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2−4 伸ばした指が触れない距離

 週末にクリスティンはまたカスバート・クロフォード男爵と会う約束をしていた。クリスティンを養女にして魔法学院に通わせている義理の父親である。

「やあ、その後の学院生活は変わりはないかい?」

「彼の方は1年生に興味を持って、ハワード家のご子息が保護しております」

「何か問題でも起こしたのかい、その子は?」

「問題は起こしておりません。彼の方は平地に波瀾を起こしたがる様に見えます」

「6才の時に上水道の流れに興味を持って水道の蓋を護衛に開けさせた時は流石に叱られたが、その後はあえて制止しない方向で放置されているからね」

「つまり今は王城では悪さをしていないと?」

「反応する人がいる方が楽しいのだろうね」

クライブが世話を焼くから学院で色々やるのか、迷惑な話だとクリスティンは思った。

「森の魔女の里の噂だが、貴族間では噂は流れていないね」

「学院内でも特に流れていませんね」

「細々と平民街では流れている様だ」

「継続的に噂を流している者がいるのですか?」

「何も起こっていないから噂にならない筈なんだけどね」

「魔女の里の魔女は王都にはよく現れるのですか?」

「噂でも聞いたかい?」

「学院の泉や上水道が凍る事が度々ある様です。彼の方も多分水籠りの魔女の里の出身者を疑っている様です」

「探索ごっこに付き合わされていると?」

「泉が凍っているのは見ました。魔女の里の魔女にしては未熟かもしれません」

「学院に入る様な魔女は卒業生として貴族に雇われる予定の優れた者か、能力の劣る者が下位貴族に囲われて通うかどちらかが多い様だね」

「ある程度は学院に通うのですね」

「本当に優れた者はあまり里から出ないんじゃないかな?」

「知識と技量を磨くには里の魔女と研鑽する方が有効そうですからね」

デザートと共に出されたお茶を飲みつくす頃だった。

「水籠りの魔女の里の噂は調べておくよ」

「お手数をおかけします」

「何、可愛い養女の為ならお安い御用さ」

「ありがとうございます」


 平日にはクリスティンとクロちゃんは夕方に泉と上水道の小川を見回っている。

「週に何回かは凍っているが、毎日ではないんだよな」

「気まぐれに凍らせているのかしら?」

「気まぐれで凍らされたら堪んねぇな」

クロちゃんとしてはクリスティンが袖を掴んで一緒に歩いてくれるこの瞬間が幸福だった。

この日は小川の方が凍っていた。

「何となく魔力の残渣に特徴がある気がするな…」

「そうなの?」

「臭いっていうか、そんな感じ?」

「ふふふ、人間としても鼻が利くんだね」

「まあ、いつも分かる訳じゃないんだけどな」

「ふふ、そうだね。私もクロちゃんの臭いは何となく分かるけど他の人は分からないからね」

ぎょっとしてクロちゃんが飛び上がった。

「すまん!毎日水浴びはしているんだが臭かったか!?」

「そういうんじゃなくて。生き物なんだから臭いはあるの」

「いや、でもこれから一日2回水浴びする様にする!」

クロちゃんは瞳に薄く涙を浮かべだした。

「ふふふ、そんなに気にしないで良いから。本当に気にしないで良いから、そんな顔しないで?」

「えええ、俺、どんな顔してる?」

「いつもより可愛い顔してる」

しょぼーんとしてしまうクロちゃんであった。

可愛い、じゃなくてカッコ良いとか男らしいとか見られたいのに…

「ワンちゃんがそんな顔してると周囲も悲しいよ?」

心配顔になったクリスティンにクロちゃんは震えあがった。こんな顔させちゃいけない!

「いや、大丈夫。俺はいつでも元気だから!」

「無理しないでね?」

「全然無理じゃない!」

「なら良いけど…」

それは兎も角、小川が溢れているのは問題だった。

「ちょっとファイアーボールで溶かしましょうか」

クリスティンは早口でファイアーボールの呪文を唱える。氷の真ん中が少し溶けたがまだせき止められている。5発のファイアーボールで氷は崩れて流れていった。

「火属性だったんだな」

「私なら水属性だよ。呪文は便利だから火魔法も使える様になっただけ」

「いや、そう簡単に別属性は使えないだろ」

「こう見えて魔法の才能を買われて養女になったんだから」

「養女だったのか」

「アッシュが亡くなって、地元にいる意味が無くなったから母が行先を探してくれたの」

「…辛い事は無いのか?」

「寮に入っていて義理の家族とは殆ど会わないから特にないよ」

それは義理の家族と会うと何かあるという事じゃないか、とクロちゃんは思った。一方、彼女が口にしない事を追求はしない方が良いとは思った。

「その、何かあったら何でも話は聞くからさ」

「ふふ、クロちゃんと知り合えたからそれ以外は何でも良いよ」

何でも良い、ということは何かあるのだろうとは推測された。義理の家族に対して自分が何かすれば彼女に迷惑をかけるから出来ないが、辛い顔をしている時には傍にいてあげよう、とクロちゃんは思った。

 明日も投稿予定です。

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