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芋掘りへ行きましょう

 ビハール湿原を探索経由して、超音速艇でパタン王国へ向かうようにパイロットゴーレムにプログラムする。すごい加速度で空に舞い上がる船。

 船は帆のないヨットのような形で前回の船と同様の流線型なのだが、これはもっと細身だ。例えるならサンマのような姿をしている。


 やはりエンジンや翼のようなものはなく、装飾も最低限でかなり地味である。一方で、風の精霊がラウトたちが乗る場所を除いて船体のほぼ全体を取り巻いているので、物々しい雰囲気がある。


 そのサンマが幾重もの防御障壁を展開して飛んでいく。この防御障壁は超音速の飛行で生じる衝撃波と空気の圧縮により発生する断熱圧縮熱から、機体を保護する役目を果たしているようだ。

 サンマ型の機体のすぐ後方には、衝撃波が発生すると形成される、ろうと型で白い雲状に見える衝撃波界面がくっきりと見えている。そのまま飛行機雲になって、サンマが飛んできた道筋をしるしていた。


 パイロット席は船の最後尾で、それよりも前は客席になっている。ソファーに横たわりながら酒を飲むミンヤック。先ほどオーガたちに振舞った酒とは別の酒で、蒸留酒のようである。

 すでに2本目を飲んでいるが、まだまだ多くの未開封の蒸留酒のビンが足元の袋から見える。


 ラウトはその猛烈な速度に興味津々で、外を眺めている。景色が高速で後ろに流れていく様子が面白いようだ。

 2人がいる客席では衝撃波や熱、加速度などの影響は打ち消されているようである。慣性制御がなされているのだろう。2人の守護樹もちゃっかり鎮座している。

 遠くの水面上には何頭かのスレイプニルが疾走している印である水煙が、筋になって巻き上がっているのが見えた。


 世界で一番巨大な淡水湖であるジャムナ内海を渡りきる。そのまま大陸に上陸して東へ進んでいくと、数百人規模のエルフと守護樹の団体が、眼下の大河沿いに北の高地へ移動しているのが見えた。ちょうど冬から夏への民族大移動の時期にあたる。


 上空から見下ろすと、緑の魔境のような深い森を、銀色の大ヘビのような大河がのたうっているように見える。その大河の中を北上しているエルフ達はさしずめ……

「大ヘビのウロコや模様みたいに見えるな」

 と、ミンヤック。


 ラウトも興味津々の様子で川面を見下ろしている。

「8つの衛星国の1つ、クエッタ王国の上空ですね。結構、こんな地域にも住民がいるんですね」

 ミンヤックは酒にちょっと酔いながら鷹揚にうなずいた。琥珀色に透き通る蒸留酒はラッパ飲みである。

「むう、季節移動か。北半球では夏になれば北へ高地へ、冬になれば南へ低地へ。オレの世界では考えもしない行動だよ」

「へえ、そうなんですか。楽しいですよ。移動の途中で色々ありますし」



 途中、場所取りで争う連中をカラート王国の上空から発見した。数名が川の上でワーワーとつかみ合いのケンカをしている。

 その様子を空中に発生させたディスプレーで眺めながら、ラウトが苦笑してクシャクシャの金髪頭をかいた。

「今日の停泊地の場所取り争いですね。この時期はよくあります」

 ミンヤックが飲みかけの蒸留酒のボトルを床に置いた。やれやれとため息をつく。

「オレたちは警察じゃあないが、役場の人間としては見過ごせないな。仕方がない、降りるぞ」


 ミンヤックが高速艇を騒乱場所に降ろす指図をラウトに命じる。

 ラウトがパイロットゴーレムに杖を使ってその指示を伝えると、高速艇が急停止した。続いて、地上の係争現場へと急降下する。船を取り巻いている風の精霊群の連携した動作が見事である。この急停止でも乗員や守護樹には何ら影響は見られない。


 ここの住民の姿も前に会った森オサたちと同様で、市販の衣服を全く身に着けていない。南なので、地衣類よりも粘菌が乾いて布のようになったものを体に器用に巻きつけている人が多いようだ。何となく、見た目で生春巻を連想させる。

 ミンヤックがすぐに高速艇から身軽にぽんと飛び降りてケンカの中心部へ降り立ったかと思うと、首謀者をぶん殴って縛りつけた。さすがにオーガに対してやったような衝撃音はしなかったが。

「バカモンが」


 あまりの鮮やかさに恐れ入る住民とラウト。やっぱり制圧力は確かなものである。

「オレはトリポカラ王国、医局のミンヤックだ。ラウト、この集団を管轄する森オサと森林警察に連絡しろ」

「はい」

 早速ラウトが杖を振って空中ディスプレーを出現させて、連絡を取り始める。


 ミンヤックが住民に視線を向けた。ビビる住民たち。しかしミンヤックは、白い大きな歯を見せて笑いかけた。

「少しは集団行動を憶えろよな。そうだ、病人やけが人はいるか? 診療してやるぞ」

 ラウトには住民らの言葉がなまりのせいで聞き取りにくかったが、ミンヤックは正確に会話をこなしている。恐らく、ドワーフの翻訳技術なのだろう。



 1時間後――

 長さ30メートルくらいのキングコブラに似た、ナーガに乗ってやって来た森林警官と森オサ達に見送られて、発進するミンヤック達。川ぞいに南へ超音速で飛行していく。

 やがて広大な湿原が見えてきた。太陽の照射に鈍く反応して高速船の船腹を照り返してくる。

 しかし30分ほど飛行しているが、水上の集落が1つも見当たらない。エルフがいる気配すら感じられないので、住むには適さない場所なのだろう。


 ラウトが空中に出現させた地図を確認してミンヤックがうなずいた。

「うむ、ここがビハール湿原だな」

 ラウトが呆れた声をあげた。

「うわあ……母さんが言ったとおりの秘境だ、ここ」


 適当な空中で船を浮遊停泊させる。まとわりついていた風の精霊群が交代して今度はクモの巣状になり、船を包み込んだ。これで風に流されずに湿原の上空で停泊できる。


 採集器具の確認をしてから、2人とも自分の守護樹に乗って船から降りた。

 そのままゆっくりと降下しながら、360度の視界を全て占有してしまう広さの湿原の上空を浮遊しつつ探索する。


 巨木がチラホラ突っ立っているが木の数は多くない。高さ数メートルに達する草のじゅうたんが湿原を覆い隠しているので、意外と水面が見える場所は少ない。

 巨大な草の間を、これまた巨大で長さが50センチを超えるトンボや蝶がゆっくりと飛んだり、草に取りついていたりしている。水中には無数の魚群がうごめいており、空中も水中も生物だらけだ。


「なるほど……なぜ住民がいないのか分かりました。蚊やアブが多すぎるんですよ、ここ」

 しばらく浮遊していたラウトが納得した表情でミンヤックに告げた。

 ミンヤックも同意する。

「うむ。確かに昼間だというのに、この大群はうっとうしいな。夜になれば、視界も遮られそうだ」


 確かに、空気が黒ずむほどの大量の蚊やアブの群れが2人を取り囲んでいる。ラウトが防御障壁の強度を操作すると、たまらず蚊やアブの大群は退散したが……それでも遠巻きに2人を取り囲んでいるのは変わらない。

「森の中でも蚊やアブは多いですが、ここは10倍以上いますね。これでは精霊魔法の強度を常時強めにしないといけませんから、守護樹へ蓄える電気が溜めにくくなります。生活に不便ですね、確かに」


 ミンヤックが上空を仰ぐ。

「それに森の中じゃないから、熱帯の直射日光がきついな。照り返しもあるから、わざわざこんな場所に住む物好きは少ないだろうよ」

 そう言ったミンヤックの黒い目が輝いた。

「おお、見つけたぞ。結構な大群落だな」


 ヤム芋の特徴的なハート型の大きな葉が、他の草を押しのけるようにして目立っている場所がある。群落の広さはトリポカラ王国の都ほどはあろうか。

 上空の衛星から照射されている薄黄色の光が、この地域全体に降り注いでいるのを確認して、ラウトもうなずいた。

「そうですね。衛星からの位置情報も植物の波動特性も一致していますから、これで間違いないですね」

 そう言って、ミンヤックの後から自分の守護樹に乗って湿原に降下していく。


「よし、早速サンプルを引っこ抜くぞ。乳液が毒性を持っているはずだから、手袋をしろ」

 ミンヤックが腕をぐるんと回した。

 地面は泥沼なので、それぞれの守護樹に乗ったままの作業になる。手袋をした両手で芋の巨大な茎をつかみ、足を踏ん張って「せーの」で、2人で引っ張る。

 ……が、びくともしない。

 守護樹が抱いている岩とヤム芋の茎を丈夫なケーブルでつないで、上空へ持ち上げて引っ張ってみるが……それでも動かない。


「こりゃ、相当でかいな」

 ミンヤックが汗をふく。ラウトもフーフーと息を弾ませながら「ですね」と同意した。

「しょうがない。使い捨てでもったいないが、ゴーレムを使おう」

「はい、先生」


 ミンヤックがポケットから小さな泥人形を落下させる。と、ムクムクと身長が20メートルもある巨大なゴーレムに成長した。土でできているが、姿はクマのぬいぐるみに似ている。

 早速ミンヤックが命令を下す。

「このヤム芋を3本引っこ抜け」


 ノサノサした動きで、ゴーレムがひょいと3本のヤム芋を泥の中から引き抜いた。勢い余って空中高く芋が飛び上がる。さすがに強力である。その代わり反作用で、ゴーレムは腰まで沈んでしまった。


 ゴーレムが引き抜いた芋は、直径が10メートル、長さが6メートル程度もある巨大なヤム芋だった。芋が巨大すぎるので、ゴーレムでも身長が足らなくて持ち上げきれず、水の上に落ちて浮いている。

 芋の上に茂っているハート型の葉は茎の長さが6メートルほどあり、1枚の葉の面積は高速艇1隻分は優にある。それが30枚ほど1つの芋から生えていた。巨大ではあるが、遠くから見れば確かにヤム芋の姿であることが分かる。


 ミンヤックが苦笑した。

「こりゃ、抜けないわけだ。しかし、野生種でここまで巨大なのは珍しいな。よし、そのまま結界に放り込んでくれラウト」

「はい」

 ラウトが小瓶を取り出して、杖も取り出した。

「えーと、使用説明書は、と……」

 杖を振って、空中に説明文を呼び出している。


 ミンヤックが冷やかす。

「精霊魔法じゃないと、とたんに初心者魔法使いになるもんだな」

「魔法使いのウィザード魔法は、精霊魔法とは魔法場の捉えかたが、かなり違うんですよ。えー、もう少し待ってください。よし、設定完了、吸引開始」


 パッと巨大な芋がゴーレムの腕ごと消えてなくなって、小瓶の中に納まった。ラウトがクシャクシャの金髪頭をかいて照れる。

「空間選択範囲の取り方が難しいんですよ。これで許してください」

 はははと笑うミンヤック。


 ゴーレムは停止したまま、すでに胸まで泥に沈んでいた。芋を引き抜いた際に、茎から乳液が飛び散ったのだろう。ゴーレムの上半身についた場所が変色している。

 それを見て、ミンヤックが呆れたような顔をした。

「野生種だけあって結構アクが強そうだな、こいつは。しかし、ゴーレムがここまで沈み込むかね。底なしだな、ここは」


 ラウトが小瓶をポケットにしまいながら訊ねた。

「ミンヤック先生、このゴーレムは?」

「もう停止させたから、次の日には崩壊して土に戻っているよ。さ、船に戻ろう。そのビンは帰国するまで保存が利くかね」

 ラウトが困ったような顔をして答えた。

「ええ、多分。酵素や微生物の活性を低下させる、停滞魔法ガスを充填させたビンですから大丈夫かと」

「ああ、あのガスか。俺だったら、コムラントカゲの黒焼き粉ではなくて、サルパン縞ヘビを1年発酵させて液状にしたのを使うがな。まあ、少し心もとないが……大丈夫だと期待しよう」

「はい」


 ミンヤックが巾着をブンブン振り回して苦笑した。

「ははは。ショベルを使う場面はなかったな。これほどの泥沼だとは想定していなかったよ」

 守護樹に乗って船へ戻りながら周りを見ると、水面を黒く染め上げる無数の魚群の中に5メートルほどの巨大な影がいくつも蠢いている。水面や空中にも、これまた50センチくらいの巨大な昆虫がいる。空中にいるのはトンボや蝶、アブに似た姿で、水面から顔をのぞかせているのはタガメに似ている。


 ミンヤックがそれらの巨大生物を見下ろしながら首をかしげた。

「この世界は、なぜか酸素濃度が異常に高いんだよ。だから虫や魚が巨大化しやすいんだな」

 ラウトが意外そうな顔をした。

「へえ、そうなんですか」


 ミンヤックが「おいおい」と言わんばかりの顔をする。

「……まあ、エルフ世界の学校教育では、他の世界のことはあまり習わないようだから無理もないか。オレも、喉に過剰な酸素を吸わないようにするフィルムを入れてる。これがないと酸素過剰で調子が悪くなるんだよ」

 へえ、と感心するラウトにミンヤックがいたずらっぽく笑って、巨大生物達を太い腕で指し示した。

「どうだ、これもこの世界の特産品に十分になるぞ。マニアにはたまらないだろうよ」


 ラウトが渋い顔をした。

「これが特産品になってもねえ……さらに誤解されることになりませんか。どうも私たちのエルフ世界は、野生の王国みたいに思われているそうじゃないですか」

「そりゃ、そうだな」

 はははと笑うミンヤック。


 その時、ドパーンと大きな音と波を立てて3メートルのナマズのような巨大な魚が水面から躍り出た。空中ででかい口を開けて、50センチのトンボをひと飲みにする。

「おお」

 守護樹から身を乗り出して見る2人。それを合図にしたのか、周辺に潜んでいた他の巨大昆虫が10匹以上も一斉に逃げ出した。タガメ、クモ、バッタやコガネムシに似た姿である。中には体長が80センチにも達しそうなものも見える。


「おお……こんなにいたのかよ」

 ミンヤックが驚いている。「そうですねえ」と、平然としているラウトの顔を見て首をかしげた。

「なあ。前から不思議に思っていたんだが……こんな巨大な虫どもがうじゃうじゃいるのに、エルフは平然としているよな。何か理由があるのかい?」

 問われたラウトも少し戸惑ったようだ。

「え、ええと……そうですね。私たちが精霊魔法に長けているというのが理由でしょうか。虫や動物にとって、精霊というのは偉いというか触れてはいけない神聖なものです。それを使役できるエルフも同じように認識されているのだと思いますよ。それに私達は常時、精霊魔法のおかげで電磁波を発していますから、それもあるのかもしれません」


 ミンヤックが腕組みして大きくうなずく。

「ふむ、なるほどな。確かに病院ではエルフが虫刺されに遭ったケースはなかったからなあ。便利なもんだな」

 ラウトがクシャクシャの金髪頭をかいて照れる。

「全ての虫に対して有効ではありませんけれどね。私もこれまで2回攻撃されましたし。特に森アリや大スズメバチは精霊魔法を使えますから、彼らに遭遇すると急いで退散しないとケガをしますね。それに、魚や獣には高度な精霊魔法を使いこなす種類も意外に多いんですよ。彼らにも注意が必要です」


 ミンヤックが再び大きくうなずいた。

「ふむ……まあ、世の中には絶対なんてものは存在しないからな。バランに聞いても、あやつは満足に教えてくれないんだ。助かったよ。さて、ひと仕事終わったし、船に戻るか」



 高速艇はビハール湿原の上空を飛び続けていた。この大湿原は地図で見るとおり、かなり広大である。2人の守護樹が日光浴をしてザワザワ何かやっている。

「ミンヤック先生。そういえば、この湿原のかなり北にソン王国という、8衛星国の一つがあるそうですよ。土がよく肥えていて、果物や漬物がおいしいそうです」

 ラウトが地図を見ながら話す。


「そうかい。これだけの森が南にあるからだろうな。しかし、君たちは漬物なんてよくあんな臭いものを食べるもんだなあ」

 ミンヤックが太い眉をひそめた。その言葉に驚くラウト。

「え、そうですか? 私達の食事って、臭いんですか?」


「おうよ」

 顔をしかめてミンヤックが鼻の前で手をパタパタさせた。思い出したらしい。

「どんな料理もドロドロになっててムワーッと臭いぞ。果物とキノコ、虫しか食べないサン連中の飯は、電磁調理するから香りもいいし、果実酒はちゃんと酒母を使うから品質が安定していて、まだ可愛いけどなあ。お前のようなモス連中は、乳製品も穀物も貝も食べるだろ。しかも全部発酵させるから、ドロドロで臭いんだよ」


「モスって何ですか、その分け方は」

 苦笑するラウトだったが、首をかしげて考え込んだ。

「うーん、そうですか? おいしいんですけどね」

「特にチーズだ、チーズ! 何だ、あの臭いは」

 ミンヤックがとうとう激昂した。余程、嫌な思い出らしい。


 チーズと聞いてラウトも笑い出す。

「あはは、先生の言うサン連中からもよく言われますよ。でも、本当においしいんですよ。表面や内部に色々なカビを生やしたり、ダニやハエの力を借りて熟成させたものは絶品ですよ」

「うー」

 唸るミンヤック。胃もたれまでしてきたようだ。


 ラウトがさらに追い討ちをかける。

「豆腐も私達は発酵させますしね。さすがにちょっと香りはきついですが、チーズに似たマイルドな食感になって、これもおいしいですよ」

「いや、あれは食い物じゃないぞ。生ゴミの臭いしかしねえ。しかも3日くらい日向で放置したやつのだ」

 断固否定するミンヤック。


 しかし、ラウトは平然と話を進める。

「ミンヤック先生は酒が好きですよね、乳酒も作っていますよ。微炭酸の半固形でこれもなかなか」

「いや、遠慮しておこう」

 言下に断るミンヤック。

「そうですか? 残念だなあ」

 不思議そうに首をかしげるラウト。

「ミンヤック先生は、普段どんな食事なんですか?」


 ちょっとだけミンヤックの顔に生気が戻った。

「ん? 酒が半分以上だが、もっぱら肉や魚と芋だな。これに蜂蜜なんかを足してオーブンで焼いたりするんだ」

「ああ、そうか。火を使う調理法なんですよね」

 ラウトが相づちをうった。

「でも、先生。火で加熱したら、焦げたり栄養分が分解してしまいませんか?」

「うむ、少しはな。だけど肉や魚は香ばしくなってうまいぞ。これが酒と合うんだな。ちゃんと野菜も塩スープにしたりして採るし」


「へえ」

 考えるラウト。

「ちょっと想像ができませんけど……それなら、肉食もする先生の言うところの、リッピ連中と似ていますね」

 ミンヤックが1メートル以上も飛び上がった。黒褐色の髪が見事に逆立っている。

「うがーっ! あんな連中と一緒にするなっ。あれは最悪の食生活だぞ。生肉や生魚をそのまま発酵させるんだぞ。オレは危うく気絶しそうになったんだからなっ」


 ラウトも苦笑してうなずいたが、一応注釈をつけた。

「王族が信仰している宗派ですよ。あまり騒がないで下さいね。まあ、はあ、確かに、あれは行き過ぎのような気がしますね。ま、臭いさえガマンすれば、あれはあれでおいしいですよ」

「もう止めよう、この話題は。吐き気がしてきたよ」

 大きな手をフルフルと振って、げんなりするミンヤック。やはり、不思議そうな顔をしているラウトであった。



「お、見ろ。ラウト。国境警察が来ているぞ」

 ミンヤックが声を上げる。高速艇はちょうど大森林を抜けて広大な太平洋に飛び出した頃で、行く手には広大な水平線が広がっていた。

 ラウトも感心したような声をあげた。

「あ。グリフォンですね。へえ……ああして飛ぶんだ」


 国境警察は広大なトリポカラ朝の国境地域を警戒するために、一般魔法生物で巨大な猛禽類の形をしたグリフォンに乗って領空を飛んでいる。

 しかし、都から離れた勤務地であるので、その大空の勇者の姿はなかなか見かけることができない。


 そのパイロットの警官が手を振って合図をし、そのままグリフォンの翼をひるがえして、鋭角な角度で遠ざかっていった。

 音速を超えた速度で飛んでいるこの高速艇をはるかに上回る速度で飛んでいるので、当然グリフォンは防御障壁に包まれており衝撃波の雲もはっきりと現れている。それに加えて鮮やかな急旋回もこなすという、見事な羽さばきである。

 こうして見ると、高速艇の動きが陳腐にも思える。高速艇はそのままの進路で衝撃波を発生させながら、超音速で太平洋のかなたへ向かって飛んでいった。


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