彼の場合
変態注意。
前編とほぼ同じ内容の、ジル視点です。
あーやっぱり可愛いなーと目の前で何やら苦悩しているらしいルディをニヤケながら見つめる。
どこからどうみても完璧なこのブリザードビューティが実は天然で勘違い暴走を度々起こすと知られたら一体どうなることか。
少し考えて、まあ、間違いなくファンは増えるなと確信した。
ただでさえ学園関係者の三分の一以上がファンクラブ会員なのだ。これ以上増えたら手に負えなくなってしまう。黙っていよう。
ああ、そうそう。とりあえず自己紹介から始めようか。
ジールレン・ダイナハート。気軽にジルって呼んでいいよ。一応、転生者だがそんなことは些細なことだ。一番重要なファクターは、
『ルディアナ・コンデューナの幼馴染』だということ。
実際、僕が転生者としての経験を何に費やしたかというとルディのファンクラブをまとめ上げること、といえばその重要度が伝わるかと思う。
え、なにその無駄な転生特典、だって?わかってないな。君たちはルディを間近でみたことがないからそんな悠長なことがいえるんだ。
シルバープラチナの艶々髪!凍てつく氷のような青い瞳!弧を描くことのない朱い唇!それでいて我がままボディの完璧な曲線!ちなみに僕はきょぬー派です!
ふう、興奮でつい息が荒くなってしまったが、つまり僕はこれほどまでに完璧な美少女をみたことがない。
夢想したことがないかい?好きな芸能人、世界的有名なあの人、その友人や恋人になれたらどんなに素敵だろうと。
その、夢がかなったのが今の僕だ。
残念ながら前世の僕はルディのことを知らなかったが、何かのゲームや小説で主人公を張っていてもおかしくないのがルディだ。
その完璧っぷりったら、こちらの心をガンガンにへし折りグイグイ引き寄せるパワーに満ちあふれている。
最初に出会ったのは物心つくまえだったが、その美少女具合に衝撃をうけてついでに前世も思い出してしまった。
さようなら、純真な幼い僕。こんにちは、素敵ポジションに恵まれたと自覚した僕。まあ、後悔は全くないからいいのだけれども。
そのあとはルディを追いかけ後をつけまわし、時には引きずりまわして僕の存在をたたきこむのに必死だった。
ルディは僕に振り回されているとか言っているみたいだけど、とんでもない。
事実は全くの逆である。
転生というリードをもってしても勝てない頭脳とか。
――――さすがに理数系は僕の方が得意だが、魔術論系に関しては完敗です。
運動の度にプルンプルン揺れまくるすばらしきお胸様とか。
――――同志たちと熱く胸議論を交わすのは実に有意義な毎日です。
加護チートをもってしても歯が立たないずば抜けた魔術センスだとか。
――――学生レベルを突き抜けて一流魔術師並だが、ルディと対戦していた宮廷魔術師の連絡先は僕が捨てておきました。
すべてが崇拝されるのにふさわしい、まさに完璧な彼女。
だが少しでも疾しい気配をまとわせてすり寄れば、「なんだか気持ち悪い視線」と切って捨てられるから近づくのは至難の業だ。
あんな美少女に、年頃の男が欠片も衝動を覚えないって難しいよ?女の子たちでさえハアハアしているってのに。
え、僕はどうなのかって?もちろん疾しいこと考えまくりですとも!健全な男の子ですもの!
でも僕の場合はルディが物心つくまえからこの視線だったから、その環境に慣れさせた。
「なんか変だけど、まあこんなものか?」程度には。
ルディの突っ込みがやたら激しいのはそのせいかもしれないが、我々の業界ではご褒美なので気にしない。
同じく僕がカメラをとりまくるのも慣れているから、至近距離でばっちり素敵な写真を撮ることができる。一応黙認なので盗撮じゃないと強調しておく。
この写真の存在もあって僕がファンクラブ会長することに文句がでないんだけど。
あ、写真は金では売らないよ?これは『飴』なので、忠誠を示したり何かルディにとって有意義なことをした奴だけに下賜している。
入会時以外にはなかなか貰えないから、写真は裏ですごくプレミアがついているらしい。売るやつなんか滅多にいないけどね。
あと飴が少なすぎると暴走しちゃうから、月に1度の月報も忘れない。
こちらはお金を取るが、幾つか無難な写真も載せるし、ルディの何気ない休日なんかを垣間見れるとあって売り上げは上々だ。
最近は漫画や小説なんかも同時に連載し、爆発的に人気は広がっている。いわゆる二次作品ってやつだが、萌は世界を超えるよねー。
そしてそんな彼女には、崇拝者はいても友達はなかなかできない。
普通の美人程度だったら話しているうちに慣れちゃうもんだが、彼女の場合は何をしていても最初から最後までずっと綺麗すぎて目に眩いのだ。
会話に慣れるどころか、その素晴らしさを上書きされるばかりで情熱がとどまることをしらない。
結果「会話→鼻血もしくはハアハア→なにこれキモイ→遠巻き」の無限ループとなる。
彼女が友達をつくろうと頑張れば頑張るほど崇拝者はふえるので、まあ彼女的には無駄な努力なわけだが、それを教えてあげようとは全く思わない。
僕だけの彼女でいてくれればいいのだ、と言い切るにはルディは目立ちすぎているが、心情的にはそれに大差ない。
にこにこと何気なくルディの隣をキープしながら、他の有象無象を牽制するのが僕の産まれてきた意味だと心底信じている。
で、いつかその存在意義が報われるのだということも実はこっそり信じていたりする。
物語的には主人公と幼馴染がくっつくなんてありきたりすぎて面白味もなんともないけど、王道でもイイジャナイ!と叫びたい。
相手役として不足しているのは何か?知力や技術だけなら喰らいつく自信がなくはない。
カリスマばっかりは生まれ持ったものだからちょっと分がわるいけど、経験として部下を手懐けるノウハウは持っているつもりだ。
あとはなんだ。何をしたら君を手に入れられる?
どんどんと花咲くばかりのルディを手折るためには、どんな努力が必要なんだ?
自問自答を繰り返しても、当の本人に自覚がないからはっきりとした答えはでないまま。
ならば少しくらいずるい大人の知恵で周りを操作したっていいだろう?
何も考えていない馬鹿のふりをして、実は狡猾な狐を演じるのは性にあっている。
それでルディを手に入れられるのならば尚更のこと。
不可侵条約なんて破るためにあるんです。
それでも友達を心底欲しがるルディに惚れた弱みで幾人か適当な奴らを見繕ってそれとなく接触させてみる。
不本意ながら一番妥当なのが生徒会長であるクウロであった。
もう少し扱いやすい奴ならよかったんだが、一応少しでも自制できて、いざという時のために弱みを握っている輩というとあまり選択肢がなかったのだ。主に前半部分的な意味で。
なんだかんだ妹を溺愛しているから、それごと巻き込めば下手な暴走はするまい。
真っ先に妹が暴走するのは計算外だったが。
ルディがミルルカ相手に浮かべる微笑は久々のもので、周りにいたギャラリーごと僕らを爆破した。
直撃を受けたミルルカはもちろん墜落。ちっ、うらやましい。
「私のせいなのか、やはり」
って独り言に頷きかけ、止める。
確実にルディのせいだが、その真意をはき違えていることは想像に難くない。あまりいじめすぎるのもよくないだろう。
友達が欲しい、と決意のこもったルディの声に周りのギャラリーの期待度が高まるが、そうそう美味いこといかせてたまるか。
「つまりー、ルディはむやみに騒がず、盗撮もせず、話している間に急に鼻血を出したり絶叫したりせず、過度な崇拝や煩悩を持ったりしない、普通の、友達が欲しいんだねー?」
周りの期待をはっきりとへし折るため、大きな声で確認。
これでルディが誰でもいいと言ってしまったらこの後が修羅場だが、さすがルディさん。皆の心を折ることに定評がある。
「当たり前だ、そんなこと。大体そんな奴がいたらただの犯罪予備軍じゃないか。気持ち悪い」
気持ち悪い、の一言で9割が沈んだ。
「だよねー。できれば同じくらいのスペックあればより良いよねー」
同じくらいのスペック、で残りの1割も沈めておく。ふっ、身の程をわきまえていて結構なことだ。
「つまり現状で一番その友達定義に近いのが、僕とクウロなんだけど、その辺で我慢しない?ついでにミルルカちゃんも含めていいけど」
僕だって妥協に妥協を重ねた人選なのだ。ルディにも少しくらい妥協してもらいたい。
が、ルディの眉間にかるく皺がよる。あら、どしたの?
「クウロって誰だ?」
……さっすがルディさん。本当に、周りの心を折ることに定評があるねえ。
いやいやながらもフォローをすると、クウロは本当にやり手の生徒会長で、1500人近いこの学園をものの見事にまとめ上げているのだ。
彼の代になってからすでにいくつか校則の緩和や学園祭の予算増加など画期的な変革が起こされている。まあ、僕も裏で手伝ったけどね?
ともあれ、クウロの名を知らない奴はこの学園において恐ろしく稀だ。
ましてや、同じテーブルで食事をしたのにもかかわらず、その名を知らないとは。
「つまりある程度会話できる仲になっても、そこからが長いわけだ。おーけー」
ああどうしよう、にやつきがとまんない。
この考えが勘違いなんかじゃないことを証明するために、ダメ押しでルディに問いかける。
「ところでさすがに僕の名前は知っているよね?僕は友達じゃないわけ?」
まるで空を指してあれは何色ですか、と問われたかのような顔をしている。
そんな当たり前のことを聞くんじゃない――――如実に伝わるその肯定が、どれほどうれしいものなのかきっとルディにはわからない。
「ジルはジルだろう。ジールレン・ダイナハート。不本意ながら、私の唯一の幼馴染だな」
うん、うんっ、そう。君は、僕の、唯一だ。
「ありがとう」
と返すと、ばつが悪そうにふいっと顔をそむけられた。でも、今だけは顔を見られなくて良かったかもしれない。
いくら僕の視線に慣れてきたといっても、こんな欲情丸出しの顔は滅多に向けないから。
ああ、押し倒したい。キスして、跡つけて、嫌がってでも引き寄せて、そのうち自分からねだるくらいにメロメロにしたい。
前世での経験なんて何の意味もない。この年頃の男の頭の中なんて、大体18禁だ。それを隠せるかどうかの違いしかない。
油断しているといいよ、ルディ。そうやって、僕の前で隙をみせてくれ。
どうせ君がそこにいるというだけで誘われちゃうんだから。
友達なんてとんでもない。
僕は君に、違う関係の名で唯一と呼ばれたい。
他になんて渡してあげないよ。どんなずるい手を使ったって、絶対に離してなんかやらない。
もう決めちゃったからね。覚悟するといいよ、ルディ。
いつか僕の我慢が抑えきれなくなるまで、無駄な努力を続けるといい。
友達をつくろうとあがく君はとてもかわいいけど、本当は僕だけでもいいだろう?
ね、ルディ。いつか僕の本気をみせてあげるから、その時まで待っていて。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
これ以上書くと18禁になるので続きません。
勘違いというキーワードが好きです。
今度は最強系で勘違いを書いてみたい。