↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/165

精神作用(1)


「西方のタンダ王国の軍、撤退しました!」


 大きな音を立てて扉を開けた男の言葉に、部屋の中にいた騎士達は喜びの声を出す。騎士の一人が机に置かれた地図の一か所を、丸で囲んだ。


「これでタンダの軍は全軍撤退しましたね。ノースリッジはまだ粘るようですが、それが持つのも時間の問題でしょう。奴らに増援の見込みはないでしょうから」


 ユイナートは盛り上がる騎士達を片手で諌めながら、地図から視線を離すことなくそう述べる。彼は小さく息を吐いて、背もたれに背を預けた。


「心配なのが、神の使徒がどう動いてくるか、ですね」

「以前私達の前に現れた『神の使徒』を見て以来、戦場で奴らは姿を現さなくなりました。これは、何かの前兆なのでしょうか?」


 ユイナートの背後に控えたアルビーがそう言うと、ユイナートは頷いて同意を示し、視線を窓の外に向ける。


「どうやら、奴らの動きから推測するに、魔力を集めているようなのです。死者から魔力を奪う行為を見たと何度か報告を受けています」


 死者を含む他人から魔力を奪い、それを何に用いるつもりなのか。ユイナートには、大方予想がついていた。苛立たしく思い、彼の瞳が鋭さを帯びる。

 その気持ちを抑えつけながら、ユイナートは軍への支持を続ける。その時、彼の周囲の空気が一瞬弾けた。突然のことに、騎士達は敵襲化とどよめいた。


「…………」


 ユイナートは無言のまま、懐から魔道具を取り出した。アルビーが彼の様子を見て何かを察したのか、周りの騎士達を落ち着かせる。


「ミハイル。今は王城ですか?」

「……おや、ユイナート殿下。どうなされたのです?」


 場違いなほどに軽い声が魔道具から聞こえてくる。ユイナートは剣呑な顔を隠す余裕もなく、いつにもなく焦った様子で口を開いた。


「シェルミカの錠が壊されました。今すぐ彼女の様子を見てきてください」

「シェルミカ様の錠が? あれを彼女が壊すのは不可能ですよ」


 魔道具からは、声と同時に衣擦れのような音が聞こえてくる。ミハイルが移動しながら話しているのだろう。


「分かっています。だからこそ、誰かが侵入してシェルミカに接触した可能性が高い。……奴らがシェルミカを狙うことは容易に予想がついたのに、警備を増やすことをしなかったのは、僕の責任です」

「あまり自分を追い込まない方がいいですよ。貴方だけの責任ではないのですから」


 ミハイルの姿を見ることはできないが、きっと彼はいつもと変わらず穏やかな笑みを浮かべているのだろう。ユイナートは小さく息を吐いて、気を取り直すように顔を上げた。そして、心配そうに彼を見ている騎士達に、軽く事情を説明する。

 ユイナートは水を飲んで喉を潤し、そこにはいない誰かを睨むように、ゆっくりと紅い瞳を細めた。


「……急いでください、ミハイル」

「これでも急いでいるのですよ。あ、忘れないうちに言っておきます。王城の近くで爆発がおこって、こちらも大変なのですよ」

「爆発?」


 物騒な単語に眉を顰め、ユイナートは足を組みなおして詳しい説明を求めた。巻き込まれた者はいないのか、シェルミカの錠が破壊されたことと関連があるのか、何が目的なのか等々、気になることは山ほどある。


「現場に向かおうとするよりも先に殿下から連絡があったので、そちらに関する情報はまだ持っていないのです。確かに、これは『神の使徒』と関連があるのかもしれないのですか。分かりました、確認してみますね」


 今すぐ王城に向かいたいという気持ちを抑えつけながら、ユイナートは落ち着かない様子でミハイルと話を続ける。


「シェルミカの錠を壊した奴が、いるかもしれません」

「あれはそう簡単に壊せるものではありませんよ」

「貴方にも話したでしょう? 僕達の前に姿を現した『神の使徒』の一人のことを。あいつなら、可能かもしれません。見つけ次第、捕らえてください。貴方ならできるでしょう?」

「……ええまあ、見つけ次第対応しますけど、私は戦闘要員ではないのですよ? と、話しているうちに怪しい者を発見しました。先にこちらに対応しておきますね」


 しばらく魔道具が沈黙し、ミハイルがその怪しい人物と接触した様子の音声が聞こえてくる。


「王城に侵入を許してしまうなんて、王族の権威が落ちてしまいますよ」

「王族が未熟で悪かったですね」


 いつもの調子で話すミハイルの声色は、物怖じ一つした様子がない。余裕そうな彼に呆れと信頼を抱きながらも、ユイナートは続いて聞こえてきた声に耳を疑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。