序章〜第一章 婚活の裏にある 秘密
序章 捨てられた「魔法」
東京湾を一望できるタワーマンション。
最上階に近い部屋で、理沙は静かに荷物を整理していた。
不要なものは捨てる。
それが、彼女の人生のルールだった。
昔の写真。 学生時代の手紙。 過去の人間関係を思い出させるもの。
「過去は、未来の邪魔になるだけ」
そう言いながら、理沙は箱の中身を処分していく。
その時、一冊の日記帳から一枚の紙が落ちた。
古びたチケットの半券。
十年前。
まだ理沙が何者でもなかった頃の記憶。
当時付き合っていた男が、少ない給料から少しずつ貯金して連れて行ってくれた場所。
誰もが憧れる、夢と魔法のテーマパーク。
しかし、理沙にとって、その日は最悪の思い出だった。
人混み。
長い行列。
周囲の楽しそうな笑顔。
すべてが幼稚に感じた。
「こんなところ、何が楽しいの?」
男は寂しそうに笑った。
「理沙が行きたいって言ったから……」
「昔の話でしょ」
彼女は冷たく言った。
「あなたって、結局こういう場所しか連れてこられないんだね」
その言葉で、男の表情が変わった。
帰り際。
理沙はチケットの半券を丸めた。
「こんなもの、何の価値もない」
そしてゴミ箱へ捨てた。
十年後。
理沙は再び、その半券を手にした。
懐かしさはなかった。
あるのは、過去を消したいという気持ちだけだった。
彼女は迷わず捨てた。
その様子を、マンションの監視カメラが記録していた。
画面を見ている人物がいた。
しかし、その顔は映っていなかった。
第一章|剥がれ落ちた記憶
半月後、理沙のもとに一通の封筒が届いた。差出人の名はない。中には、年収五千万を超える会社役員の写真と経歴書。そして一枚のカード。
「あなたにふさわしい相手をご紹介します。まずは面談を」
指定された場所は、都心の一流ホテルの一室だった。現れたのは、灰色のスーツを寸分の隙もなく着こなした、四十代とおぼしき男。名乗らず、ただ「代理人」とだけ告げた。
代理人は理沙を上から下まで、まるで品定めするように見つめた。
「あなたの美貌は完璧だ。だが」
彼は書類をテーブルに置いた。理沙の経歴書だ。
「経歴に、決定的な瑕疵がある」
学歴、職歴、家柄——理沙自身が積み上げてきたはずのものが、代理人の言葉ひとつで色褪せて見えた。
「瑕疵は、消せます。ただし条件がある」
代理人が挙げた条件は、奇妙なものだった。思い出の品をすべて処分すること。年収の低い旧知の人間関係を絶つこと。そして——過去に交際していた男の面影を消すための、いくつかの美容整形。
理沙は一瞬、進藤の顔を思い浮かべた。だがそれもすぐに、かつて彼を切り捨てた時と同じ冷徹さで押し流した。
「小銭しか稼げない、無能な人だった」
そう自分に言い聞かせ、理沙は契約書にサインをした。過去をゴミのように切り捨て、偽りの「輝かしい自分」を新たに築き上げるために。




