7−6 サバトを始めよう (1)
その夜の前の日の夕方に、第三王子エドウィンは第三王子特別調査隊の面々に翌日夕方の招集をかけた。風塵の魔女カーラ以外の魔女達は貴族街の東公園に、その他のメンバーは学院裏の林に招集をかけた。そういう訳で、森の魔女クリスティン、雷鳴の魔女ジェシカ・フィールディング、氷結の魔女デボラ・パーマーの三人は学院に人を集めた意味を知らなかった。
クリスティンが来るまで、ジェシカとデボラは気まずい雰囲気で立ち尽くした。二人共、里での虐めの後遺症で人見知りする癖があったのだ。ベージュのドレスを着たジェシカは少女の目から見ても美しかったから、魔女としての自分に自信の無いデボラは声をかけるどころか俯きながらちらちら盗み見る以外出来なかった。デボラ自身は水色のドレスを着ていた。幼い外見も含めてかなり子供っぽかった。
そこにクロフォード家の馬車がやって来た。馬車から降りた少女は金髪碧眼で、薄い黄緑色のドレスを着ていた。侍従に紙袋を渡され、それを手にして二人の魔女に声をかけた。
「人見知りさんが二人揃うと雰囲気が悪いわね」
ぽかんとしたデボラが口にしたのは、疑問の言葉だった。
「どちら様ですか?」
「嫌ね、髪の色を変えたくらいで知らないフリするなんて。いつも面倒見ているのに」
ジェシカは魔法の波長から察した。
「クリスティン…髪も目も偽装していたのね」
「えっ!?偽装!?」
デボラは鈍い女だった。
「髪と目は偽装じゃなくて色を変えてただけよ。聖魔法が使えれば簡単でしょ?」
二人の魔女はうんざりした。聖魔法が簡単に使える訳ないだろ!…と劣等感を表に出したくないデボラは、それ以外を指摘した。
「だっていつもそんなに鼻筋通ってないじゃん」
「そこは光学偽装よ」
まあ聖魔法と光魔法はほぼ同属性だから使える事もあるか、と二人は納得した。
「ところでカミナリさん、いつぞやの借りを返すわ。実戦で使ってみて。きっと気に入るから」
と言ってクリスティンが取り出したのは、棒の先に下腹部が見事なカーブを描いた竜が透明の中にピンク色が点在する宝石を抱えた魔法棒だった。デボラはその宝石を知らなかった。
「濁ってる?」
「ストロベリークォーツよ。まあ使ってみて」
しかし二人の魔女は二人共その竜のぽっこりお腹が気になった。
「地味子…もうちょっと恰好良い竜にならなかったのか?」
「この良いカーブが出るまで三本ゴミにしたんだから、是非褒めて欲しいわね」
「いや、褒めろと言われても…」
ジェシカは外見は一先ず放っておこうと思った。もっと大事な事があるからだ。
「それで、この魔法棒は何かご利益があるの?」
宝石については、言わない方が良いかな、とクリスティンは思った。
「使ってみれば分かるわ。ご利益なんてものじゃなく、実用的に作ってあるから」
「あなたがそう言うならそうなんでしょうけど…」
はっきり言わないクリスティンにはっきり聞くのも癪だから、ジェシカはとりあえず黙って受け取る事にした。
「ついでと言っては何だけど、アイスちゃんにも新作を貸してあげるわ」
そう言ってクリスティンが取り出した魔法棒は、棒の先に穴子の八幡巻状態の魚の先がラッパ状に広がった中にラピスラズリが収まって、その横の八幡巻きの端でウツボらしき顔が口を開いてキバを見せているものだった。
「…地味子…これは何かの嫌がらせなのか?」
「馬鹿ねぇ、実戦に持ってきてあげるんだから、ご利益があるものよ」
「えー、それより見た目が良いのが良い」
「あなたには見た目より大事な事があると毎回言っているじゃない」
「でもさぁ…」
隣で見ているジェシカでさえ、これならまだ竜の方がマシに見えると思っていた。暴力的な力を持つ魔女は大体が普通の美的センスがない。言って聞かせられる程の実力を持つ者が他にいないからだ。
「さあ、そろそろ相手が来たみたいよ。アイスちゃんは公園から東に進んで。水属性の魔女がいるわ。カミナリさんは西に進んで。火属性の魔女が貴族街の西側から歩いてきているわ」
ジェシカはクリスティンに尋ねた。
「あなたはどうするの?」
「南東方向の上にいるでしょ。そこまで歩いて行くわ」
ジェシカはクリスティンに言われてから魔法探査をしていなかったから、敵側の魔女には気が付いていなかった。
「分かったわ。私は急いだ方が良いかしら?」
「そうね、アイスちゃんはゆっくり歩いて良いけど」
「うん…」
デボラはウツボ魔法棒を見て随分緊張が和らいだが、多分里の先輩と対決しないといけない事を思い出して、大分元気が無くなった。
「とりあえず魔法が間に合わなくなったら逃げなさい。たまに隙をみて反撃する事を忘れずに」
「うん…」
「カミナリさんは大丈夫ね?」
クリスティンに反発気味の自分にはあえて『大丈夫』と言い切る彼女にジェシカは反感を覚えた。クリスティンの狙い通りの自分の感情にジェシカはイラっとしたが、つまり『しゃんとしろ』と言うクリスティンなりの発破なのだろう。
「大丈夫よ」
そう言わざるを得ないジェシカだった。
「あなたは今は優等生でしょ?自信を持って対峙しなさい」
「…あなたみたいな人には努力で何とかする優等生の気持ちなんて分からないでしょうね…」
「何言ってるの。何事も種を撒き、水を遣り、手塩をかけて育てないと花は咲かず、実も実らないものよ。努力するあなたを美しいと言ってくれる人がいるのだから、それは正しいのよ。その道を進みなさい」
ジェシカはクリスティンの言葉に反発していたから、何を言っているのか気付くのが遅れた。
「なっ…それは私達の問題だから!」
「お兄さんは良い人だから、幸せにしてあげてね。だから今は、因縁のある相手が出てくるかもしれないけど気にせず叩きのめしなさい。じゃあ、私は行くから」
そう言ってクリスティンは空中を階段を上る様にてくてくと登って行った。上、と言ったから飛んで行くのかと思ったら、なんとなく間抜けな階段上りで上がっていくクリスティンに、二人の魔女の緊張感が和らいだ。とは言え、クリスティンとしては別に意図してやった訳では無い。飛んで行く程急ぎの用じゃないと判断してゆっくり上って行っているのだ。つまり、クリスティンは今回も全く緊張していなかった。
あ、ダンスパーティで書いとかないといけない事書き忘れてた。後で書き加えよう。2月になったら…あれ、あと2週間あまりで2月?蝙蝠の続編の設定考えてないや。
次回は金曜に更新です。順番に困ってます。




