機械仕掛けと世紀末潜入捜査員 その五 地下施設にて
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空間・エネルギー管理棟……ようはホテルの主要なエネルギーを管理、次元門の制御を行うための建物のはずだが外観はちんけなログハウスだった。
赤だの青だのと毒々しい色合いをした巨大キノコの森のど真ん中にあって、周囲の景色になじんでいる。まさかそこが重要な建物だとも思われそうにない。
「バロン・フォールズ……来てくれ、て助か、る。建物の鍵、魔術、呪術、錬金術、マナ……複数の世界の、非科学的ロックすら、解除され、た。物理的施錠も、だ」
バーサーカーは俺を見るなり掠れた声でそう言った。鋭い深紅の瞳は一瞥だけしてすぐにログハウスに向けられる。すでにいくつかのトラップを解体したのか手にはワイヤーや手榴弾の類を持っていた。
「土地がないとか理由があるかもしれないが普通は重要な施設を一か所にまとめない。占拠されたとき手がつかなくなる」
「この場所、じゃないと……魔力や、竜脈が干渉……する。あと、地盤がな……。地下施設だから」
見えない力が働くのか。地盤云々は生憎専門外だ。まぁどちらにしたって今はこのことについて話しても無意味だ。重要なのはこの建物に侵入者がいることが確定的ということ。そいつは科学と非科学の両方に精通。もしくは複数犯。及び両方。
「敵は人間じゃないのも混ざってるな。ここが石畳じゃなくて助かった。足跡がある。一人は人間、あとは……偶蹄目の四足歩行動物が一匹。と、これは……検討もつかないな。引きずったあとか? 脚はあるのか?」
なぜかその奇怪な足跡の周囲だけが黒く腐食していたが、それ以外はあらかた予想できる。人間は性別男。不法侵入には手慣れている。靴のサイズは二十七。年齢は三十以上と見た。動物のほうは野生に生息していたのが偶然侵入したのか? 宿泊客のリストに豚はいなかったはずだ。
「……ここに客は入れないんだな?」
「あ、あ。お客様は 立ち入り禁止、だ。意識してここに向かわなけれ、ば来れない。迷って、偶然は……ありえない」
不穏な風に赤髪が靡いていた。バーサーカーはゆっくりと呼吸を整えて腰に帯びていた長剣を鞘から抜く。黒々とした血の塊に似た刃。柄から刃へと血管が脈動し、おぞましい眼球がこちらを覗く。キュイイイと小さな鳴き声もあげていた。
「それは剣なのか?」
「生きている、が……そうだ。剣だ。血と、川魚が……好き」
バーサーカーは優しく剣を撫でると、隠れていた本性をむき出しにした。ゆらりと揺れる眼光。獰猛な笑みを浮かべると、近くにいた鳥が逃げるように羽ばたいていく。
どうやら今ばかりは客の目を気にする必要はないらしい。俺は笑い返して義手に武装を取り付けた。火炎放射器。光刃。機関銃のマガジン。折り畳み式の簡易ヘルメットを被り、対閃光および視覚サポートゴーグルを身につける。一段階黒くなる視界。……落ち着く。砂漠の地獄みたいな光のために日頃つけていたおかげでこっちが普通に感じる。
「……あんたも、なかなか……いい趣味だ」
「当然だ。これは軽量装備のなかでは一番の出来だからな」
軽口をたたきながらログハウスの中に足を踏み入れていく。ログハウスも一見する限りは重要施設とは思えない内装だ。木材の廃れたカウンターテーブル。酒瓶が棚に並んでいて、さながら古風な酒場だった。
「侵入者は……地下に、行った みたいだ」
カウンター裏。床の一部が剥がされて地下へ降りる階段がむき出しになっていた。覗き込むとじめじめとした空気が肌に触れる。ドクンと、心臓が高鳴った。ホテルの清潔感ある室内とは違う。無骨で金属質な地下の壁。それに酷く狭い。
「階段に加圧式の罠がある。爆弾の類か? バーサーカー、俺が歩いた道をその通りに通ってくれ。可能な限り余計な動きをせずに」
俺達は慎重に階段を下りて行った。地上の音が一切聞こえない。客の賑わう声もなく、ただ無機質的な駆動音だけが断続的に響いている。階段を降り切った。ここまでにあった罠は三つ。どれもブービートラップ程度のもので、少ない時間で仕掛けられるものばかりだ。
長い階段を下りて、さらに二つばかり螺旋階段を降りると巨大な広間に出た。地下とは思えないほど高い天井。何に使っているか理解もできない機械が均等に立ち並び、けど天井や壁、通路にまでも無秩序なパイプとコードが垂れ下がり、さながら森のようだった。
「まずは、イェソードの様子を……確認す、る。道は、こっちだ」
「そこにも罠がある。不用意に踏み込まないでくれ」
その場所以外も罠だらけだった。返しのついた針が垂れ下がっているだけのものや、いかにもそれらしく怪しい物体を置いているが逆になんでもないもの。けどそのたびに警戒しなくてはならなくて、明らかに罠をおいた者の意中に嵌まっていた。
「……まずいな」
思わず呟く。ブービートラップの目的の多くは敵に占領された土地や戦利品を使用不可状態にして精神的疲弊を与えるためか時間稼ぎだ。今回の場合は時間稼ぎに間違いない。なぜ時間が欲しい? 電気施設に細工するため? それとも俺達が来ていることに気づいていて、逃げる時間稼ぎか?
「バーサーカー、念のため聞くがこの施設の出入り口はあのログハウスだけか?」
「あ、ぁ。そう だ。…………いや、例外と、して、次元門開ける装置が、ある。門は、どこにでも 生成、可能」
急ぐべきかもしれない。リスキーだが、これを仕掛けたやつらは殺意がないと断定すべきだ。わざと注意すれば見えるように造られてる。無力化じゃなくて時間稼ぎだけが目的。
「バーサーカー! 多少の罠は無視する。走るぞ」
「了解し、た」




