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割と身分の高い奴だという認識だった魔法使いの知人、いや知竜か? うーん。これだと別の意味合いみたいだな。まー、とにかく。その相手は海底都市を統べる王だった。
彼の住まう場所は広大で、神殿のようなそれは城というよりは王宮といった感じがする。
とはいっても違いなど分からないのだが。
そんなことを同行者に言えば呆れたような顔で「王宮ってのは王の住む場所って意味だから、別に城とは限らないんだよ」と言われた。
「そーいうもんなの?」
「そーいうもんだよ」
前にどっかでやったような応酬だなぁ。なんて思い出し笑いをする俺に彼は首を傾げた。
「もー、なんだよあれ。めんどくせぇなぁ」
相手が王様だからって言われてもなぁ。
「あー、もー、こんなトコ来ねーぞー」
「拗ねるなよ……」
温室に至るまでの道のりは一本道で迷うはずないと言われ、案内人を断った道すがらを俺は不貞腐れながら歩く。
本当は断るのもいけないのだとか自称魔法使いの男は、自分で断っておいてそんなこと言った。
そりゃー、いない方が俺もありがたい。こんな文句も言えないとか何処で発散すればいいんだ!? ってなるだろう。
「あんたに空気を読むことなんか出来ないだろうとは思っていたけど。先にあんまり喋らないように言っておくべきだったな」
肩を竦める男にそんな大したことを言った覚えはないのに。そう思った。
招待されたから、いつものように土産の酒を渡しただけだ。その時になんて言うべきかすっぽ抜けて「わいろ? っていうか袖の下とか」と称したら「そんな言い方は違うだろ」とか言われて。
「めんどうだなぁ。じゃあ普通にお礼ってことで」
「……どうして最初っからそれが出てこないんだ」
魔法使いに突っ込まれている間、王は口を挟まずニヤニヤ眺められていたと思う。
ヒトとしての外見では壮年という感じで、それ相応の威厳というやつを醸し出していた。
知り合いと言うだけあって纏う空気は、これはまだ柔らかいものだと知れる。
そんな雰囲気だったから、関係のない俺が調子に乗ったのだと、それこそ関係のない周りのモノたちに睨まれた。
さすがに、というか仕方ないからドラゴンの姿を見せてくれと言うのは我慢したじゃないか。
聞き流しはしたが、ねちねち言われた感がある。
どう対応すればよかったんだよ。
「とりあえず、助かった。どうしても此処には来たかったんだ」
此処に来る前に聞いていた一般的な「温室」とは異なる、それはそれは広大な敷地を眺めながら魔法使いが口を開いた。
っていうか、これはもう。果樹園というか、畑というか、ごくごく普通に荘園とかいうやつじゃね? 広すぎんだろ。
水遣りが大変そうだなぁ。なんて言えば、上を指差し、「水なら山ほどあるだろ。雨を降らせるように撒けばいい」と聞かされた。……雨、降るんだなぁ。普段見上げるのとは違う空の青さを仰ぎ見た。
「ここの『温室』には他にはない植物が揃っている」
同じように隣に並び立ち、だが視線の先は違うところを眺めているようだ。
「俺は呪われてるんだ。呪いが掛けられているっていうか。詳細は省くが」
「触媒のいくつかはわかっているんだが、術式の解析がしきれていない。必要なものがわかっていない状態だからな、集められるものは集めておきたいんだ。それで解析が進むこともあるし、解除の手助けになる可能性もある」
ならなければならなかったで、魔法に使えるしな。などと聞かされて。
あー、あれだな。こいつ、ホントに魔法職人だな。説明オタクのスキル持ってる魔法オタクなんだわ。
「今は天空人なら何かわかるかと思ってさ。天空の島を探している」
「あー。あれな。たまに浮かんでるの見えるよな」
空にぽつりと浮かぶ、胡麻ほどの点を思い浮かべた。
「!! 知ってるのか?」
「んー、でも。この間出たばっかりだから暫く無理じゃねーかなぁ。動いてるみたいだしなぁ」
原雨の夜の前触れだからな、あれ。
「って、まるでお化けか何かみたいに言うな」
そこで彼はこっちを向いたから、上げていた顔を下ろした。
てか、そんな文句つけられても。思ったままを言っただけなのに。
「とにかく百年くらいはないと思う」
「……周期があるのか。ということは何か決まったルートを回っているかもしれない……?」
あー、これはスイッチ入ったな。
ぶつぶつ言い始めた魔法オタクに、どうするかと頭を掻いた。




