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 湯船に浸かる時に腹の底から吐き出された吐息に、「年寄くさいぞ」とくつりと森が笑った。


「おー、そりゃーな。俺ももーおっさんだからなー」

 どうせ濡れるのにとは思ったものの、まだ雨が降っているからという理由で薦められたとおりに室内風呂に入った。

 適当に泡まみれになっていたところを湯加減を尋ねに覗きに来ていたヤツが見かねて、背中を流してくれる。

 頭も洗ってくれたのには、正直助かった。

 前回だって自分でしたわけでなかったからやり方が良くわからず、ついでに教えてもらう。

 しかしまぁ、なんていうか。自分一人でここまで洗うのは本当に手間がかかるっていうか。

 風呂入って温まれって言う割に、身体洗ってる間に冷えて風邪ひくんじゃないか? なんせ疲れるし。

 浴槽の縁に頭を乗せてだらりと身体の力を抜く。

 普段からこういう事しない分、温めにしてくれているという湯の温度は俺には丁度良いようだ。

 あちらこちらに飛ばした石鹸の泡を流し片付けるヤツは、服を着たままで「入らないのか」と尋ねたら今日のお前は客だからとわけのわからない答えが返ってくる。

 ここで一緒に暮らしていたころはまだ、普通の家くらいしかなくてそう言えば一緒に風呂に入ったことはなかった。

「湯船に浸かるっていうのは疲労回復にもなるからな。偶にはお前にだって必要だろう。……作るか? 風呂」

 これは、あれだ。俺んちに作ろうって言ってんだろうな。

 ……でもなー、多分言うほど入らないだろうしなぁ。体にいいって言われてもなぁ?

「お前のとこはこれから寒い時期だからな。今から作れば丁度いいだろう」

「んー。まー、考えとく」

「おい。寝るなよ」

 目を閉じてもやもやと考えていれば、そう声がかかる。

 かといって上がろうとすると「もうちょい浸かってからにしろ」とか「百を数えろ」とか。

 良くわからないが、なんだかそれが面白くてニヤニヤした。



 風呂から出た後は夕涼みに一寝入りして、起きたころには食事の準備がされていた。

 何この至れり尽くせり感。

 これだからホント、ここに居るとだめになりそうなんだよな。

 用意されていたバスローブに似たユカタを素肌に羽織る。

 邪道だと森に言われつつ、帯で腰元を結んでも胡坐で座すれば膝元が開いて気になるから、短パンを履いた。

 低いテーブルの上に並ぶ海の魚料理に舌鼓を打つ。

 ここは山だろなんて思ってはいけない。もちろん山の幸料理だって、それこそ山ほど出てくるけどな。

 客だとは言いつつ、どうせ俺達しか泊りはいない。「飯は一緒に食うんだろ」と誘えば答えは是と帰ってきた。

 海の幸料理で思い出したからドラゴンに会いに行った話をしてみる。

「俺たちだってドラゴンに分類されることあるぜ」

 まじか。ヒドラもドラゴンだったのかと、思わずぽかんと間抜け面を晒せば奴は笑いながら。

「人間は大きくて鱗のあるもんはドラゴンて呼ぶんだよ」

「十把一絡げかよ」

 なんだかなぁ。と持ち込みの酒をぐびりと呑んだ。

 別件でも宿賃代わりに何種類か樽ごと渡してある。

「そうだ。そろそろ無くなるから分けてくれ」

 保存庫に入れない外に出す酒には、樽にも瓶にも何の酒か名前を書いて紙を貼り付けることにしている。

 昔、森に出来た酒をそのまま渡したらわかるようにしろと文句を付けられて、糊の付いた紙をくれるようになった。

 確かに、パイ包みとかコロッケみたいに作った本人じゃなければ中身は何かわからないもんなー。

 それからそうしているわけだが、気が向けば甘いとかさっぱりだとか特徴も書いたりする。

 最近は使い魔印の焼印もつけるようになった。

 細工師が作ってくれた焼印は魔法道具で、ほんのちょっとの余波魔力とやらで使えるらしいがもっぱら押し係は使い魔だ。

 使い魔が使い魔印の焼印押すってどうよ。とは思うが魔力ゼロの俺が持っててもしょうがない。

「ああ。後で用意しておくよ」

 そう言って森は少しずつ料理を取り分けた小皿を俺の使い魔の前に差し出す。

 ……いつもならあんまり食うなよと声をかけるところだが、森なら量をわかってるだろうと目をつぶることにした。

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