5−10 潮の香り
食堂では焚きこみご飯と魚介のクリーム煮が出た。風塵の魔女カーラは当然突っ込みを入れる為に料理の内容を質問する。
「この焚きこみご飯の具は何?」
女将は笑顔を浮かべて答える。不穏な空気は気付かないフリをしている様だ。
「リングはカラマリですね。丸いのはオクトパスです。後は見た通りのエビと貝です」
「オクトパスだと!デビルフィッシュを食わせるとは何事だ!」
とりあえず外部の人に迷惑をかけるのだけは止めて欲しいと、クリスティンは助け船を出した。
「デビルフィッシュ等と言っても、泳ぐ姿が醜悪なのと、海中で墨を履いて銛漁師に迷惑をかけること、絡みついて張り付いたりするのが怖いだけよ。煮てしまえば怖がる必要はないわ」
「別に怖がっていない!そんな物が食えるかという問題だ!」
「女将さん、これは西の国の料理でしょう?旅行者の話題になる様にと出しているのよね?」
女将さんは明るい笑顔で答えた。
「ええ、夏に来るお客さんには評判で、わざわざこれを食べに来られる方も多いんですよ」
「そういう事だから、さあまず頂きましょう?そうして学院に戻ったらせいぜい自慢話にするといいわ」
そう言われると話題の料理を食べずにはいられない。それが人情というものだ。クライブはクリスティンの方を向いて顔の前に片手を立てた。そう、メンバーの調整をするのはクライブの役目だから。ただし、カーラの様な女の扱いは女同士でも難しい。恋人でもない異性が機嫌を取るのは難しかろう。だからクリスティンは小首を傾げて返事をした。
ところが、そこは無駄に文句が多いカーラである。デボラまで同調し出した。二人とも文句の多い女である。
「固くて噛み切れないぞ!」
「私、カラマリって固いから嫌い!」
二人を除いた全員が思わず下を向いたが、クリスティンがこの二人を前向きにさせる一言を告げた。
「オクトパスもカラマリも、ダシとして味が出るの。そして、この二つや貝は歯ごたえを楽しむものなのよ。大人の女ならそういう楽しみも知ることね」
こんな事で騒ぐと子供っぽい、と指摘してやった。仕方なく二人はもぐもぐと噛みしめる事にした。
ハワード家の領地は海沿いではないが、兄妹は味わい方を知っている様だ。
「カラマリの微妙な味が煮物に出て良いんだけどね」
「ちょっと魚介臭いのが不満だけどね。汁に出る味は良いよね」
クリスティンもそこまで海よりの村の出ではないから、臭いはちょっと気にはなっていたが。
「臭いは潮の香りと思えば良いでしょう」
「そりゃそうだね」
ちなみに、クロちゃんは普通にオクトパスもカラマリも噛み切っていた。変わった食材を純粋に楽しんでいた。
帰りの馬車でクライブは多分話しておきたい事を口にした。
「こうも平和でいられると良いんだがね…」
クリスティンも懸念している事がある。
「王子様の動きが気になります?」
「そういう事だね。噂だとあと二人魔女がいる事になるから、そこに口と手を出さないと良いんだが」
「一人は陽動ではないか、と言う話も養父に聞きましたが?」
「そうだね、元々噂のあった二人の内、一人は口説いた格好だから、もう一人にもちょっかいを出すとは思うが」
「もう一人、についてはどなたか心当たりは?」
「尻尾は出していない様だよ。こちらでは把握出来ていない。そちらはどうだい?」
「そこは養父頼りですので、ハワード家に勝るとは思いません」
「スタンリー伯の情報網も馬鹿に出来ないとは思っているけれどね」
クリスティンの養父の爵位、クロフォード男爵はスタンリー伯爵家の従属爵位だった。
「そこは私には判断出来ないんですが」
「まあ、有力情報があれば教えて欲しいね」
「多分、王子様から話が来る方が早いと思いますよ」
「そうだね。耳は良いからね」
王子の周囲に付けられた情報員の出来はともかく、王家の諜報部署は当然耳が早い。
「属性だけでも分かると対策が取れるのですが…」
「1年以上隠れていると思われるから、今更尻尾は出さないと思うけどね」
「まあ、属性はともかくフォーメーションは前2,中に魔法2、後ろが3とはなりますが…」
「カーラの魔法は頼れるかい?」
「いずれにせよ攻撃性が高い性格をしていますので。前の方に置くべきでしょう」
「同士討ちされない様にかい?」
「まあ、ジャッキーとクロちゃんなら気配で避けられるでしょう」
「信頼されてるのは良いけど、本当に見境なく撃ちそうなのが怖いよね」
「まあ、風塵の里の出だからあんなものかもな」
前衛二人もカーラの人格は信用していなかった。クライブとしては、それでも一番重要な属性が分からないのでは損害が出る可能性が気になるところだ。
「属性についてはもう少し調べてもらう事にするよ」
「お願いします。私としても養父にあまり迷惑をかけられませんので」
「ああ、実家頼りなので申し訳ないが」
「使えるものは使う事を覚えておいた方が良いのでは?卒業後にどの様な道に進むか存じませんが」
「出来れば婿入りの話があると良いんだけどね」
ここでジャッキーが口を挟んだ。
「何言ってんの!」才媛のジェシカを口説かないと!」
「いや、あの娘は気難しいからね…」
北風さんやアイスちゃんよりはマシではないか、とクリスティンは心中思っていた。
ちなみに、タコが高騰している様です。国内のタコの水揚げが減少しているのと、海外でもスペイン料理などでタコを使うので、取り合いになっている様です。WBS報道から。マスコミを十把一絡げでマスゴミと言う人もいますが、経済関係は日経がらみの情報が分かりやすいですね。
明日は蝙蝠の更新です。




