使いとしては火魔法使いのバーバラより格上の魔法師だった。だから魔法の干渉力で勝っていた。何より物理現象としての空気放電は空気の燃焼である火より細かかった。電子の流れなんだから。
焦ったバーバラは同じ魔法を繰り返した。ジェシカはそれを雷撃で迎撃する準備を左手で行いながら、右手の竜の魔法棒でファイアーアローを形成した。ジェシカはバーバラの『ふざけた魔法棒』という言葉でキレていた。
(こいつも!クリスティンも!見下した挙句にこんな魔法棒押し付けて笑いものにして!絶対許さない!)
…別にクリスティンはジェシカを見下していない。カーラより上だとは思っている。魔法棒もジェシカを心配して与えたものなのだが、被害妄想癖の強いジェシカは自分の周りで一番強力な魔女であるクリスティンの存在自体に僻んでいた。クライブ何とかしてやれよ、という状況であった。
そういう訳でキレたジェシカは竜の魔法棒が無ければ彼女では発動しようが無いファイアーアローを放った。同時に雷撃でバーバラのファイアーアローを吹き飛ばした。直前まで自分のファイアーアローの制御をしていたバーバラは、ジェシカの放った魔法がファイアーアローであると認識するのが遅れた。
(不味いっ)
渾身のファイアーウォールで防御をしたが、ファイアーアローは貫通した。バーバラに直撃したファイアーアローは爆発し、バーバラは吹き飛ばされた。
ぽろぽろと涙を流しながらジェシカは倒れたバーバラに近づいた。そう、ジェシカは所謂泣いてキレる〇狂状態だったのだ。バーバラは気絶していた。ロングコートを焼失し、その下の服も半分以上焼失して黒焦げの布が残って何とか体を隠している状態だった。露出した肌は焦げていたり、赤く発色していた。炎熱の魔女として一番恥ずべき火傷を顕にした姿だった。ジェシカはバーバラの足を持って、引きずりながら東公園に戻って行った。火傷を負った上に擦過傷。バーバラはかなり酷い目に遭っていた。
一方、クリスティンは南東の上空にいる魔女に向かって空をてくてく歩いて登っていた。
(闇属性だけど、多属性使いみたいね。空に昇るという事は、土魔法属性は無し。私対策という事ね。よくやってくれる事)
そんな風に相手を分析しながら、特に急ぐ用でも無いからのんびり歩いていた。坂を上る、降りる時はペースを守らないとバテてしまう。田舎育ちなら皆知っている事だ。暗黒の魔女はいらいらしている様だったが、知ったことではない。相手と対峙した時に息も絶え絶えでは話にならないのだから。
そういう事で大分待たせた後、クリスティンは暗黒の魔女と同じ高度で50ft離れた場所に辿り着いた。
「随分待たせるのね?焦らしているつもり?」
濃紺のドレスを着た暗黒の魔女は、腰に両手をあてて胸を張って言葉を発した。
「のんびり待つくらいだから大して急いでいないのでしょう?こちらも急ぐ用でもないと思ってのんびり歩いていたのよ」
相手の暗黒の魔女はこめかみに血管が浮かんだ。
(このくらいで青筋を立てていたら身がもたないでしょうに)
どちらにしても急ぐ気の無いクリスティンとしては相手が殺気立ったところでマイペースでやらせてもらうが、とは言え相手の性格の一端は分かった。
「さあ、サバトを始めましょう!私は暗黒の魔女、レイラよ。森の魔女、名乗りなさい」
「どうせ名前も聞いているのでしょう?後で因縁を付けられても困るから、このまま好きに始めて頂戴」
別にクリスティンとしては挑発している訳ではなかったが、まともに相手をしてもらえないレイラは怒りに震えていた。
「黒焦げになって後悔しなさい!」
レイラは頭上に魔力を練って火の玉を作り、だんだん大きくしていった。直径30ft程度になったところでクリスティンはその火の玉の底の一部分に接する空気を奪った。燃焼を続けられなくなった火の玉の底の部分は歪み、球体を保てなくなった火の玉は瓦解し、下に落下した。
「ぎゃーっ」
レイラは火を浴びて服の一部に穴が開いた。ちなみに根が闇属性なので火炎に対する耐性は人並である。
(ぎゃーとか言っても、アイスちゃんなら子供っぽくて可愛いと思えるけど、この娘だと単に品が無い様に聞こえるわ)
密かに愛されているデボラだった。
暗黒の魔女レイラは気を取り直して前面の空気を回し始めた。段々周囲を巻き込んで大きくなった横向きの竜巻は、クリスティンの方に近づいてきた。
(のんびりと魔法を続けるのね。どういう教育を受けたのかしら?)
クリスティンは今度はサイクロンらしき上級魔法の風の流れの側面に、上から大きなアイスランスを作って落とした。
楔を打たれたサイクロンは流れを乱して拡散してしまった。
「あ…」
レイラの口から間抜けな声が漏れた。
レイラは何とか集中力を取り戻して水魔法に切り替えた。彼女の前面に水を集め、縦に伸ばしていった。
(ビッグウェーブねぇ…さっきから大きな魔法を出したがるけど、相手の対策が間に合わない速度で攻撃出来ないと意味がないでしょうに)
クリスティンはビッグウェーブのレイラ側の、レイラの少し上の水を3ft程の幅で蒸発させた。当然、バランスを崩したビッグウェーブの水はレイラ側に流れていった。
「うぎゃーっ、溺れるぶくぶく…」
空で溺れるって器用な事ね、とクリスティンは他人事の様に思った。実際、溺れているのは正真正銘の他人だし。
レイラは渾身のドライで何とか顔周りの水分を飛ばして息を吹き返した。
「あんたねぇっ!魔女ならもっと大きな魔法を堂々とぶつけなさいよっ!」
レイラはそう言うが、クリスティンには労多くして得る物がない、大規模魔法のぶつかり合いに意味を感じていなかった。
「魔女なら相手の妨害を受けない攻撃をしなさい。ママに教えて貰わなかったの?」
『ママ』という単語に子供扱いされていると感じてレイラは怒りに震えた。クリスティンにしたら、魔法戦で同等の魔法をぶつけ合う様な事は母親から教わっていなかった。
クリスティンの初めての魔法戦は母親相手の模擬戦…だった筈だが、5才のクリスティンの放ったファイアーボールに、母は30ftの高さのビッグウェーブで対抗した。溺れたクリスティンに人工呼吸をして蘇生してくれたのは母の仲間だった。母は教える事だけ教えると自分の研究に戻って行った。つまり獅子はウサギ一匹倒すにも全力を尽くすべきだ、と教えた訳だが、子供心に親に反発したクリスティンは、最小の手数で相手の意図を挫く手法を心がける様になったのだ。
えっと、ダレカノ、だと該当する作品が多そうだから、カノオトと略しましょうか。あちらをお読みいただいた方、ポイントをくださった方、ありがとうございました。ポイントをもらえるとは思ってなかったんです。
次回は木曜に更新します。




