第2話:絶望の魔王と、悦楽のリアム
「バ、バカな……! あり得ん! 我が『神滅斬』を真正面から受けて……傷一つ付かんだと……ッ!?」
凄惨な衝撃波と煙が晴れた玉座の間で、魔王ヴァルザードは大剣を構えたまま絶句していた。
目の前に立つ13歳の少年――リアムは、服の端すら焦がすことなく、神々しいまでの佇まいで佇んでいる。
だが、当の俺の脳内は、久々に訪れた『超弩級のご褒美』によって完璧に歓喜の爆発を起こしていた。
(あひぁぁぁぁぁぁッ!? なにこれ凄すぎる! 魂の底まで激痛と快感がジワジワ染み渡ってくるぅぅぅッ!!)
【固有スキル:『痛覚=昇華』発動中】
神滅属性連続刺激を検知 ──> 脳内麻薬(測定不能)に変換します。
【ステータス変動】
HP:15/15(※概念自動修復中)
STR:2,500 ──> 5,000(UP!)
VIT:99,999 ──> 999,999(真・神域突破)
(あぁぁぁぁ……! 魂が溶ける! 脳みそが完全に液体になって蒸発しちゃう……っ!!)
俺は至高の快感に包まれ、あまりの気持ちよさに膝の力が抜けてガクガクと打ち震えていた(※恍惚で腰が抜けているだけ)。
目口を半開きにして絶頂の悲鳴を漏らしそうになる俺。
だが、悪魔のパッシブスキル『恍惚の鉄壁』が牙を剥く。
弛緩し切った俺の絶頂顔は、即座に『世界を脅かす絶対的な悪の暴力を前にしても、一切の動揺を見せず、ただただ相手の愚かな破壊を慈悲の心で受け止める神々の如き不屈の聖者』の顔へと完璧に強制補正された。
「……ッ、ハァ、ハァ……! 素晴らしいよヴァルザード様……! 遠慮なんて要らない、もっとだ……もっと僕を叩きのめしてくれ……ッ!(※おかわり要求)」
俺はうっとりと瞳を潤わせながら、快感に震える手でヴァルザードに向かって一歩を踏み出した。
「な……なに……!?」
ヴァルザードの額から、ダラダラと冷や汗が吹き出す。
(なんなのだこいつは……!? 痛みに苦しむどころか、快楽すら覚えているかのように眼光を潤わせ……一切の武器すら構えずに俺へ歩み寄ってくる……ッ!)
魔王として数千年の時を生きてきたヴァルザードの脳裏に、初めて『恐怖』という概念が芽生えた。
(こいつは……俺を倒しに来たのではない……! 俺が放つ『全力の破壊』そのものを、全身で受け止め……呑み込み……無力化するためにここにいるというのか……!?)
「く……食らうがいい! これが我が全魔力を注ぎ込んだ最終奥義だぁぁぁッ!!」
狂乱したヴァルザードは、大剣を捨てて両手を掲げた。
玉座の間の空間が歪み、紫色の極大魔力球が生成される。
星をも穿つと言われる魔王の最終禁忌魔法――『神滅終焉領域』!
ズバァァァァァァァァンッ!!!
玉座の間全体を飲み込む形で、圧倒的な破壊の光線が俺を包み込んだ。
「――ッっ〜〜〜〜〜〜!?!?!?」
(ひぃぃぃぃぃぃッ!? 最高!! 魂の全細胞が歓喜で叫び声を上げてるよぉぉぉッ!!)
脳内で過去最大級のビッグバンが起こり、前世を含めた30数年の人生で間違いなく『頂点』と言える快楽が爆発した。
だが――。
ピコーン!
【通知:一定量以上の概念破壊・神滅属性ダメージを検知しました】
【パッシブスキル:『神滅耐性(完全無効)』を獲得しました】
【パッシブスキル:『概念破壊耐性(完全無効)』を獲得しました】
(……え?)
次の瞬間。
全身を包んでいた至高の激痛と痺れが、一瞬でスッと消え去った。
ドォォォォン……! と虚しく響く魔力の余波。
(あ……あれ……? 痛くない……? 気持ちよく……ない……?)
俺は青ざめて視界のステータス画面を凝視した。
【現在の耐性一覧】
・全属性・全概念ダメージ ──> 完全無効化
※神域の耐性獲得により、あらゆる攻撃によるダメージが発生しなくなりました。
(や……やだぁぁぁぁぁぁぁぁッ!? また耐性スキルが生えちゃったぁぁぁぁッ!!)
絶望。
魔王の最終奥義すら無効化してしまうという、究極の絶望が俺を襲った。
「う……うああぁぁぁぁぁッ!!(※最高の快感が終わって本気で絶望している)」
俺は耐性スキルが生えた悲痛のあまり、顔を覆ってその場に膝をつき、ポロポロと大粒の涙を流した。
「なぜ……なぜなんだヴァルザード様ぁぁぁッ! もっと……もっと僕を痛めつけてくれよぉぉぉッ!!」
「ひっ……!?」
魔王ヴァルザードは、ガタガタと全身を震わせながら後退した。
己の命を懸けた最終奥義を無効化され、目の前で涙を流しながら「もっと痛めつけろ」と懇願してくる少年。
(化け物……化け物だあぁぁぁッ!! 攻撃が効かないのではない……俺の全力を喰らって……遊んでいるんだあぁぁぁッ!!)
数千年君臨した絶対者は、恐怖のあまりついにその場にへたり込み、ガタガタと震えるのだった――!




