創立パーティは豪華絢爛ディナーと共に その三 制御室を目指して
【創立パーティは豪華絢爛ディナーと共に その三】
ガサガサとシダ植物を踏みしめる。プールサイドの奥、椰子の木々や巨大な葉が生い茂る場所で、オレ達は警戒を巡らせたまま一度ばかり立ち止まった。息を潜める。死の崖から逃げ切るために草木のなかを駆け続けたけど、ジウルーンのほうが持久力的に限界だった。休まなきゃいけねえ。
「ぜぇ……ぜぇ……。ごめんなさい。普段は暗黒の宝石の守護のために塔で座り込んでるだけで、こんな走ったことなかったから……」
「気にすんなビチビチ。……モジャモジャ。空のほうはどうなってる? ここは安全か?」
「モンブラン卿だっての。空は多分オレ達を探してワイバーン、ドラゴン共が 飛び交ってるが問題ねえ。視覚的には草木で空も見えねえからな」
「ぜぇ……ぜぇ……ピット感にも反応なしよ」
ひとまずは逃げ延びたか? いや、三百六十度から香る海。間違いなく孤島。それも結構小さい。茂みだって整備されてやがる。ここで隠れて過ごす分には餌に困らねえけど、それは自由とは言わねえ。あいつらが見つけにかかるのも時間の問題だ。なんとかしてこの場所……いや、この世界から抜け出さなきゃいけねえ。
(運がいいわね。私が結界の魔法をしてなかったら今頃魔術的に探知されてソーセージと……曝し首よ?)
オレ達を助けたあと『さよならね――――』とか口にしてどこかに行ったはずの勇者は頭のうえにモンブラン卿を頭に乗せながら草木で隠れられるように地面に這っていた。丁寧に翼も縮こまっているし、竜尾も揺れ動くのを自重している。
「なぁ、あんたプールに人を探しに行ったんじゃなかったのか?」
皆勇者がおっかないのか知らねえが、なんで黙ったままいつのまにかオレ達と合流してるのか聞いてくれないから尋ねることにした。
『細かいことは気にするな』とモンブラン卿がジェスチャーで伝えようとしてきて、全身から生えた紫の毛が彼女の深紅の髪と絡みかけているが無視だ。
(魔王は殺すわよ。絶対。けどプールサイド探してもいないし、他の場所を探すには目立つ場所を通らないといけない。だからあなた達の感知能力を借りて身をひそめてるだけ。でも結果的にはむしろ感謝してほしいくらいね)
鋭い双眸でオレっちを睨みつけたあと、ツンとした態度で顔を背ける。これがドラゴン娘のツンデレか? 睨まれたときは蛇と蛙なんか比じゃねえくらいの感覚だったけど、人間味があるおかげで素面を保てた。
……にしても魔王ってなんのことだ? いや、聞かないでおこう。わざわざ竜の尾を踏む必要も逆鱗に触れる必要もねえ。
「それでどうするよ豚野郎。オレは別にこの小さな茂みで一生を終えるってなら止めないぜ? けど叶うことならさっさと別世界におさらばしてえな」
モジャモジャは手足に絡まった赤い髪を解き終えると彼女の角に腰? を下ろすと本題に入り始める。竜眼が見上げていたけど、勇者は小さなため息をつくだけで文句は言わなかった。
「同意見だな相棒。オレっちもなんとかしてこの世界から脱出に一票だ。オレたちにゃあ、小さすぎるぜこんな場所よーッ」
(それなら本館の南側に多分制御室があるわ。違ったとしてもホテルにとって重要な部屋ね。この世界はどこも魔力に溢れてるのに、その空間だけ魔力を一切感じられないの。外から干渉を絶ってるか、その部屋に膨大過ぎる魔力があるから結界で抑えてるんじゃないかしら)
魔力なんて今日まで聞いたこともなかったけど、勇者を見てると言いたいことはなんとなく理解できた。檻を壊すときは言葉にできねえエネルギーみたいのが渦巻いてたのに、気配を殺そうとしてる今は別の生物なんじゃねえかってぐらい何も感じれねえ。それと同じようなことだろう。
「嘘はついてないわよね?」
Aaaaaaarhiiii……? と、ジウルーンが怪訝そうに尋ねる。勇者は角の上のモンブラン卿を指で撫でながらもう一度ため息をついた。
(……はぁ。嘘なんてついてないわよ。私は恩返しのためにあなたたちを助けたの。力になれるならなるわ。でも信じないなら信じなければいい。何かしなければ道は開けない。開いたうえで、道の行く先が初めてわかるの)
勇者は屈辱を噛み締めるかのごとく牙を軋ませ、握り拳を作る。オレっちには彼女に何があったか想像もできねえけど、ブルっちまいそうなくらいの気迫があった。
(行くなら今のほうがいいわ。どうしてか知らないけどホテルの客やホテルマンがひと塊になって南端に移動し始めてる。これはチャンスよ)
「っち、リスキーだけど向かうしかねえな。そんで勇者様はどうすんだ? 付いてきてくれるのか?」
さすがにそこまでは同行してくれねえだろうなと思いつつ聞いてみる。彼女がいれば百人力だ。けどやっぱり勇者様は首を横に振った。罪悪感なんて感じる必要ねーのに少し申し訳なさそうな顔をしてた。
(私は客が沢山移動してるほうに向かうわ。きっと何かあるんでしょ? だとしたら魔王のやつもいる可能性があるし。ごめんなさいね。これ以上は力になれなくて)
「謝る必要はないだろう。オレ達はすでに恩は返してもらってるぜ。お互い次は捕まらないようにしないとな」
モジャモジャは当然のことをいかにも格好つけて言うと、ぴょいと角の先からオレっちの頭に乗っかる。こっからは本当の本当に別行動ってわけだ。
「ビチビチちゃん。準備オーケー? 道挟んで向こう側の茂みまで全力ダッシュだ」
数本の触手が縦に頷く。瞬間、オレ達は地面を蹴り上げた。土を抉るみたいに前脚で踏み締めて、上半身に体重をかけて一気に加速する。鬱蒼とする草木を突っ切った。プールサイドに飛び出す。
「くそ! 不幸と鉢合わ――――ッ!」
正面にホテルマンのバッチを付けた怪物がいた。ジウルーンに負けず劣らずに気色の悪い真っ黒な肉塊。虚ろな目をしたお面いくつもつけて、合計で八本も人間のような手足を生やした同じ生命とは考えたくないナニカ。
しかし次の刹那、それはオレ達に気づくと同時、数十メートルほど吹っ飛ばされて地面を転がりなすすべなくノックアウトする。
(急ぎなさい! 勇者の名誉が掛かってるの。絶対死なないでよね)
「おうともよ!」
頭のなかで強く響いた勇者の声に、オレっちは声高らかに鳴き声をあげた。




