5−2 風塵の魔女(1)
そんな平穏な日々が続く訳も無かった。来るべきものが来たのだ。第三王子エドウィンは皆を呼び出して、こう告げた。
「件の風塵の魔女から果し状が届いてね、我が里の名前を使いし所業、座視出来ず、一戦にて雌雄を決したし、尚、殺生を伴う勝負は望まず、また騎士などの助力は認めず、貴調査隊の解散を賭けて尋常な勝負を望む、と言ってきたんだ」
クライブとしては皆が望む解決策を提示せざるを得ない。
「そこは勝手に名前を使った事を謝して穏当に調査隊を解散するのがよろしいかと存じます」
「君も露骨に嫌がっているね。私の名前を冠しているからには戦わずして逃げる訳にも行くまい。土曜に第三グラウンドを確保したから、準備をしておいてくれ」
「いえ、せめて一週間くらい準備期間がないとお話にならないと思いますが」
「何、優秀な魔法師がいるのだから、対処は簡単だろう。期待しているよ」
また丸投げである。まあ、王族というのはこういうものだ。クライブももう諦めている。クリスティンとしては王子の一言が耳に付く。この集団、前衛二人は優秀だ。何せ超人的な能力がある。盾役二人は学生並みだ。学生だし。問題の魔術師扱いは二人になるが、デボラの体たらくはご覧の通りだ。何を根拠に『優秀な魔法師がいる』なのか…まあ、良い。歴史的には喧嘩っ早さで知られる風塵の魔女の里出身者が、名前を使われて黙っている訳が無いとは思っていた。
応接室のある建物から出て少し離れたところで、クライブは口を開いた。
「そういう事なんだが、さて、何か対策はあるかい?」
クリスティンとしてはフォーメーションを確かめれば事は足りると思っていた。
「陣形はどうしますか?前回の陣形ではなく、前衛を増やす方が良いと思いますし、若干陣形に深みがある方が良いと思いますが」
「論拠はなんだい?」
「横一線でも縦一線でも突風で一気に吹き飛ばされてしまいます。左右、縦深に展開する事が必要と思います」
「それはそうだが…風魔法で一番警戒すべきは何だと思う?」
「鎌鼬と思いますが、殺生を伴わないと明言している以上、その破壊力は抑えてくるでしょう。そうなると突風で一気に吹き飛ばされるのが警戒すべき事と思います」
「となると対策は?」
「お兄さんとエグバートは盾の防御が必要と思います。重心を落して吹き飛ばされない姿勢の練習と、場合により地面に寝そべって吹き飛ばされるのを防ぐ練習はお願いしたいです」
ジャッキーが口を挟んだ。
「前衛二人もいざとなったら寝そべって突風をやりすごす事は頭に入れておくべきでしょう?」
「そうね」
「攻撃としては何か提案はある?」
「いつもの接近して抑え込むので良いと思うの、殺生を伴わない以上、抑えられば負けとあちらも判断するでしょう」
皆の思うところは、クリスティンがいつも勝負の前には淡々としているが、負けるという意識が無いらしいところが見た目より強気だな、という事だ。デボラも黙って聞いている。この娘は逆に格上に対すると借りて来た猫になるな、と皆は思っていた。
「アイスちゃんは大好きなアイスウォールを交互に作ってすこしずつ前進して。出来るでしょ」
「え、でも近づいても何も出来ないし…」
「あくまで牽制だから良いのよ。ゆっくり前進して。アイスウォールは風で壊れない様に斜めに分厚く作ってね」
「まあ、急かされないなら…」
クライブが纏めようとした。
「では、全体的に前進するが、主なアタッカーはクロちゃんとジャッキーと言う事で良いかな?」
「うん」「ああ」
二人は応えるが、クリスティンとしては確認して欲しい事があった。
「お兄さん、お家としてはどのくらい風塵の魔女の事が分かってます?」
「分かっている事は一つさ。気難しいとの事だ」
風塵の魔女の里の出身者が気難しい…如何にもであり、それは対応が難しいと思わされた。
「里を出て学院に通う理由は分かりますか?」
「知見を広げる為、という噂だね」
「学院に通っているのですよね?何年何組なのでしょう?」
「噂の女生徒は2年3組になっているね」
「兄さん、対戦に当たってその人の為人は重要情報なんだから、もうちょっと詳しく話せないの?」
ジャッキーが催促するが…
「何せ噂話だからね。もしかすると3年が出てくるかもしれないし、当日本人を見て判断した方が良いんじゃないか?」
ジャッキーとクロちゃんとクリスティンは悩むところだったが、クライブの言う事も一理はあった。とは言え、この男、自分が勝負を決めるつもりは全くないから情報提示が適当だな、と三人とも思った。エグバートとデボラは完全に他人事だった。こいつら一応2列目の筈だが。
ハワード家関係者と寮生はその場で別れた。デボラはこの件について全くやる気がなく、クロちゃんとクリスティンの後ろをとぼとぼと歩いていた。
「クロちゃん、とりあえず姿勢を低くして走る様に気を付けてね」
「まあ、森林で狩りをする時には姿勢を低くして近づくから慣れてはいるが」
「それよりもう少し低くして欲しいの」
「飛ばされない様にか」
「そういう事。散開して接近する事が必要だから、ジャッキーとあなただけでも順調に接近しないと勝負にならない」
「分かったよ。心してかかる」
「あと、この件に関してプレゼントは渡せると思う。当日まで待って。思ったより早く来たので準備が間に合うか微妙なの」
「分かった。出来る範囲で頼む」
「うん」
相手は風魔法師であり、養女であると思われるから寮生である可能性があった。風魔法による盗聴も警戒して最終対策は口に出来なかった。
コミュニティFMで23時頃の某番組の某コーナーを聞いていると、たまにかかるハレルヤハリケーンは風魔法かどうか考えてしまいます。降ってくるのは男性ですが。
明日はシリアスな筈の蝙蝠の投稿です。風塵の魔女の出番は水曜です。




