肖像画
訳も分からず、足を動かした。息が切れて、胸が苦しくて。それでも足は止めない。
目的の部屋に駆け込んで、わたしは倒れ込むように膝をついて大きく肩で息をする。乾いた咳が出ると、口の中が鉄の味で一杯になる。
しばらく息を整えて、わたしは震えながら立ち上がった。落ち着いてくると、部屋を見回す余裕が出てくる。
壁には多数の肖像画が飾られている。わたしは壁に近づいて、じっとそれらの絵を見つめた。
真っ先に目に入ったのは、凛とした表情で写る銀髪の少年。紅い瞳は鋭く、他を寄せ付けないという雰囲気を感じた。その肖像画の隣には、同じく銀髪の少年で、こちらは穏やかに紅い瞳を細めて微笑み、他を包み込む雰囲気を醸し出している。
どことなくこの肖像画にはユイナート様の面影を感じる。どちらかが、ユイナート様なのだろうか。それなら、もう一人は誰なのだろう。彼にご兄弟がいるという話は聞いたことがない。だけど、同一人物ではないことは分かる。
他の絵に、銀髪紅目の少年が二人で写るものがあるからだ。二人はそっくりな顔立ちだが、片方は無表情で片方は微笑んでいる。もしかしたら、双子なのかもしれない。ユイナート様は、この微笑んでいる方なのだろうか。
目で絵を追っていると、同じ二人に加え、金髪で紅い瞳を持つ少年が写っているものもあった。幼い頃のシェンド様だろう。温かい笑みは今と変わらない。
わたしは今のユイナート様やシェンド様しか知らないけど、彼らにも幼少期があったことを実感して、しみじみとした気分になる。一国を背負った彼らは、幼い頃からその重圧に耐えて国を守ってきたのだ。それに比べて、わたしは……。
——わたしは、何をしていたのだろう?
今思えば、疑問である。どうしてわたしは、一度も過去を振り返ったことがないのだろう。わたしが小さい頃のことを、思い出そうとしたこともなかった。
そして今。思い出そうとしても、何一つ思い出すことができない。最古の記憶でいうと、下町で過ごしていた時のものだけど、その時、既にわたしは幼少期と呼ばれる年代ではなかった。下町にはわたしの家族はおらず、とても優しいおじ様とおば様と一緒に暮らしていた。
わたしは小さい頃から下町にいたのだろうか? それとも、別の場所から移り住んだ?
わたしに本当の家族はいるのだろうか? それとも、親に捨てられた捨て子だった?
沢山の疑問が沸き上がり、沢山の思いが湧いて出る。脳が悲鳴を上げ、頭が急激に痛み出した。
視界が歪む。わたしは頭を手で支え、ふと一枚の絵が目に入った。
教会で立つ、二人の銀髪の少年と金髪の少年。そして、彼らの中心で微笑みながら写る、薄い桃色の髪をした少女——。
その絵に手を触れようとすると、わたしの目の前は白色でいっぱいになった。
「ごめんね、シェルミカ」
倒れるわたしの体を誰かが抱きしめたことだけは、薄れた意識の中でも分かった。




