3−7 学院祭(1)
学院祭は土曜に行われる。金曜の午後は準備を行うが、生徒手作りの小物販売の1年2組では机を移動させて布をかけるだけだ。商品は土曜の朝に持ち寄って並べられ、一部父兄の予約品は別の棚に置かれる。タウンハウスから通っている子女の商品など学院祭で態々買う必要も無い筈だが、生徒の商品が売れた、という実績を残したいんだ。斯くしてクラスの設営が終わったジャッキーとクリスティンは第三王子特別調査隊の展示室の設営に向かった。
「まあ教室の飾り付けがあっさり終わったから、別の展示をやるのも楽しいかもしれないね」
ジャッキーは言うが、ハワード家の領地の紹介はクライブの指揮の元、ほとんどクライブとエグバードで作成した様だ。
「まあ、纏める事で頭に入る事もあるから、何かの役には立ったと思いましょう」
クリスティンも王子の意図を測りかねて、何らか自分のプラスとなった、と思い込む事にした。展示用の教室では、大きな紙に個別に書いた紙を貼り付け、その後に男性陣が壁に貼り付けると言う作業になった。
「短時間で纏まって良かったよ」
クライブはほっと胸を撫でおろした。とりあえず王子の要求にも応え、メンバーの負担も最小限で済ませられたからだ。
「兄さん、クリスティンがいなかったら1面だけの展示になってたんだけど」
「ああ、クリスティンが上手く展示を作ってくれて良かったよ。ありがとう」
「まあそれ程忙しくは無いですから」
「暇人だから良いんじゃない?」
さりげなくイラっとする言葉を吐けるのがデボラだ。
「うん、何なら上四方固めで窒息させた方が良いか、こいつは」
「だからっ!すぐ暴力に訴えるからゴリラって言われるんだっ!」
「言ってるのはあんただけだって」
クライブが中に入った。
「子供じゃないんだからここで追っかけっこはするなよ。明日の展示の準備に来てるんだからな」
そうして3面の展示の貼り付けが終わった。
教室の後ろ面にはクリスティンが纏めた4属性魔法の初級2つの呪文の構造比較が書かれている。デボラは相変わらず節穴だ。
「普通の人はそれぞれ1属性しか使えないんだから並べても意味ないじゃない」
「学術的に比較検討したいのよ。それで魔法自体の理解が深まる様に」
「感覚的に魔法を操る魔女には不要な事だよ」
「感覚的に操るからこそ、こういう呪文の効果を感じて、魔法の各工程を区別し、自分の魔法を見直せるんじゃない」
「見直しが必要ならね」
「あんたには必要じゃない」
「お前には必要だろ」
最近一緒に練習しているジャッキーとクロちゃんには、デボラには基礎をやり直す必要があるのが良く分かっっていた。
「一遍に言わないでよ!いじめだ!」
「もっと現実を見て頂戴…」
クリスティンとしてはこの娘の自覚の無さには辟易していた。まあ否定されると誰しも反発したくなるのは分かるのだが。クライブは見ていないがクリスティンが苦労している事をジャッキーから聞いている。ジャッキーはクリスティン寄りの見方をしているだろうが不公平な人間では無い。そうなるとデボラの教育は長い目で見るべきだろう。
「まあ、3年間の学生生活の内、まだ2か月終わってないんだ。じっくり練習してくれ」
「げー」
デボラは何かにつけ文句を言わないと死んでしまう病にかかっているらしい。
そうして学院祭の当日になった。クリスティンもジャッキーも自分の商品を並べて、父兄用の棚にも商品を入れたクリスティンは巾着袋、ジャッキーは木の小物入れだ。
「ジャッキーは手先が器用なのね…」
木工自体は簡単なものならクリスティンも出来る。片田舎では鍛冶以外は全部家の者がやるのが普通だ。
だけどジャッキーの小物入れは蓋がスライドして閉まったり取り外し出来たりする。小刀で器用に削るのだろうか。
「ほら、田舎だと森に秘密基地を作るじゃない?その装備を手作りしてたら上手くなったのよ」
…クリスティンにとっては秘密基地はイメージ出来なかった。彼女の逃げ場はアッシュの隣だったから、家以外にはあまり行かなかった。ちなみに第三王子特別調査隊の展示室は誰かが質問用に立ち会う予定になっていた。クリスティンとデボラの二人は昼休み前後に立ち会う事になっていた。
予定時間まではジャッキーと二人で校内を見て回ったが、なるほど王子が『少し寂しい』と言う訳だ。田舎の村の祭りより賑わいが無い。そうして展示室に行って、これまで立ち会っていたクロちゃんとエグバードと交代した。
「じゃ、頼む」
「ええ、楽しんで来てね」
男子二人が立ち去った後、デボラはクリスティンに言った。
「あんた、本当に母親みたいじゃない?あいつに対して」
「可愛い子犬じゃない。見守ってあげないと」
「いや、全然可愛げないから。皆にはビーストと呼ばれてる男なんだから」
「あんなに可愛いのに…」
「あんたの目、本当に腐ってるって」
その場にカスバート・クロフォードとその娘のステイシーがやって来た。
「やあ、せっかくだから見に来たよ」
「ご足労頂き申し訳ありません。こちら、1年3組のデボラ・パーマーです」
デボラも貴族相手に暴言を吐ける程神経は太くなかったから挨拶は大人しくした。
「デボラ・パーマーと申します。ご息女にはお世話になっております」
「それはありがとう。私はクリスティンの義父のカスバートだ。これからもクリスティンの事をよろしく頼むよ」
「こちらこそお願いします」
カスバートは連れて来た娘を紹介した。
「こちらは娘のステイシー。来年入学するので見学に来たんだ。来年はよろしく頼むよ」
「ステイシーです。よろしくお願いします」
「こちらこそお願いします」
クリスティンから見ると、デボラは必要最小限の受け答えしかしていない。自分もこうなっていそうだから、他山の石としたい。もうちょっと愛想を振りまこう、と柄にもなく思った。
「それで、こちらがハワード家兄妹の労作、と言う事かな?」
「はい、準備期間が足りずに苦労していた様です」
カスバートとステイシーは黙って見ていた。
「うん、彼の領地の事が簡潔に纏まっていて良いね」
「お褒めの言葉を頂いた事、伝えます」
「よろしく頼むよ、それで、この北の森の狩猟についてだけど、確か貴族は入れないと思うんだが?」
「騎乗しての入山が規制されているので、貴族の方はあまり来られないと聞いております」
「なるほどね。狩猟規制の理由も良く分かる。これは誰が纏めたんだい?」
「皆で出向いて話を聞いてきた後で、絵は私中心に対応しました」
この微妙に他人を立てるところが地味子の地味子たる所以だよね、とデボラは思った。デボラが描いた絵は全部没だった。アーティスティック過ぎたのだ。
「それで、この魔法の呪文の構造比較が君の労作と言う訳だ」
「恐縮です」
カスバートは魔法呪文構造一覧という地味な展示を暫く見ていた。連れているステイシーは思わず出入口を何度も眺めたと言うのに。
「うん、分かりやすいよ。よく纏めたね」
「纏めて一覧にしただけですが」
「理解していないと書けないものだよ。この調子で学院生活を続けて欲しいね」
「恐縮です」
学園祭と言うとあまり盛り上がっていないというイメージが強い私は所謂進学校に通ってました。1年の時の追試の数が凄かった(威張れない)。




