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47●苦楽を共に

肉の壁の表層が、低周波の衝撃で層を剥がすように崩れ、その下の暗紫色の筋組織が露わになった。


だが、生じた亀裂の端から、既に蠕動が始まっている。新しい組織が目に見える速さで埋まり、その治癒速度は、リン・ユエチュアンの破壊速度すら上回っていた。


リン・ユエチュアンは肉の壁の前に立ち、表情はほとんどない。だが、その呼吸は既に荒くなっていた。


高強度の低周波を放つたびに、体の内側で裂けるような痛みが増す。内臓が共振の中で微かに震えていた。


深淵悪魔が、地割れの中から完全に這い出てきた。


巨体は全身が暗紅色に染まり、荒れた皮膚には縦深の裂け目が無数に走っている。頭部はなく、胴体の先端には、縦に開いた黒い裂け目があるだけだった。


六本の太い肢体が体の両脇から伸び、その先端の骨の爪が、地面を引っ掻いていく。


リン・ユエチュアンの低周波が再び凝縮し、周囲の空気が歪み、地表には無数の亀裂が蜘蛛の巣状に走る。


見えない波動が肉の壁にぶつかり、その表面に深さ一メートルを超える裂け目が炸裂した。内部の人影が、裂け目から一瞬だけ覗く。ある東カーネルハイト隊員の手だ。青白く、かすかに曲がり、次の瞬間には、湧き上がる暗紫色の組織にまた呑み込まれていく。


そして、それと同時に、深淵悪魔が動いた。


巨大な体躯は、その体からは想像もつかない敏捷さで、リン・ユエチュアンへと襲いかかる。六本の骨の爪が、同時に振り下ろされた。


リン・ユエチュアンは最後の瞬間に身をかわし、足元の音波で距離を取った。だが、深淵悪魔の攻撃は、その緩慢な見た目よりもはるかに速い。一本の骨の爪が薙ぎ払われ、まともに彼を打ち据えた。


音波の障壁が、衝撃の下で激しく震え、低い唸りを上げる。


リン・ユエチュアンは全身を吹き飛ばされ、空中で何度も回転しながら岩壁へと激突した。砕けた石が飛び散り、粉塵が舞う。


彼は瓦礫の中から這い出した。口元には血の筋が滲み、肋骨が折れた鈍痛が走る。それでも音波の障壁が、衝撃の大部分を削ってくれた。


深淵悪魔の攻撃は、障壁に逸らされた後も余勢を残していた。彼は血の塊を一つ吐き出し、それでも視線は、あの巨物と、その後方で未だにゆっくりと収縮を続ける肉の壁とを、交互に見据えていた。


これ以上、長引かせるわけにはいかない。


リン・ユエチュアンは背筋を伸ばし、足元で音波を炸裂させ、全身を弾き出す。深淵悪魔の連続する三度の叩きつけをかわしながら、移動の合間に低周波を放ち、肉の壁を切り裂いていく。


肉の壁の裂け目は広がっている。だが、その治癒速度も、加速度的に上がっていた。


彼は深淵悪魔の攻撃を避けながら、低周波を打ち続ける。


音波が空気中を震わせ、地面が寸断され、肉の壁の表面が、剥がされ、覆われ、また剥がされ、を繰り返した。


彼の内臓へのダメージは蓄積していく。一打放つたびに、体の奥から微かな断裂音が聞こえてくる。それでも、彼は止まらない。


膠着。


深淵悪魔の攻撃はますます激しさを増し、六本の骨の爪が代わる代わる振り下ろされ、地面には巨大な凹みが次々と穿たれ、石片が飛び散る。


リン・ユエチュアンはその間をすり抜けた。何度も、骨の爪の縁を擦れ擦れでかわしていく。


だが、彼の速度は明らかに落ちていた。肺が息をするたびに錆の味がし、視界の端に、ぼやけた暗い影がちらつき始める。


もう一度、低周波を放つと、肉の壁の裂け目は、ようやく人が一人通れるほどにまで広がった。だが、彼がさらに力を込めようとしたその時、深淵悪魔の骨の爪が、側面から薙ぎ払われた。


今度は完全には避けられなかった。音波の障壁が、ほとんど砕けるほどの衝撃を受け、全身が再び吹き飛ばされる。地面を十数メートル転がり、背中が突き出た岩に激突して、鈍い音がした。


彼は仰向けに倒れ、胸を激しく上下させていた。口元と鼻から、同時に血が流れ出す。


赤橙色の空が、視界の中で回っている。内臓のあちこちの裂傷が悪化していくのを感じる。低周波の反噬は、もう臨界点に達していた。


もう一発でも放てば、深淵悪魔が手を下すまでもなく、自分の内臓が共振で粉々に砕けてしまう。


彼は肘をついて起き上がろうとしたが、その腕が震えていた。


その時、空気を切り裂くような鋭い悲鳴が聞こえた。一発のロケット弾が、白い尾炎を曳きながら赤橙色の天幕を切り裂き、深淵悪魔の胴体にまともに着弾した。


轟!


爆発の閃光が暗紅色の巨体を呑み込み、衝撃波が四方へと広がり、大量の土埃と石片を巻き上げる。


深淵悪魔の巨体は、その爆発に押されて後方へ傾ぎ、六本の骨の爪が空中で空しく暴れる。ついにその巨体が轟然と倒れ、地面が震え、大音響が響いた。


リン・ユエチュアンは首を横に向け、硝煙と粉塵の向こうに、転送門から雪崩れ込んでくる人々を見た。


フェルガインの戦術部隊。統一された灰色の戦闘服、胸元にはお馴染みの黒い荊の徽章。肩には、まだ煙を上げる携帯型ロケットランチャーを担いでいる。その後ろには桜庭百川のチーム。百川本人が隊列の前の方に立ち、軍用無線機を手に何かを話していた。


百川の視線が、煙の向こうでリン・ユエチュアンと一瞬交錯した。それから彼は、後ろの者たちに手で合図を送った。


「全火力、あれに集中しろ!」百川の声が、混乱の中でもはっきりと響く。「どんなに強かろうが、火薬と金属に弱くない生き物などいない。撃ち続けろ。息をする間を与えるな!」


数十丁の自動小銃と軽機関銃が一斉に火を噴き、弾丸が深淵悪魔の身体に降り注ぐ。無数の暗紅色の破片が弾け飛ぶ。


深淵悪魔が、のろのろと起き上がろうとした、その瞬間、再び火線に押さえつけられた。骨の爪が弾雨の中で痙攣し、折れ、再生し、また折れる。


フェルガインの数名が、第二波のロケットランチャーを担いで近づき、一斉射撃した。


閃光が再び深淵悪魔を呑み込む。その身体は爆発にひっくり返され、六本の肢体のうち三本が吹き飛んだ。断面からは暗紅色の粘液が噴き出し、急速に治癒するが、次の一斉射撃がまたそれを断ち切る。


自癒能力がどんなに強くても、弾薬の投射速度には敵わない。深淵悪魔は声なき叫びを上げ、縦の裂け目を開けたり閉じたりしながら、六本の足を地面で激しく掻きむしる。だが、どうしても立ち上がれない。


リン・ユエチュアンは岩に縋りながら立ち上がった。膝は、まだ震えている。


百川が彼の方へ数歩、駆け寄り、硝煙越しに叫んだ。「軍が武器支援を寄越した! 転送門が狭くて戦車や自走砲は入れないが、携帯火力なら十分だ! お前は休んでいろ。あとは任せろ!」


リン・ユエチュアンは手で口元の血を拭い、百川に疲れたように頷いた。二歩下がろうとした、その瞬間、視界の端に、一つの空白が映った。


鸢がいない。


彼が口を開きかけた時、フェルガインの破壊系能力者たちが、既に肉の壁へと突っ込んでいた。


先頭は筋骨隆々の男。能力はB級運動エネルギー衝撃。拳に実体化したエネルギーを纏い、一撃、肉の壁に叩き込むと、巨大な穴が炸裂した。


二番手はA級高温熔断。両手から千度近い高熱線を放ち、肉の壁が高熱で炭化し、剥がれ落ちていく。


三番手はC級裂け目生成。両手を肉の壁の表面に押し当て、無理矢理、壁に亀裂を引き裂いていく。


肉の壁の治癒速度が、初めて追いつかなくなった。損壊の速度が、ついに回復の速度を超えた。


肉の壁の表面に、無数の裂け目が開き、内部で意識を失っていた人影が露わになっていく。


リン・ユエチュアンは、ようやくほっと息をついた。どこかに腰を下ろそうと、辺りを見回した、その時、視界の端に映った一つの姿に、全身が硬直した。


夜。


灰谷倫澤。


彼が百川のチームの中から、ゆっくりと歩いてくる。足取りは急ぎもせず、緩めもしない。フード付きの上着のフードを深く被り、顔の全体は見えない。だが、リン・ユエチュアンは、その体つきを知っている。袖口から覗く、古傷の微かな痕の残る手を知っている。


彼はかつて、あの爆発の光の中で、この手の主が消えていくのを目の当たりにした。それは、自分が自らの手で作った爆発だった。


その後、百川が教えてくれた。夜は、まだ生きている、と。今、その男が目の前に立っている。十数メートルの距離を隔てて、数年分の歳月を隔てているかのように。


リン・ユエチュアンの膝が抜け、もう少しでその場に崩れ落ちそうになった。夜が早足で近づき、フードの下から伸ばした右手が、彼の腕をしっかりと支えた。


「隊長」


その「隊長」という一声は、ため息のように軽く、どこか解放の色を帯びていた。


リン・ユエチュアンは顔を上げて彼を見た。フードの縁から、数年前よりはっきりとした輪郭の顎が見える。目尻には細かな皺がある。それでも、その瞳は、彼の記憶にあるままだった。


「お前……」リン・ユエチュアンの声は、ひどく掠れていた。「まだ、俺を恨んでるか?」


夜はすぐには答えなかった。その視線はリン・ユエチュアンの上に落ち、口元の血、胸元の裂けた服、あちこちに走る深浅の傷を、長いこと見ていた。


それから、静かに言った。「俺は隠遁していた数年で、いろいろと考えた。この世界には、どこにでも無辜の人間がいる。俺たちには力もあれば、選択もある。俺は冷徹な機械じゃない。守られて生き延びた人間たちを見た。俺も、違う生き方をしてみたくなった」


リン・ユエチュアンは彼を見つめ、何も言えなかった。


夜の口元が、ほんの少しだけ動いた。笑っているようだった。「隊長。俺は、もう恨んでない」


リン・ユエチュアンが何か言おうとした瞬間、体の奥底から、激しい震えが突き上げてきた。


彼は全身を硬直させ、瞳孔が急激に縮んだ。血液が、体内で共振している。


その共振は外部から、自分と同じ周波数を持つ、血脈の源から来ている。


彼は美仁の位置を感知できた。初めて、これほど鮮明に、これほど精確に。


肉の壁の奥。半獣化した美仁が、暗紫色の組織に包まれ、身を縮めている。それでも呼吸は続いている。微かだが、確かに。


リン・ユエチュアンは背筋を伸ばした。「美仁がどこにいるか、わかった。ついて来い」


彼は肉の壁へと向かって駆け出した。足元の音波が加速し、夜がすぐ後ろに続く。硬表面力強化が、その一歩一歩に、地面を砕く亀裂の足跡を刻んでいく。


二人は、リン・ユエチュアンが感知した位置の上空まで来た。リン・ユエチュアンが手を上げ、音波を肉の壁の内部へと差し入れる。精確に、あの丸まった小さな影を捉えた。


そばにいたフェルガインの能力者たちが駆けつけ、C級裂け目生成の男が両手を肉の壁に押し当て、力任せに引き裂く。壁に裂け目が走り、内部の暗紫色の腔が露わになる。


夜は両手を裂け目の縁に食い込ませ、硬表面力強化の指が肉の壁へとめり込む。彼は力を込め、筋肉が隆起し、青筋が浮き出た。


裂け目は、生身の力で、ぐりぐりと押し広げられていく。


暗紫色の組織が、断裂部で痙攣し、内部の小さな空間が露わになった。美仁がそこに、両手で膝を抱えて丸まっていた。尻尾が体の横に垂れ、猫耳が頭にぴったりと張りついている。


顔色は青白く、唇がかすかに開いている。


リン・ユエチュアンは身を乗り出し、彼女を一気に引き出した。


美仁の体は、彼の腕の中に落ちてきた時、ほとんど重さを感じなかった。彼女の睫毛が、眠りの中で何かを感知したように、かすかに震えた。


リン・ユエチュアンは美仁を抱え、再び肉の壁の内部へと手を伸ばした。カイアルを引っ張り出そうとした。だが、二度目の手を差し入れた瞬間、背後から、鼓膜を突き破るような怒号が轟いた。


深淵悪魔が、弾幕の制圧から、ついに脱した。


ランディス生物が、四方から雪崩のように押し寄せ、あの巨大な暗紅色の体へと合流していく。


深淵悪魔の体が膨張し、折れた肢体が再生する。より太く、より強靭になり、表面は流動する骨質の甲殻に覆われている。


荒れ野から押し寄せたランディス生物の一部は深淵悪魔に融合し、残りは肉の壁へと殺到する。肉の壁の表面に、新たな層が積み重なっていく。フェルガインの面々が、ついさっき開いた裂け目は、数秒でまた塞がれてしまった。


リン・ユエチュアンは美仁を抱えて後退った。夜が既に彼の横へと飛び出し、硬表面の腕で、飛びかかってきたランディス生物を薙ぎ払う。だが、多すぎる。


「献祭の儀式だ!」リン・ユエチュアンは叫んだ。「あのランディス生物たちは、肉の壁の修復と、深淵悪魔の強化に使われてる! 組織を攻撃しても意味がない! 儀式そのものが生きているんだ!」


夜が片腕でリン・ユエチュアンの腰を抱え、硬表面力強化を足元で爆発させ、一気に高空へと跳び上がった。


腕の中の美仁が、風に煽られて睫毛を震わせ、ゆっくりと目を開けた。彼女が最初に見たのは、血に染まった、あの見慣れた顔。瞳孔が、わずかに収縮した。


「林先生……」


リン・ユエチュアンはうつむいて彼女を見た。「喋るな」


美仁の視線は、彼の肩越しに、狂ったように膨張し続ける深淵悪魔へと向いた。瞳孔が、すっと細くなる。


さらに彼女は、肉の壁を覆い尽くすランディス生物の奔流へと目をやり、最後にまた、リン・ユエチュアンの顔へと視線を戻した。乾いた血の滲む口元、裂けた胸元、そして、その眼差しの底にある、深い疲労。


フェルガインの面々は、移動し始めた肉の壁へと攻撃対象を切り替えていた。火力は、修復速度とようやく均衡している。


だが、もう一方の百川チームは、そう幸運ではなかった。火炎放射器を持ち出して援護しようとした、その瞬間、暗紫色の組織が天から降り注ぎ、生き物のようにチームごと覆い尽くした。噴射音が、肉の壁の内部にこもり、すぐに聞こえなくなった。


リン・ユエチュアンは夜に支えられて着地した。足取りはふらついていたが、美仁は彼の腕の中から抜け出して、自分の足で立った。彼女は、あの形を変えていく深淵悪魔を見上げ、それから、遠くの中央の古城へと目を向けた。その視線が、止まった。


古城の尖塔の上に、人影が一つ。


鸢。


彼は塔の先端の縁に立ち、コートの裾を風になびかせ、両手をポケットに突っ込み、まるで野次馬のように、眼下のすべてを見下ろしていた。


彼のそばには、歪み、絶えず形を変える光と影の塊。観察悪魔だ。


「ランディス生物を直接指揮できるのは姽だけだ」リン・ユエチュアンの声が横から聞こえた。荒い息が混じっている。その視線も、あの塔の上の影に釘付けだった。「だが、姽は既に深淵悪魔と化した。ならばランディス生物は、深淵悪魔の命令に従う。そして、その深淵悪魔に指示を出しているのは……鸢だ。観察悪魔こそ、鸢と深淵悪魔を繋ぐ、連絡役だ」


夜が彼の横に立ち、硬表面が前腕を覆っている。「なら、儀式を止める唯一の方法は、深淵悪魔を抹消することだ」


「姽が、自癒力の極めて高い深淵悪魔に同化したのは、容易に殺されないためだ」リン・ユエチュアンは低く言った。「儀式の連結点は、やはり彼女か」


二人は、顔を見合わせた。


その暗黙の了解は、言葉を必要としなかった。数え切れない夜を、肩を並べて戦い抜いた日々の中で磨かれたものだ。たとえ間に、裏切りと憎しみ、長い別離を挟もうとも、それは変わらずにあった。


リン・ユエチュアンは美仁の手を離し、彼女を見下ろした。「ここにいろ。勝手に動くな」


美仁は口を開き、「あたしも行く」と言おうとした。だが、結局は指を強く握りしめ、力強く頷いた。


二人は同時に駆け出した。膨張を続ける深淵悪魔へと向かって。リン・ユエチュアンは足元の音波で地を這うように加速し、夜がその直後に続く。硬表面が全身を覆い、一歩ごとに地面が砕けて凹んでいく。


深淵悪魔が骨の爪を薙ぎ払う。リン・ユエチュアンは体を沈めて爪の下を滑り抜けた。音波の障壁が、接触した瞬間に唸りを上げる。


夜は、もう一方の骨の爪を正面から受けた。硬表面の腕を上げて防御し、重い衝突音が響く。彼の足は地面を二筋の深い溝を刻みながら後退した。


「上に上げろ!」リン・ユエチュアンが叫んだ。


夜は地を蹴って跳躍し、空中で反転すると、硬表面の腕でリン・ユエチュアンのベルトを掴み、勢いよく放り投げた。


リン・ユエチュアンは高く投げ上げられ、最高点で体をひねり、掌に音波を凝縮する。彼は眼下の巨物を見下ろす。深淵悪魔の背が、彼の視界に広がっていた。


音波が手を離れ、精確に深淵悪魔の体の片側に突き刺さる。三本の骨の爪の付け根が同時に断たれ、断面から暗紫色の粘液が噴き出した。深淵悪魔はバランスを失い、巨大な体を横倒しに地面へと叩きつける。再び、天を衝く土煙が上がった。


夜は、その隙に深淵悪魔の側腹へと肉迫していた。戦術ナイフが鞘走り、一突き、深淵悪魔の表皮へと突き立てる。そのまま、一気に下へと切り裂いた。暗紅色の組織が、一メートル以上もの裂け目となり、中から粘性の液体と、脈打つ筋組織が溢れ出る。


だが、ナイフが半ばまで切り裂いたところで、刃が折れた。半ばの刃が肉に残り、夜は素手で、その裂け目へと手を突っ込んだ。十本の指が組織の縁に食い込み、力任せに左右へと引き裂いていく。


暗紅色の筋肉が、彼の手の中で断裂し、砕けていく。


周囲の肉片が即座に蠕動を始め、夜の腕へと巻きつき、呑み込もうとしてくる。その時、上から伸びてきた片手が、彼の手首を掴んだ。


リン・ユエチュアンが彼の上に降り立ち、音波の障壁を全方位に放ち、蠕動する肉片を弾き飛ばした。


「行くぞ!」


夜は引き上げられ、荒い息を吐いた。その腕にはまだ暗紫色の組織の残骸がこびりついていて、硬表面がゆっくりと、それを体外へと押し出していく。


「俺の低周波では、奴の自癒速度を上回れない」リン・ユエチュアンは言った。「お前が直接、奴の体を裂いて、まだ完全には同化されていない姽を見つけるしかない」


夜は肩を回し、硬表面を再び掌と腕に覆わせた。「任せろ」


その言葉が終わらないうちに、深淵悪魔が再び立ち上がった。数匹のランディス生物が、折れた三本の肢の断面へと融け込み、新しい骨の爪が、見る間に再生していく。その表面は、流動する骨質の甲殻に覆われていた。


深淵悪魔が激しく身を震わせ、背に立つ二人を振り落とそうとする。


リン・ユエチュアンは足元の音波をアンカーのように使い、辛うじて踏みとどまった。夜は硬表面の指を深淵悪魔の表層組織にめり込ませ、自分の体を固定する。


二人は巨物に振り回され、視界の中で赤橙色の空と、暗紅色の血肉が交互に回転した。


「裂け!」リン・ユエチュアンが叫び、音波を同調させて放つ。精確に深淵悪魔の側腹を切り裂いた。


夜はその裂け目の縁を掴み、硬表面の掌を肉壁へと食い込ませる。彼は深く息を吸い込み、全身に力を漲らせ、青筋を浮き上がらせ、筋肉を硬表面の下で隆起させた。


その裂け目を、彼は生身の力で半メートル近くまでこじ開けた。暗紫色の組織が断裂部で痙攣し、中から熱い暗紅色の液体が溢れ出る。夜の視線は、その裂け目の奥を突き刺した。中に、一つのものを見た。


人の手だ。


青白い指が、かすかに曲がっている。節のはっきりした、姽の手。


「見つけた!」夜が叫んだ。


だが、その裂け目の治癒速度は、その瞬間、急激に高まった。暗紫色の組織が、生き物のように中央へ向かって殺到し、あの人影を再び呑み込もうとする。


夜は、治癒の勢いに押されて後ろへと滑った。彼はさらに力を振り絞り、裂け目を数センチ、さらに押し広げる。関節がギシギシと音を立てた。深淵悪魔は内部を侵されたことを感じ取り、怒りの叫びを上げ、骨の爪を自分の腹へと叩きつけてくる。


リン・ユエチュアンが夜の前に立ち、音波の障壁を大規模に展開した。骨の爪が障壁に激突し、衝撃波が四方へと広がり、地面が割れ、石片が飛び散る。


リン・ユエチュアンの鼻から、再び血が噴き出す。障壁の表面には、細かな亀裂が走った。


「早くしろ!」彼は叫んだ。


夜は全身の力を込めて蹴り出し、硬表面力強化を足底で爆発させ、外側へと弾き出される。


彼がこじ開けていた裂け目は、その勢いでさらに大きく広がった。夜は両手で裂け目の縁を掴み、外へ向かって全力で引き裂く。硬表面の指が肉壁の奥まで食い込み、暗紅色の組織が彼の手の中で断裂していく。


裂け目は、大人一人がようやく通れるほどにまで広がった。


リン・ユエチュアンは、その裂け目に身をねじ込んだ。暗紫色の腔の内部で、音波感知が精確に、あの手の位置を捉える。彼はその冷たい手首を掴み、力任せに外へと引きずり出した。


姽の上半身が、血肉の包みから引っ張り出される。彼女の髪は乱れて顔に張りつき、目は閉じられ、胸はまだ、かすかに上下している。


その時、姽の目が、開かれた。


その両目には、もう何の光もなかった。ただ、濁った暗紫色の光が一層、宿っている。


彼女の唇が、かすかに動いた。見えない力が、精確にリン・ユエチュアンの首を締め上げた。


念力悪魔。深淵悪魔に同化されても、その能力は、まだ一部残っていた。


リン・ユエチュアンの呼吸が止められ、視界が暗くなり始める。夜が外から駆け込み、硬表面の掌で姽の腕を掴み、力強化を限界まで引き上げ、外へと強く引っ張る。


姽の身体が、一センチずつ、肉の壁から剥がされていく。粘着質の、肉が裂ける音がする。彼女はリン・ユエチュアンの首を絞めていた念力を解き、両手を夜の顔面へと乱暴に伸ばした。


夜は首をかしげてそれを避けた。だが、次の瞬間、虚空悪魔の能力がリン・ユエチュアンの体を掠め、精確に夜の下腹へと直撃した。


音も、傷口もなかった。夜の下腹に、大きな空洞が、ぽっかりと現れた。その断面は恐ろしいほど滑らかで、断裂した筋肉と、腹腔内部の、平らに削がれた組織の断面が見える。


夜は短く、苦しげな声を漏らした。四肢から力が抜け、意識が遠のいていく。


だが、その時、理由はわからないが、夜は急に意識を取り戻した。それも、今まで以上にはっきりと。四肢に力が、再び漲っていく。


夜は即座に指先を姽の肩甲骨の奥へと食い込ませ、外へと引っ張り出す。リン・ユエチュアンも、窒息から回復し、音波の障壁を再び張り直すと、姽のもう一方の手を掴んだ。二人は同時に力を込めた。


姽は、完全に引きずり出された。


彼女が深淵悪魔から離れた瞬間、あの巨大な体は激しく痙攣を始め、六本の足を地面で狂ったように掻きむしる。統一された意識を失い、制御不能に陥った。


「走れ!」リン・ユエチュアンが叫んだ。音波の障壁が三人を包み込み、夜は姽を抱え、その後ろに続く。急速に塞がっていく裂け目から、三人は外へと飛び出した。


着地した瞬間、深淵悪魔の骨の爪が、三人へと振り下ろされた。リン・ユエチュアンは避ける間もなく、音波の障壁はもう限界だった。


だが、姽が目を開けた。


虚空悪魔の能力が、彼女の指先から溢れ出し、精確にその骨の爪の大半を削ぎ落とした。深淵悪魔はバランスを失い、巨大な体が轟然と倒れ、視界を覆うほどの土埃が舞い上がる。


リン・ユエチュアンは夜を抱えて着地し、素早く安全圏まで後退すると、姽を地面に横たえた。


彼女の下半身は、もう深淵悪魔に完全に同化されていた。本体から切り離された後は、血にまみれた無残な断端だけが残っている。永生悪魔が必死に修復を試みているが、その速度は遅く、目に見える変化すらほとんどない。


彼女の胸はまだ、微かに上下していた。呼吸は浅く、いつ止まってもおかしくない。


リン・ユエチュアンは、腕の中の夜を見下ろした。彼の下腹には、あの大きな空洞がまだあり、その縁からは、わずかに自癒の兆しが見える。だが、核心の臓器は完全に消し去られていて、生き延びられる見込みは、ほとんどない。


「しっかりしろ」リン・ユエチュアンの声は掠れていた。「姽を消して、肉の壁の中のみんなを救い出して、治癒能力者に……」


夜は、笑った。その笑顔は穏やかで、解放されていた。長い間、背負い続けてきた重荷を、ようやく下ろしたような顔だった。


彼は自分の腹部の傷を見下ろした。断面から流れた血が、フード付きの上着の大半を、すでに赤く染めている。


「隊長」夜は言った。「俺は、一度だってお前を責めたことなんてない」


リン・ユエチュアンは、言葉を失った。


夜は体を横に向け、そばの折れた巨岩に凭れて、ゆっくりと座り込んだ。彼は顔を上げ、あの赤橙色の空を見つめた。


「あの時、お前が俺を殺した時も……お前がどんな気持ちだったか、わかってる」夜の声が、だんだんと細くなっていく。「俺たちは、東カーネルハイトに長くいた。みんな、身動きの取れないことを、たくさんしてきた。お前は、ただ、選ぶべきことを選んだだけだ」


「……夜」リン・ユエチュアンの声が震えている。


「隠れてた間、いろいろ考えたんだ」夜の声が、さらに低くなる。「隊長……俺、もう疲れた。あの偽装死の後、ずっと考えてた。もしあの時、本当に殺されてたら……俺は、休めていたのかなって」


彼は目を閉じた。口元には、あの淡い笑みが浮かんでいる。


「やっと、休める」


夜の手が、腹部の傷口から滑り落ち、体の横へと垂れた。呼吸が、止まった。


リン・ユエチュアンは夜の前に跪き、その若い顔を、その解放された微笑みを見つめていた。彼は泣かなかった。絶望を奪われた後、彼に残されたのは、胸に重くのしかかり、息もできないような、鈍い悲しみだけだった。


これで、クリス小隊は全滅した。残ったのは、彼という一人の隊長だけだった。


リン・ユエチュアンはうつむき、額を夜の肩に当て、長いこと黙っていた。


彼は夜の亡骸をゆっくりと置き、立ち上がった。身を翻し、少し離れた岩にもたれて横たわる、あの影へと向かう。


姽は仰向けに倒れ、目を半ば開けていた。濁った暗紫色が消えていき、その下から、虚ろで焦点の合わない瞳が覗く。


リン・ユエチュアンは彼女の前に歩み寄り、見下ろした。


姽の唇が動いた。何かを言おうとしたが、結局、声にはならなかった。その表情は、不自然なほど穏やかだった。運命を受け入れた、そんな静けさだった。おそらくは、自分を捧げた瞬間から、彼女は結末が二つに分かれることを知っていて、そのどちらに転ぼうと、自分が生きて帰れないことを悟っていたのだ。


リン・ユエチュアンは手を上げた。音波が掌に凝縮し、高周波の共振が指先の空気すら歪めていく。一撃、手刀を振り下ろした。姽の胸を貫く。


今度は、消去の障壁もなく、永生悪魔の修復もない。彼女の心臓は音波の共振で粉々に砕け、最後の吐息が唇から零れ、風に消えるため息のように散った。


彼女は目を閉じた。


後方では、肉の壁が統制を失い、表面から崩壊し始めた。暗紫色の組織が内部から崩れ去り、繋がりを失ったランディス生物たちが、瓦礫の中から這い出し、あたりのものへと無差別に襲いかかり始める。


フェルガインの残存部隊は即座に反撃を開始し、火線を再び張り、それらの生物を一匹ずつ撃破していった。


英雄協会の面々が、崩壊していく肉の壁の中から救出されていった。沉纱は、能力で意志力を強化しながら必死に持ちこたえていた。彼女は、最初の一人として、唯一、意識を保ったまま、そこから歩み出てきた。


マスクは砕け、激しく咳き込みながら、膝に手を突いて体を折っている。顔を上げると、遠くに、全身血まみれのリン・ユエチュアンが立っているのが見えた。疲れ果てていても、彼女はリン・ユエチュアンに、わずかに頷いてみせた。


カイアルが、フェルガインの者たちに肉の壁の奥から引き出された。意識は、まだ完全には戻っていない。


フェルガインから、一人の能力者が前に出た。両手を、数名の重傷者の上へと翳す。彼の能力はSR級、個体時間遡行。局所的な生理状態を、負傷前の状態へと巻き戻すことができる。


傷がゆっくりと塞がり、組織が再生し、カイアルは癒された。続いて、同化の兆候を見せていたフェルガインの数名も癒されていく。


だが、彼は夜を見ると、力なく首を振った。隙のように、瀕死の重傷を負った者なら、時間遡行で救い戻すこともできた。だが、夜は既に意識が完全に消滅していて、巻き戻す余地そのものが残っていなかった。


リン・ユエチュアンは、荒れ果てた戦場に立っていた。周囲には、崩れかけの肉の壁の残骸、逃げ惑うランディス生物。赤橙色の天幕が、ゆっくりと暗くなっていく。


遠くから、美仁が、よろよろと歩いてきた。猫耳は垂れ、足取りはおぼつかず、体には暗紫色の粘液がこびりついている。彼女は散らばった石片や残骸を越え、リン・ユエチュアンの前まで来ると、顔を上げて彼を見た。


その眼差しは、もう澄んでいた。消されていた記憶の欠片が、再び一つに繋がっていく。初めて出会ったあの日、屋上での餌やり、猫カフェでの同居生活。すべてが、戻ってきていた。


彼女はすべてを思い出していた。耳掃除をしてくれた時の指の温もりも、真夜中に猫になって彼の胸の上で寝て、ゴミ箱に放り込まれたことも、彼に対する、自分でもうまく言えない依存を自覚した瞬間のことも。


彼女は今になって、ようやくわかった。それは「好き」という感情だと。


美仁は口を開いた。言いたいことがたくさんあった。どうして記憶を消したのか。ここまでの日々、ちゃんと生きていたのか。どうして、いつもいつも、一人で全部を抱え込むのか。


でも、それらの言葉は喉元に積み重なって、最後には、極々小さな呟きになった。


そして、彼女は倒れた。彼の胸へと。


リン・ユエチュアンはうつむいて彼女を受け止め、両腕を閉じて、小さく震えるその体を、しっかりと抱きしめた。


彼女は彼の腕の中で縮こまり、猫耳を彼の胸に当て、その心臓の音を聞いていた。ゆっくりで、重い。それでも、まだ確かに、脈打っていた。


赤橙色の天幕は、ついに、すっかり暗くなった。


リン・ユエチュアンは、虚ろな目をしていた。自分の感情を、どう表現すればいいのか、もうわからなくなっていた。


荒れ野の風が遠くから吹き寄せ、地面の灰と、細かな血痕を巻き上げていく。



「本作品の内容(ストーリー・設定・キャラクター)はすべて作者自身が創作したものです。ただし、日本語への翻訳に際し、AI翻訳ツールを参考・補助として使用していることをお伝えいたします。翻訳の正確性には細心の注意を払っておりますが、不自然な表現がありましたらご指摘いただけますと幸いです。」

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