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5−6 ダンスパーティに向けて

 クロちゃんの服の直しは終わった。女生徒は一人で着れないドレスを持ってくる訳にもいかないので、クリスティンはワンピースを着てダンス練習をした。

「うん、クロちゃん、とっても素敵よ」

「クリスティンの私服も可愛いよ」

「ふふふ、ありがとう」

二人は幸せそうに微笑みながら練習をした。

「クロちゃんや…威嚇フェイスはどこいった?」

「ああ、本番はちゃんとする」

ジャッキーの突っ込みもクロちゃんは条件反射で応えるだけで頭に入っていなかった。

「まあ、素直に笑って躍らせれば良いじゃないか」

クライブはそう言うが、ジャッキーから見ればおめかししたクリスティンは大分魅力的だから、会場で無理押しする男がいるんじゃないかと心配していた。

「上級生とか上位貴族とかに誘われたら断れないし、義兄がまた何か言いそうじゃない」

「上位貴族の令嬢も沢山いるから、上位貴族はそっちのお付き合いで手一杯さ。困った事になりそうなら私も声をかけるから」


 練習を一休みするクリスティンに、風塵の魔女カーラが声をかけた。

「なぁ、あんた、ケモノを甘やかし過ぎじゃないか?」

「可愛い子犬を可愛がるのは飼い主の義務よ」

「可愛いって顔してないだろ?目がおかしいのか頭がおかしいのか?」

「人それぞれよ。他人の趣味には寛容な方が良いと思うわ。その方が社会が円滑に回ると思わない?」


 近くで『可愛い子犬』発言を聞いていたクロちゃんは机に突っ伏した。

今度こそ、ダンス用スーツで男らしさをアピール出来たと思っていたのに、クリスティンの見る自分は変わっていなかったのだ。人狼は人狼状態から人間状態に変形しているだけで、本質的に筋肉量は変わっていないから、思わず机に掴みかかるクロちゃんの筋力で机がぎしぎし音を立てた。

「なあ、クロちゃん、物に当たるのはあかんで」

「当たってる訳じゃないんだ。ないんだ…」

ジャッキーがクロちゃんの顔と机の間を見ると、涙で濡れていた。

(まあねぇ、クリスティンの事だから、可愛い子犬と暮らしたい、とか言い出すかもしれないじゃん?その場合はえっちーな事は出来ないけど、子供を作るだけが人生じゃないよ?)

そう思うジャッキーは、自分より心の強い男が子供が欲しいと言えば、生んでやらない事も無いという程度のスタンスだった。面倒見の良いジャッキーは、男に夢中になるというより集団全体の雰囲気を重視して生きていた。それはクライブに似ていたから、潜在的にジャッキーは兄が好きで、その人を理想として生きているのだろう。


 クリスティンは柳に風作戦でカーラの突っ込みを流していたので、イラっとしたカーラは標的を変えた。デボラを捕まえてダンス内容に突っ込みだした。

「なあ、あんた、パートナーに伸ばす腕が伸びてないぞ」

「はぁ、すいません」

「あとステップがパートナーと合ってない。そいつがマイペースなのを加味しても、もうちょっと相手を見るべきだろう」

「はい、すいません…」

それを見ていたジャッキーはクリスティンに小声で呟いた。

「ねぇ、あいつって同級生と下級生で話し方が違うけど、魔女の里って上下関係が厳しいのかな?」

「上下関係は重要でしょうね。ああいうところは実力主義でしょうから、何かあったら実力のある者が主導するでしょう?その時に全く気遣いなく指示をだすと年長者がわだかまりを持つでしょうから、上下の配慮は重要なんでしょうね」

「というか、アイスちゃんが縮こまり過ぎじゃない?」

「…里で年長者の当たりがきつかったのかもしれないね」

「もうちょっと優しく接してあげた方が良いかな?」

「アイスちゃんは同級生には配慮がないから、こちらもあまり配慮しない方が良いんじゃない?その方が彼女も元気に話せるから」

「それもそうか」

最後には白湯を持ってくる様に命令されてしょぼんと歩いているカーラにクリスティンは声をかけた。

「アイスちゃん、あなたはやれば出来る娘だけどやらないだけだから、多少突っ込まれても気にしない方がいいわ。どうせ変わらないんだから」

「地味子…あんた私の事、褒める気ある?」

「あるよ、もちろん。あなたはとっても可愛い娘だと思うし、だから口を開く前にちょっと考えて話して口数が半分になれば人気も出ると思うの」

「絶対褒める気ないだろ!!」

とりあえずデボラもカーラも、クリスティンの『可愛い』発言だけは全く信用していなかった。


 戻って来たデボラに元気を出してもらおうと、クライブがダンス練習のパートナーを買って出た。

「さあ、練習というよりすこしダンスで遊ぼう」

「遊んでる気がしないよ…」

先ほどカーラにこてんぱんにされたのでデボラは完全に萎えていた。

「だからさ、上手い下手は良いから、覚えている動きをまあ相手の手を振り切らない範囲で思いっきり動かしてごらん。縮こまるのは無しだ」

「いや、でもそれだとあんたがやりにくいんじゃ…」

「気にしない気にしない。私はリードは苦手だけど合わせるのは上手いんだ」

「それって男として駄目じゃない?」

「そうだけど、相手によっては気にしないで踊って楽しんだりしてるよ。君もそんなスタンスで良いんじゃないか?」

「うん…ちょっとやってみる」

デボラはクライブに何度もぶつかった。それでもクライブは何度もこう言ったから、楽しんで練習する事が出来た。

「ごめんね、うまく合わせられなくて。でも何度もぶつかっても、本番までにぶつからない様にすればいいのさ」

クライブは泥を被るのは平気な男だった。ジャッキーのみならずクリスティンもエグバードも、リーダーはこういうタイプが理想だな、と思っていた。


 デボラに笑顔が戻ったところで、クライブが切り出した。

「冬至祭の数日後に冬の海を見に行かないか?馬車はうちで出すから、希望者を募りたいんだが」

「クリスティンは家に帰るの?」

「寮と図書館と練習場の往復しか予定はないから、海は見てみたいな」

「兄さん、そういう事で一人一本釣り完了」

「はいはい。他の人はどうかな?」

一人目のクリスティンが『行く』と言った事で皆『行く』と言い易くなった。ジャッキーもなかなかやり手である。そういう訳で、終業式の翌日のダンスパーティの数日後、皆で海を見に行くことになった。

 蝙蝠の原稿が進みました。


 それはさておき、琴櫻関が初優勝だそうで、おめでとうございます。

(何かの話題を避ける奴)

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