エピローグ エルピーダ
魔界が消滅し、巨大な地下世界が空洞となり地表は崩落した。
地表の七割が海となった。
その後も地殻変動は続き、大部分の生物が死に絶える、生物の大絶滅が起きた。
しかし、
生物は本能的に生き残る道を探し出し出す。
生物の大絶滅から200年後
力を失った魔族と人間族は混ざり合い、現在の人類の祖として生き残った。
しかし、他の生物の命を奪わねば生きてゆけないという呪にも似た宿命は、ここから始まった。
だがそれこそ
「神の支配から脱却し、自分たちの命を自分たちで背負って生きる」ことに他ならない。
世界の終焉から500年後…
魔力を失いながらも生き残った魔獣達は、
森や山や川や海など多様な場所に適応した動物に進化していった。
魔物の殆どは死に絶えたが、
生き残った魔物は崩れ去った地下空間の隙間に潜んで、細々とだが命をつないでいた。
そして、
モモ・ルーに焼かれ地上に落ちた創造神エビルは、
地下に潜り、自らを堕天使デビルと名乗り、
生き残った魔物を率いて力を蓄え、
いつか神に復讐すると誓っているという…
地上は500年の間に、人類が世界中で村や街を作り、繁栄していた…
「おじさ〜ん!」
「おや、診療所のとこの子だね?」
「キノコを沢山取ってきたの!パンと交換してくれない?」
「ああいいとも、診療所にはいつもお世話になってるからな。」
「ありがとっ!」
カゴいっぱいのキノコとパンを交換して、嬉しそうに帰ってゆく女の子
村から少し離れたところにその診療所はありました。
木造の扉は少し軋み、
窓辺には乾燥させた薬草が吊るされ、
庭には母の好きだった白い花が咲いている。
「ただいまー」
「お帰りなさい」
「キノコをね、パンと交換してもらったよ!」
「それは良かったですね、
では一つはお母様に持っていって下さい。」
「はーい」
女の子は診療所のすぐ外にある墓石にパンをお供えしました。
墓石には
『聖女モモ・ルーここに眠る』と刻んである
「お母様にあげてきたよエンプーサ!」
「では、私達も頂きましょう、エルピーダ」
女の子がイスを用意する。
それは、500年経ってようやく小さな女の子の姿になったエルピーダだった。
メイド服を着たエンプーサが隣に座る。
「…ねえ、
お母様は何で死んでしまったの?」
「お母様は人間ですからね、
寿命が短いのです」
「私は違うの?」
「エルピーダも私も魔物の血を引いているのです」
「ふ~ん…」
エルピーダはパンをかじりながら、いつもと同じおねだりをした。
「エンプーサ、ねえエンプーサ!
またあのお話を聞かせて!」
「…いいですよ、エルピーダ…」
エンプーサは遠くを見るように、いつものお話を始めました。
「むかしむかし、
この世界は三つの世界、
天界、地上界、魔界に分かれておりました…
そしてそこに聖女モモ・ルー…
エルピーダのお母様はいたのですよ…」
「…お母様は光の聖女だったんでしょう?」
エルピーダは胸に手を当てた。
そこには、母から受け継いだ小さな紋章がある。
紋章をなぞるのは、母を想うときの彼女の癖だ。
「そうですよ…
そして黒き聖女でもありました。」
「黒き聖女って怖いの?」
「いいえ…
『聖葬の黒焔』を使う、
強くて、とても優しい女性でした。」
「ふ~ん…私もお母様みたいになれるかなぁ?」
「ええ…エルピーダ。
あなたなら、何にでもなれますよ」
「じゃあね、私……お母様みたいな聖女になる!」
エンプーサは目を細めた。
その瞳には、涙が光っていた。
「……ええ。
きっとなれます。
あなたなら。」
少女はパンをかじりながら、
海を見つめた。
かつて王都があった場所は、今では穏やかな深い海となっている
世界は壊れた。
世界は変わった。
世界は生まれ変わった。
そして――
希望は、確かにここにいる。
エルピーダは風に髪を揺らしながら、
小さく呟いた。
「お母様……きっと見てくれているよね。」
海は静かに光り、
空はゆっくりと色を変え、
新しい世界は、今日も息をしている。
命は巡る
たとえ全てが破壊され
たとえ神がいなくても
生き物達は
新しい世界へと歩み出すものだから。
『聖女モモ・ルーと冥界の女神』 おしまい
『聖女モモルーと冥界の女神』のあとがき
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
本作『聖女モモ・ルーと冥界の女神』は、「神に定められた理不尽な運命に、人はどう立ち向かうのか」という問いから始まった物語でした。
聖女モモ・ルー、冥界の女神ヘカテー、夢魔のエンプーサ。
生まれも立場も、求める目的すら違っていた三人が共闘し、互いを信じ、最後には種族を超えた深い絆で結ばれていく姿を描けたことは、作者として非常に感慨深い経験となりました。
物語の終盤では、世界そのものが崩壊し、多くのものが失われていきました。
けれど、絶望の中で一握りの命を救おうと手を取り合った神族と魔族や、ミカエルの誇りある選択、そして母から娘へと引き継がれた命の灯火――それこそが、この物語で最も描きたかった「希望」の姿です。
神々の支配が終わり、自分たちの足で歩み始めた新しい世界。
500年後の静かな海辺で、エンプーサがエルピーダに語り聞かせた伝説のように、この物語が少しでも皆様の心に残るものとなっていれば幸いです。
最後に、モモ・ルーたちの旅路を最後まであたたかく見守り、付き合ってくださった読者の皆様に、心からの感謝を申し上げます。
また次の物語でお会いできることを楽しみにしています。
執筆者:toru




