傀儡
ユリアとのやり取りで気持ちも持ち直し、改めてこれからどうしようか、そんな事を考えながら小道を歩いていた。
そんな時、会話の中で違和感があることに気づいた。
「……つーか、何で一週間も前に死んだはずの大狼の存在に今日まで気づかなかった……?」
そう、おかしいのだ。とっくにさっきの話が出てきていてもおかしくないのに。
まるであの一件の事だけが今まで抜け落ちていたかのようだった。
「……記憶が書き換えられた……?」
「記憶改変が解けたか……あの男め、さては手を抜いたな? まあいい、どちらにせよ目的は果たせたからな」
小屋からの帰路を塞ぐように、ジュリアンと数人の使用人が五人。立ち塞がっていた。
ジュリアンの後ろに控える使用人達は皆、どこか虚ろで死んだ目をしていた。
「……やっぱりお前だったのかよ」
「いかにも、僕がやらせた。 本当なら貴様は記憶を改変させられた事も気づけない筈だったんだがね」
「……お前……」
「誰かに言おうったって無駄だよ。 村の人間も、誰一人として貴様の話など信用しないからな……無論、ここで死んでもらうつもりだがね?」
ジュリアンが手を挙げると、後ろに控えていた使用人達が一斉にサーベルを引き抜いた。
「……ッ‼︎」
「見せてくれたまえよ、あの老いぼれ仕込みの剣術とやらを」
人数で優位に立っているからか、ジュリアンはひどく下卑た笑みを浮かべた。
「てめぇ執事長馬鹿にしやがったな……?」
「あんな剣術くらいしか取り柄のない老いぼれを馬鹿にして何が悪い?」
「お前前々から思ってたけど人を見下し過ぎだろ?」
「事実を言っているだけだ! それとあの老いぼれは執事長じゃない! 僕が執事長だ! やれ!」
ジュリアンが取り乱し気味にそう叫びながら手を振り下ろすと、使用人達は一斉にこちらへ向かって来た。
「おいおい……対集団の立ち回りなんか教わってないんだけど⁉︎」
「恨むなら立ち回りを教えなかった自分の師と、僕を怒らせた自身の不遜さを恨むんだな」
「うる……せぇ‼︎ 優秀気取りは黙ってろ!」
サーベルを構え襲いかかってくるかつての同僚を斬り伏せる。
幸いにも動きは初めてサーベルを握ったそれのようで、動きも緩慢で単調だった。
「……っつぁ‼︎……せぃ!」
「この! この! 何なんだ! どうしてあの能無し一人倒せないんだ!」
人数で押し切れば傀儡でも倒せると思ったのだろう。一人、また一人と斬り伏せられた使用人達を睨みつけ、ジュリアンは地団駄を踏み、喚き散らした。
「くそ! くそ! くそ! ふざけるな! この役立たずが!」
ジュリアンが喚きながら腕を振り回すも、傀儡と化した使用人達の動きは依然として緩慢なままだった。
「……執事長がお前は相応しくねえって言ってたのがよく分かるだろ?」
「何を! 追い出された分際で偉そーー」
「ーーだから言ってるだろ、お前は人を見下し過ぎなんだって……だから下がついて来なーー」
だから下がついて来ない。そう言おうとした時、背後に叩かれるような衝撃が走った。
遅れてピリピリとした鋭い痛みが走り、その痛みに思わず眉を顰めた。
「っ!……こいつ!」
体を前のめりに傾けた後、同時に右足を前に踏み出し、肘打ちの要領で始動し、サーベルを振るう。
肉を断ち切る生々しい感触の後に、骨にぶつかったのか少し硬い手応えがあるも、そのまま力をかけ、振り切る。
振るわれた一撃は自身を斬りつけてきた使用人の手首を捉え、その手首をサーベルごと刎ね飛ばした。
サーベルごと飛ばされた手首はしばらく宙を舞い、サーベルが地面に突き刺さると、そのまま手首はべたりと地面に落ちた。
「……悪いな……お前の手首飛ばしちまってよ」
「…………」
手首を刎ねられた使用人は何も言わず、ただその虚ろな目のまま立っているだけだった。
「……お前……こいつらに何した……?」
「概ね貴様の読み通りさ、傀儡になって貰っただけさ」
そう言って口角を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべ、手をかざすと、その手から魔法陣が展開されていた。
「……魔導具なんて何処から用意したんだよ?」
「何、ちょっと伝手を使って手に入れただけさ」
「随分準備がいいじゃねえか」
「同じ考えの人間が複数いた。 ただそれだけさ、この村の魔女を狩ってしまおう。 この村を自身のものにしてしまおう。 そんな考えの人間がね……ククク……フフフフ……アーッハハハハハ‼︎」
奴が狂ったようにケタケタと笑いながら腕を振るう。
さっき腕を刎ねた者も素手なのも御構い無しにこちらへ突っ込んできた。




