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 小雨の降る中、辿り着いた宿では山の(あるじ)である森が自ら迎え入れてくれた。


 彼の旅館は黒っぽい瓦屋根の平屋造りで、少し崩れかかって見えるせいか仲間内でおんぼろ屋敷と呼ばれている。

 これも拘りの外装ってやつで、勿論中身は全然違う。

「なー。ここって頭洗ったりすんのあんのか?」

「? 洗髪剤とかってことか?」

「アワアワになってフワフワになるヤツ」

 今回のメインはすっきりアンドさっぱり。

 紫紺の魔王様ンとこの再現。あの気持ち良さをもう一回味わえるといいなぁ。

「そうだな、場所によっては嫌がる奴がいるから部屋付きの風呂とか露天でならいいぞ。準備しておいてやるよ」

 山の敷地内にあちらこちらにいくつもある露天の温泉には、それぞれ(ぬし)という名の管理人が付いている。

「やりぃー」

「というか、そういうの知っていたんだな」

 まぁなー。なんて答えながら奴の後ろについて奥へ進む。

 手前の母屋ではなく、今回は裏の離れの一つに行くようだ。

 荷物はあまりない。


 ドアは木のスライド式。

 変わっていることに靴を脱いで板の間の廊下を抜ければ、畳とかいう床で出来た部屋に入る。

 床板ほど固くなく、絨毯が敷かれているわけでもないのに寝転がれるのは楽ではある。

 今はやらないけど。

 あっちこっちの建築物を見に行った結果、こういう建造様式に落ち着いたらしい。

 ベッドもない。寝る時にはスプリングの入ってないマットを出したり片付けたりするのが面白い。

 自分でするのは面倒だけどな。

「そーいやー、氷と雷の奴が使い魔の愛好会作ってたらしいんだけどさ」

 脱いだコートを使い魔に預けながら、勧誘されちまったぜ。と言えば。

「前からなんかそういうのやってたらしいな。多分、お前の酒の印を使い魔にしたからだろう」

 なんて返ってくる。って、ホントに前からそんなの作ってたのかよ。

 薄ぺっらいクッションを差し出され、その上に胡坐をかいた。

「なんていうか、使い魔を持って無い奴らにこいつらの映像とかグッズを渡しているみたいだったな」

「……はぁ」

 なんだそりゃー。意味わからん。

 思っていることがそのまま顔に出ていたのか。

 部屋の横にある縁側とやらの引き戸を開け光を入れていきながらニヤリと笑われた。

「そう言えば、うちのも見るか?」

 とか聞いて来るけど返事はいらないらしく、呼ばれた認識なのだろう小山ほどありそうな黒い物体が縁側の外、庭先にドドンと現れる。

「そんな遠慮がちにちょこんとか出てくるのホント可愛いな、お前」

 森の台詞に思わず、「ぶはっ」と吹いた。

 マジ認識の差って面白い。

 どう見てもドドーンとかデン! とか音が聞こえそうな気がする。

 少なくとも俺と同じくらいか、それより大きいんじゃないか?

 あー、あれだな。本体は森の方がでかいからだな。あんなことが言えるのは。

 まぁ確かに、ヒト型状態の奴に撫でてもらいやすいように頭をこっちに傾けてるとこはちょっとカワイイかもしれない。

 低いテーブルに肘をついてふと、緑茶を入れていた使い魔の動きが止まっているのに気付く。

「羨ましそうに見てるんじゃねぇよ」

 こいつらは本当にデカくなりたがるよな。元の大きさに戻れなくなるくせに。


「お前、せっかく貰ったばっかりのあの椅子に座れなくなってもいいのか?」


 ぱかりと目いっぱい開かれた目でこちらから視線を外さずに身体ごと横に振った。

 だよなー。

 心なしかウルウルしているような気もするが、ここは心を鬼にする。

 ……だって、こんなデカくなられたら、家ん中入れられなくなるだろー?

「で、会員になるのか?」

 ひとしきり自分の使い魔を撫で終わった森がこちらを向いた。

「いーや」

 俺は使い魔自慢合戦には手を出さないよ。

 そんなんじゃないって話だけど、最終的にはそういうのになるよな。多分。

 アレって不毛じゃん。終わりどころがないって言うか。お互い、自分のが一番なんだから。

 入れられた熱いお茶をふーふーと冷ましてから口を付けた。

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