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図書館で調べ物

 原因調査と、その対処を終えて都に戻った。しかしヤム芋が不足していることは変わりない。

 そのため他の国に問い合わせしつつ、ラウトに命じて図書館のデータベースで代替品となりそうな生薬を探させることになった。

 都は航海を続けていて、寒くなると南へ、暖かくなると北へ移動している。現在は、ジャムナ内海の沿岸を徐々に北上していた。


 その図書館の外にラウトの守護樹がいた。隣に数体の守護樹が集まって日光浴をしている。

 ラウトは官吏試験の勉強でよくこの図書館を利用していたのだが、こういった専門分野の調べ物は初めてなのでウロウロして迷っているようだ。

「思ったよりも広いからなあ」


 図書館自体は外から見ると、こじんまりとした質素な石造の建物だ。しかしいったん中に入ると、結界魔法の効力圏内になる。そこでは、上にも下にも無限に伸びている巨大な吹き抜けの高層ビルの内部のような景観だ。

 その全ての階層には、ぎっしりと大量の本が納まっている。本の重さで図書館が倒壊する心配はないらしい。

 人影は非常にまばらだ。図書館内部の景色は、それ自体が1枚の絵画のような趣を漂わせている。さすが300万年分の蔵書数である。


 階段を上がりながら、目的の本がどこにあるか推理するラウト。

「今までは2階フロアまでしか利用していなかったけれど、なかったよなあ」


 風の精霊がやってきた。精霊語をエルフ語へ自動翻訳する音声魔法がかけられた紙のようなヒラヒラしたものを身につけている。風の精霊そのものはほとんど透明でぼんやりと輝いているだけなので、この紙が本体かのような錯覚を与えるが、これはあくまで付随物である。

「何をお探しですか」

「うん、生薬に関する本を探しているんだけど」

「それでしたら、地下9階になります」

「げ」


 地下9階フロアで探すが、見つからないようである。

「ないなあ。確かに生薬関係なんだけど、一般書ばかりだ」

 そこにまた別の精霊がやってきた。

「何をお探しですか」

「もっと専門的な本はないかな」

「専門書は別の階にありますが、許可が必要ですよ」

「うん。自分はイデ‐ラウト‐ジャンタン‐モス。薬師部の所属です」

 精霊がピカピカと数回、光を天井に向けて放ち、同じくらいの回数の光を天井から受けた。

「確認しましたイデ‐ラウト‐ジャンタン‐モス様。地下23階になります」

「げ」


 地下23階。さすがにぐったりするラウト。

「ないなあ」

「何をお探しですか」

「いや、だからね、ん?」

 今度は精霊ではなく、若い女の図書館員が立っていた。


 ラウトよりもやや背が低く華奢な体つきで、きちっとした白い長袖シャツに濃いこげ茶色の長ズボン。

 干し草のサンダルは女の子らしいアクセサリーがちりばめられた流行のものだが、図書館の森閑とした雰囲気を乱していない。肩を覆うローブは図書館の壁と同じ淡い茶色で、ふわりとした金髪が腰まで届いている。


 顔は服装の地味さ固さにしては、意外と赤味がかって健康そうだ。その彼女の青い目がラウトを真っ直ぐに見ている。すらりと素直に伸びた鼻には点々とソバカスが。

「私、この図書館の司書です。先ほどから見てましたら、ご苦労されている様子でしたので参りました」

「うん……無理難題を頼まれてね」


「まあ」

 若い女司書がラウトの話を聞き終わって同情した。

「なるほど、それは難しい要求ですね」

「でしょ」

 クスリと笑って司書が杖を取り出した。司書専用の杖なのだろう。こげ茶色で地味だが、この図書館の雰囲気にはよく合っている。

「では、検索させてみますね。招集レベル2」


 杖を振ると、空中に10匹の指ほどの大きさの羽のないフェアリーが現れた。

 まるで図書館に似つかわしくない原色、蛍光色バリバリの派手なフリフリした装飾だらけの舞踏服をまとっている。背中に羽飾りを背負っている奴までいる。さすがに電飾はつけていないが。

「シロスジヤム芋の成分と近似している、野生の植物名と、その繁殖地を検索しなさい」

 たちまち、キャーと笑い声をたてながら光の筋となって飛んでいくフェアリー群。


 彼らを司書が苦笑しながら見送った。

「静かに探せないのが欠点なの。とりあえず、この図書館全館の機密扱い以外の文書の中から検索してもらっています」

 ラウトが礼を述べた。

「ありがとう。助かったよ。階段を上り降りするのだけでも大変だから」


 司書がキョトンとした顔をした。

「あら、浮遊魔法は習得しておられないのですか?」

 ラウトが癖の強い金髪頭をかいて弁明する。

「うん……恥ずかしながら、運動関係はまるでダメでね。どうしても壁に正面衝突してしまうんだ」


 司書がクスクスと笑って、照れているラウトに手を差し出した。

「でしたら、私の手を持って下さいな。1階までお送りしますわ」

 ラウトの顔が明るくなる。

「そりゃ、助かるな。頼むよ、えーと……」

「サキ‐コラール‐ミンタマ-フ‐サンです」

「ミンタマーフさんですね。私はイデ‐ラウト‐ジャンタン‐モスです」

「コラールで構いませんよ。ジャンタンさん」

「では、私もラウトでお願いします」

 コラールが、微笑んでうなずいた。

「はい、ラウトさん」


 コラールがラウトの手を取って「1階へ」と、指で天井を指し示す。

「うわ」

 ぐうんと、加速度をつけてラウトとコラールが浮き上がって、上へ飛び上がっていく。

 中央吹き抜けの図書館の中を、上に向かって飛行していく。各階層が高速で視界の後方へ流れ去っていくのが、少々スリリングである。

 コラールの腰まで伸びている、ふわりとした金髪が飛行でフルフルとなびいた。ラウトの髪も風でさらにクシャクシャになっていく。


 1階に着くまでに、もう一人の若い女の司書が飛んできて2人に並走してきた。

「あらら? こちらの方は? コラール」

「この方の検索をお手伝いしてるのよ、セリア」

 コラールが答えると、セリアと呼ばれた司書はがっかりした様子を見せた。

「なんだ、彼氏じゃないのか。じゃ、後でまたね」

 そう勝手に言い放って、別方向へ飛び去っていった。


 その後姿を目で追いながら、コラールがラウトに謝る。

「同僚のサキ‐セリア‐ルマパンサ‐サンです。すいません、少し口が悪いコで」

 が、ラウトは気にしていないようだ。

「仲が良いんですね」

 ラウトがそう言って微笑んだので、コラールもほっとした様子でうなずいた。

「はい。学生時代からの友人なんです」


 さて、上昇飛行中に検索に飛び回っていた、赤と紫と黄色の蛍光色がきつい派手派手衣装に金銀縁の巨大サングラスをかけたフェアリーが、けたたましく笑いながら戻ってきた。

 コラールに耳打ちして派手なキメポーズを決めてポンと消えていく。確かにうるさい。


 ラウトがコラールに訊ねた。

「ありましたか?」

「ええ」

 微笑んでうなずくコラール。

「32階にありました」

「げ」

 たじろぐラウト。歩いて階段を昇ったら筋肉痛になりそうだ。


「では、そこまで向かいますね」

 コラールがそう言うと同時に、更に加速がついていく。冷や汗を流すラウト。髪の毛がかなり凄いことになってきている。

「ひえ」

 一方でコラールは、加速がつくほどに嬉しそうな表情をしている。おでこが丸見えになってしまっているが気にしていない様子である。


 32階に到着すると、1匹のフェアリーがコイコイと手招きして、サンバっぽいリズムで勝手に踊って騒いでいた。

 背中と両手両膝に4本ずつ立てている孔雀のような羽飾りが、リズムに合わせて別々に独立してはためいているが……やっぱりうるさい。


 コラールが苦笑する。

「これさえなければ、いいんですけれどね」

 コラールがそのままテテテと歩いていって、フェアリーが指し示す本を手に取った。同時に奇声を上げて、キメポーズをバッチリ決めて消えるフェアリー。

「これですか? ラウトさん」


 ラウトも手にとって、検索されて薄く光っているページを開く。

「コレだと思う。ありがとうコラールさん」

「いえいえ、どういたしまして」

 にっこり笑いあう2人。


 ラウトが光の精霊を呼び出して、ページをスキャンさせて薬師部へ送信する。その作業の間にとりあえず聞いてみた。

「あの……コラールさんって、休日はツーリングに出かける趣味とかがあるのですか?」

「ええ、友人たちとよく」

「なるほど」

 納得するラウト。



 薬師部に戻るとミンヤックがニコニコしていた。早くも図書館からの情報を確認したようだ。

「おう、ラウト。よく調べたな。これは使えそうだぞ」

「そうですか、よかったです」

 エルフと違いドワーフは率直に褒めてくれるので、何となく面映い感じがするラウトである。これはこれで苦労したかいがあったというものだろう。


「オレの方でも他の国の薬草園に問い合わせていたんだが、どうやらパタン王国から分けてもらえそうだ」

 ラウトがちょっと考えるような顔をした。

「世界の裏側の国ですね」

「ちょっと、ここのと学名は違うがな。そこでだ」

 ミンヤックが身を乗り出してきた。



 ラウトの家は家族が全員役人であるので、通勤に便利な都内にある。

 家の外には、ラウトのを含めて4体の守護樹が暗がりで何かザワザワやっている。


 家自体は石造りの巨大な集合住宅とも言えるもので、家となる大きな石造りの箱が菩提樹のような巨大な木に飲み込まれている印象だ。ここでは10世帯が住んでいる。

 ここに限らず、都にある民間人の住居は全てこんな感じで、巨大な菩提樹やガジュマルのような林に飲み込まれているため非常に立体的である。


 やはり巨大な虫やトカゲに蛇が結構な数で徘徊していて、リスや猿などとあちこちでケンカをしており、林には無数の羽虫や鳥が乱舞しているのだが……エルフの住民は気にしていないようだ。

 それぞれの世帯のドア付近には、住民の守護樹が鎮座している。


 さて、ラウトの家では夕食の時間になって家族が集まっていた。

 空中ディスプレーには、実力派歌手で人気も国内一のアバンがバラードを歌っていた。彼の歌に共鳴するかのように、ラウトの家の風の精霊達が唱和して、ゆらゆらと天井を舞っている。

 室内は石の壁にさまざまな石膏や土壁を塗って温かさを演出していて、床も石畳ではあるが緻密で落ち着いた色合いのタイル状になっている。

 天井も土塗りが施されていて、光の精霊がいくつかガラスの器に入ってくつろいでいる。


 室内にはポスターやら時計、絵画が飾られていて、ベッドや机、イスにソファーなどもそろえられていた。何かの虫か動物をモデルにしたぬいぐるみもあちこちに置かれている。さすがに外を徘徊している巨大な虫や鳥などは部屋の中にはいないようだ。


 食卓にはドロドロしたものが多数皿に盛られている。昆虫の成虫や幼虫を煮込んだり、油で揚げたりした皿もある。

 それを囲んで父がネバネバしたスープをすすりながら、ラウトに話しかけた。

「へえ。新任早々、遠くまで出張することになったんだな。食あたりと時差ボケには気をつけろよ、ラウト」

「うん、父さん」

 ラウトも父と同じドロリと赤濁したスープを口に運びながらうなずく。


 母もライ麦パンのようなものに半分溶けて崩れたメロン状の黄色い物体を乗せて食べながら、念をおした。

「超音速艇に乗っていくから、距離はあるけど、それほど日数はかからないのね」

 ラウトが今度はブロッコリーのような野菜を、赤茶色でヨーグルト状のねっとりしたスープに浸しながら、うなずいた。

「だと思うよ。でも、途中で森の中で薬草を探さないといけないし、パタン王国でも向こうの人と話すことがあるかも」


 紫色に染まった納豆みたいなものを、母が先ほどのパンに乗せて食べながらラウトにいう。

「森ってビハール湿原でしょ。すごい秘境よ。住んでいる人もあまりいないんじゃないかしら」

「母さんがそういうくらいだから、相当なんだね。うん、気をつけるよ」


 姉が沢庵みたいな漬物をボリボリ食べながら、明るく笑った。口をモグモグさせながらラウトに聞く。

「パタン王国とは親密な関係だし、大丈夫よ。郵便事故も滅多に起きないしね。あ。ラウトがいない間、16番のコロッカス製の杖借りていいかな」

 ラウトもモグモグさせながら返事をする。

「構わないよ、姉さん。パタン王国では圏外になって杖が使えないし。でも壊さないでね。あれ、結構値が張るんだよ」

「分かってるって」


 母が納豆のようなものをおかわりしてラウトに訊ねた。

「じゃあ、今日はもう寝なさい。準備はすんだの?」

「あー……これからするよ」


 杖が使えないという事は、普段使う精霊魔法も大きな制限を受ける。

 自動認証や空中ディスプレーでデータや書類を表示させることが難しくなるのだ。そのため、仕事上で必要な身分証明証や印刷された紙の資料などを用意して持っていく必要があった。

 それらはもう準備されているので、小さなカバンに詰めればいいだけである。


 カバンの中は簡易結界になっているので相当な量を入れることができ、しかも、その重さは反映されないという優れものである。

 なので、この後でラウトの私物や洗面道具などをこのカバンに突っ込めば準備完了である。家族全員が役人なので、こういった出張には慣れているという事情もあるのだろう。


 居間では相変わらずアバンの歌うバラードが続いていた。

 外は野犬の大群が虫の大群を追い掛け回して、夜行性のネズミや虫たちがアパートを包み込む大樹の枝を駆け回っている。

 三日月が雲で陰ったように見えたが、それは上空を飛ぶ羽虫とコウモリの大群のせいであった。春の星座が月明かりでいくぶん薄くなっているとはいえ、見事なパノラマを見せてくれている。

 明日もきっと良い天気だろう。


ヒロインが登場しましたので、ラウト君と併せて紹介します。

挿絵(By みてみん)

白黒ですいません

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