創立パーティは豪華絢爛ディナーと共に その二 連絡
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「おらぬ! おらぬおらぬぞえ! せっかく支配人が楽しみにしていたディナーが逃げたのじゃ!?」
シェフの一人、重力を無視してふわふわと宙を浮かぶ和服の黒髪童女はわざとらしい語尾をつけながら叫んだ。彼女のどんぐり眼が見詰めるは島の南端。切り立った崖の上に置いていた檻。檻は見るも無惨なくらいドロドロに溶けて、中にいたはずの二匹の動物がいなくなっていた。
「あの豚共が壊したのかえ? 否、ありえぬ。あれはあだまんたいとにかーぼんなんたらと原始の黒石を混ぜて作った合金じゃぞ……。と、とにかく連絡しなくては」
童女は人差し指で五芒星を描いた。魔力の粒子が蒼い光となって煌めく。
「ちゃんねる設立。拡大念話! さてさて心を繋げよう。痛みを分かち、神に捧げものをあげようぞ。我が鈴を響かせるぞえ」
ぶつぶつと詠唱。ぎゅっと目を瞑り、ホテルにいる全従業員と支配人の脳内に、その玲瓏とした声を響かせる。
(こちら天照超女神あまてらすちょうめがみ。緊急連絡ゆえに念話の術式魔法陣を作らせてもらったのじゃ。これよりしばらくは魔力なきものも連絡が取りたいと思えば念話を行えるのじゃ)
(なにがあったんだい? 天照。君が遊び以外で呪術を使うなんて珍しいね。それもそんな真剣そうな声、久々に聞いたよ)
最初に応答したのは支配人だった。天照は宙でくるくると回転しながら、念話への応答だけは真摯に伝えた。
(支配人がパーティのディナーとして用意していたええと、あのくそ名前が長い豚……なんじゃったか)
(ダイオウサイコキスマダラブタとジウルーンのことかい?)
(そうじゃ。そいつらが逃げたぞえ。で、でもわらわの失態ではないのじゃ! ドラゴン族の修学旅行団体のランチに対処し終えたからそろそろ殺そうと思い向かったら既に檻が壊されてたのじゃー!)
(逃げた!? それはまずいぞ! あの二匹を殺した段階で複製魔術をしてパーティの料理に使う予定なんだ! それは困る!)
(そうじゃないじゃろうて支配人! おぬしはパーティに固執し過ぎて時々バカになるぞえ! わらわが言いたいのは檻を壊した者がいるということじゃ! それにあの豚は超能力を行使する上にジウルーンは腐っても邪神の眷属なのじゃろう!? 放置はまずいぞえ!)
ぷんすかと童女は頬を膨らませて光輝く。幸いにもその奇行を見ている者はいなかった。
(こちらバロン・フォールズ。もしかしたら爆破予告の犯人が陽動のために…………すみません。俺のミスが原因かもしれません。今気付きました。勇者も逃げました。俺の持っていた鍵がいつのまにか盗まれた)
童女はふわふわと空から豚達を捜し回った。巨大なプール。白い砂浜。いくつもの棟に分かれたホテル。生い茂る南国の草木。巨大キノコの森。湧き上がる虹色の光。次元の狭間。どこを見てもそれらしき姿はない。
(全ホテルマンで対処しよう。本来の仕事はもちろんだけど、パーティの中止だけは避けたい。勇者も大問題だ。次元ゲートで何かをされたら大変だから開門室の警備は特に厳重にしといてくれ)
「にゅうぅ……。勇者も逃げたか。ならば檻の破壊も納得じゃが、なら誰が勇者を逃がしたのじゃあ……? 分からぬ。分からぬぞえ。これはサスペンスでミステリーな臭いじゃあ。愉しみ愉しみ」
女神は一人悦に入り笑う。日が傾き始めた大空は、既にドラゴン、ワイバーンの警備員が巡回していた。




