表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異次元ホテルへようこそ!  作者: 終乃スェーシャ(N号)
二章:パーティが始まる前に
44/71

機械仕掛けと世紀末潜入捜査員 その五 ブービートラップ

 思い切って地下の罠を無視して駆けた。露骨に置かれた怪しい金属瓶などは無視して、ワイヤー式の罠は走りながら切り裂いて、強引に突き進む。危険な行為だったが予想は当たっていた。


 身体に打ち付けるのは殺傷性の弾丸や刃などではなく、吸盤がついた矢やら、ショットガンの引き金が引かれたかと思い走りながら咄嗟に回避行動を取ってみれば撃ち出されたのは喧しいクラッカー。はたまたピンク色の着色煙幕。どれも悪質な悪戯程度のもので、明らかに俺達は馬鹿にされているし煽られている。


(こちらバロン、報告通り管理棟に侵入者がいると思われる。罠だらけだ。敵は二匹と一人。動物のほうは一匹は偶蹄目の四足歩行動物。おそらく豚か猪。もう一匹は不明。人間は男、身長は百八十以上。使ってる煙幕が同じだったことからさきほどの不審物をおいたやつ、もとい爆破予告犯だと推測。接敵次第無力化して構わないか?)


(豚!? 豚って言ったのかいバロン!)


 真っ先に反応したのは支配人だった。なぜ爆破予告犯ではなくそっちに反応する? あまりにも食い気味な反応で、虚を突かれた脳が思考する。


 ……ああ、罠だの侵入者だの不審物だのにつられて完全に失念していた。そういえばパーティのディナー用の豚が逃げてまだ捕まっていない! 俺とバーサーカーは顔を見合わせる。彼の傷だらけの顔は焦りと動揺を浮かべていた。


(脱走したやつか!)


(ディナー、用の)


 同時に念話を送る。じゃあこの人間はまさか動物共を脱走させた犯人か? てっきり勇者が檻を壊したと思っていた。だが俺は俺が思っている以上に爆破予告犯の真相に近づいているのでは?


(よく分からないって足跡は多分ジウルーンだね。とにかくその二匹は絶対生け捕りにしてくれ!)


(男は?)


(ルール違反者は追放する。手段は問わないよ)


 あっさりとした口調で、殺してもいいと支配人は許可をくれた。拳銃を握りしめる手に一層力がこもる。殺気が漏れたのかバーサーカーの持つ生きている剣が小さく唸り声をあげていた。


 罠がネバネバの弾丸を腹部に撃ち放つ。粉が降り注ぐ。地獄のような想いで通路を強行突破していき、スーツは粉まみれの煙まみれの、義手も変な異臭がするし首に玩具の蛇を何匹も吊るされていく。


 充分急いでいた。だが急かすようにイヤホンマイクが音を響かせる。


 ビィイイイイ、と。次元門が開くときの音だった。目の前の視界が玉虫色に歪む。平衡感覚が揺さぶられ頭痛がする。すぐ近くで空間に穴が開いている。


 走れ。走れ走れ走れ!! 時間がない! 直観の命じるままにさらに加速した。機械が密集した狭い廊下を抜けて曲がり角の壁を蹴りあげて跳躍するように駆ける。


 もはやバーサーカーの道案内などなくても行くべき経路を理解できた。罠がある道を突っ切る。歪みの強い場所を目指す。


「その部屋、だ!」


 一本道の先、鍵の開いた鉄扉があった。さらに加速。勢いのまま扉を蹴り開ける。直後、ドアノブに仕掛けられていたワイヤーが緩む。ピキンと嫌な音が頭上からハッキリと聞こえた。咄嗟に見上げると、顔の前を一個の手榴弾が通り過ぎていく。


「最後の最後になんてもん――――ッ!」


 焦り過ぎた。時間稼ぎが目的の非殺傷性の物しかないと油断した。ここまで全てが罠だったのだ。治安維持隊として最低のミスだ。こんな単純な手に踊らされるなんて。一瞬で後悔が全身を廻った。一秒も満たない時間がひどくゆっくりに感じられる。


 バーサーカーはすぐ背後にいた。このままだと彼も死ぬ? せっかくカノンに認められたのに、いや、ようやく俺はカノンを認められそうだったのにこんなところでホテルマンとしても治安維持隊としても失格の烙印を押されて死ぬ?


 背筋が凍りつくようだった。無駄なことばかりに思考が持って行かれる。息を吸おうとするけれど、実際の時間はあまりに短くて筋肉は引き攣ったまま動かない。


 せめて、せめて遠くに投げろ! 掴め。目の前のそれを投げろ。そうすれば被害を減らせる。死なない可能性がある。本能が生命の危機に反応して叫んだ。


 駄目だ。投げても助からない可能性が高い。最善を選べ。お前が死ね! いつも見てきただろう! 合理的な判断をしろ。人間なら理性を選べ。冷徹な自我が生存本能を拒絶した。失格の烙印を押されるのが、また失望されるのが確実な死よりも嫌だった。プライドが許せなかった。


 なんて馬鹿な死に方だろうか。哀れ過ぎて涙が出そうで、笑顔が歪む。全神経が一点に集中した。必死に腕を伸ばす。指先が触れた。――――掴んだ。間に合う。対処できる。俺は幸運な方だった。蹴り上げていた脚で一歩踏み込んで手榴弾を抱えて蹲る。


 ――――閃光。全身に衝撃と高熱が吹き付けるた。鋭い臭いが鼻腔に入り込んで、耳が劈かれて脳が悲鳴をあげた。五感が痺れて全てが真っ白になる。上下左右の感覚が消えてじりじりと皮膚を嬲る熱以外何も分からなくなった。時間の感覚すら失せる。空間が揺れていた。


 意識があるのにすべてが白一色に染まっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ