ゾンビの定番、それはホームセンター
約一年ぶりの投稿です。
「お前たちはどこから来たんだ!」
ホームセンターに着いた俺たちは建物の中から出てきた男女数名に声をかけられる。
俺は周囲のゾンビの気配を探ってみるが、ホームセンターの近くに奴らの姿は見えなかったため、彼らの人数を確認する。
男たちの人数は四人ほどで、こちらに声をかけて来たのが短髪で身長が高く、三十代後半ほどの男だった。
その男は体格が良く、重く見えるスコップを担いでも問題ないと言わんばかりの表情をしていた。
「俺たちは道守警察署方面から来ました! 俺は槙野光、隣にいるのが妹の美乃梨で、金髪のこいつが中山です」
俺はバリケードの隙間から返事をする。 中山は顔に警戒の色を滲ませていて、美乃梨は興味も無さげに周囲を見渡していた。
「ここに来た目的は何だ!」
「俺たちの目的は家の防御を固めるための物資や武器を手に入れる事です! 物資を分けて貰うことは可能ですか?」
俺がそう伝えた後、バリケードの内側の彼らは仲間内で何やら話し合っているようだ。
「済まないが他を当たってくれ、見ず知らずの君たちを入れるわけにはいかない! こちらには私の家族もいるんだ!」
やはり簡単には入れて貰えそうも無いか⋯⋯。
「おいおい、あいつらだけで独り占めするつもりらしいぜ槙野。 どうしてくれたもんかねぇ」
中山に顔をこちらに向けて話しかけられ、その顔からは苛立ちが見えていた。
「まて早まるな、もう少しだけ交渉させてくれ」
俺が中山に告げたその時だった。
「あれこの声ってどこかで⋯⋯、 あーっ! あんたあの時の!」
バリケードの内側で固まっている彼らの後ろから女性の声が聞こえてくる。
集団の先頭に立ったその人物は、大学で会ったヒステリー女だった。
「お前無事だったのか!」
「無事って何よ! あんた私が死んだと思ってたワケ!?」
「き、君たちは知り合いなのか!?」
彼女は俺たちが運動会館に避難した時に出会った人物で、彼氏と合流するために一人大学を出て行った筈だ。
正直女一人で脱出出来るなんて思いもしなかったため、死んでいるものだと思っていた。
「そこの金髪も一緒って事はあんたたちも大学から脱出したんだ」
「懐かしい顔だなぁオイ! 愛しの彼氏とはどうなったんだよぉ?」
中山がヒステリー女にそう伝えた瞬間、彼女の表情が曇る。
「隆から連絡のあったアパートまでたどり着いたんだけど彼はいなかったわ⋯⋯。 それでその近くで偶然この冴木さんに車で拾ってもらったのよ」
ヒステリー女は俺と話していたスコップを担いでいる男性を指した。
「野川さん、彼らは危険な奴らでは無いのか?」
あのヒステリー女は野川という名前だったのか、そういえばあの時は自己紹介をしている暇など無かったな。
「人に危害を加えるとかそういう人たちでは無いと思います。 あの時は私も熱くなっていたし⋯⋯」
「そうか、なら話だけでも聞いてみることにしよう。 お前たち門を開けてやれ!」
冴木という男が彼の仲間たちに指示すると、武器を持っていた男たちがバリケードの出入り口のような場所へ走っていく。
どうやらこの男がリーダー格のようだ。
「今門を開ける準備をしているから君たちもその車に乗りなさい。 門が開いたら合図を送ろう」
俺たち三人は言われた通りにバンに乗り込み発車する準備をする。
「中に入れて貰えて良かったねお兄ちゃん、あの女の人は知り合いなの? お兄ちゃん大学でボッチなのに?」
美乃梨が興味津々に尋ねてくる。 そんなに俺に知り合いがいるのか気になるのか?
「あいつとはこの騒動が起きた時に色々あっただけで知り合いってほどのものでも無いよ」
「なーんだつまんないの」
お前は俺に何を期待しているの?
「へっ、まさかあのクソアマが生きてやがったとは驚きだぜ。 まぁあいつがいなかったら実力行使に出てたとこだったけどよ」
こいつはあまり報復とかを考えてはいないようだ。
いや、きっと今までこいつが生きてきた人生がそうさせているのかもしれない。
こいつは多くの場合において強者であったのだろう、だから自分が負けることを考えてはいない。
だがしかし、勇猛であることは必ずしも良いという訳では無いだろう。
勇猛果敢であることと、慢心であることは紙一重だから。
そうこうしているうちにバリケードの門らしきものがスライドしていき、丁度車が通れるような広さの道が出来る。
「そのまま中に入って駐車してくれ」
俺は車をバリケードの中へ進ませ、車から降りる。
俺たちが車から降りると、男たちが門を閉じてその後ろに障害物を移動させていた。
門の作りをよく見てみると、基本的な構造はメタルラックといういくつかの金属製の棚がワイヤーで固定されていた。 棚の外側の面には有刺鉄線が張り巡らされており、外側から開けるのは難しそうに見える。 門はスライド式でメタルラックの足には車輪が付けられていた。
その後一人の男が車に乗り込み、二人の男が後ろから車を押すと、エンジンをかけていないのに車が門の手前まで移動した。
「あの、質問させてもらっても良いですか?」
「ああ構わないぞ」
俺は冴木という人物に疑問をぶつけてみる。
「あの車ってエンジンをかけていないのにどうして動かせるんですか? エンジンがかからないとPレンジから動かないですよね」
冴木は俺の言っている意味が分からなかったのか一瞬だけ間が空いた後、少し笑いながら答える。
「ああそんなことか、キーをONまで回してブレーキを踏んでNレンジにするだろ? 後はシフトレバーを下げれば車輪のロックは外れるから動かせるんだ」
「なるほど、じゃあこのバリケードの車も同じように動かしたんですか?」
このホームセンターの入り口を囲んでいる十数台もの車を⋯⋯?
「その通りさ、でもキーがかかっている車を探すのは苦労したよ。 まあこのバリケードを作ることが出来たのも今朝になってからだがね、何せ昨日はゾンビの数が多くて建物の中に閉じこもるしか無かったから」
「それにしても良くこんなバリケードを思い付きますね、普通こんなこと考えられないですよ」
すると赤いバンダナを頭に巻いた二十代後半ほどの男性がこちらに返事をする。
「ああ、こっちには情報通がいるんだ、そいつがこのバリケードを考案したのさ。 この武器もそいつが考えたんだぜ?」
そう言うと赤いバンダナの男は鉄パイプに短い鎖が繋ぎとめられており、鎖の先端には重量のありそうな金属が括り付けられていた。
「随分と物騒な武器ですね、どういう風に使うんですか?」
「この武器はリーチがあって距離を保って奴らと戦えるのが利点さ、でも近接戦だと若干扱いづらいところがあってな⋯⋯、 だから俺は奴らが近づいてきたらこの手斧で戦うようにしてる」
「おしゃべりはその辺にしておこう、それで君たちは何が欲しいんだ?」
冴木が俺と赤バンダナの間に入りそう告げる。
「何が欲しいかって言われると具体的には決めていません、ホームセンターの中にあるものを吟味して決めようと思っていましたから」
「とりあえず俺たちを中に入れては貰えやせんかね? 時間も限られてるんで」
中山がそう言うと、冴木は少し考えてからこちらに返事をする。
「物資を分ける事自体に問題は無い、だがタダでくれてやる訳にもいかないな。 君たちは食料を持っているのか? 持っているんだとしたら食料と交換するのが条件だ」
流石に都合よくタダで貰えるなんて事は無いか⋯⋯。
「どうしてあなた達は食料が必要なんですか? ホームセンターにも食料はある筈ですよね」
「このホームセンターには二十数名もの人たちがいるんだが、この人数で暮らしていくとなると食料が心細くてな⋯⋯、 丁度食料を調達しなければならないと話し合いをしていたところだったんだ」
「今すぐに俺たちが食料を提供できる訳では無いですけど、食料がある場所なら知っていますよ。 俺たちはそこを通ってきましたから」
「おお! それならそこの食料を分けて貰えると助かるのだが」
俺の言葉に冴木や彼の仲間達は歓喜の表情を浮かべていた。
「しかし一つ問題があります。 食料はスーパーにあるのですが、そのスーパーの中には奴らが二十体ほど居りまして⋯⋯。 俺たちだけではそのスーパーを制圧する事が出来ないんですよ」
「君たちは外で奴らと戦ってきたのだろう? それなら何とかなるんじゃ無いのか」
冴木の言い分が癪に障ったのか、中山が冴木へ近づいていく。
「おっさんよぉ、自分達だけ安全圏で食料貰おうなんて虫がよすぎねぇか? こっちは無理してそちらさんの物資を手に入れなくたって、生きんのに問題はねぇんだわ」
「それは⋯⋯、 そうかもしれんが」
この交渉のイニシアチブはこちらにある。 あちらは食料を条件として求めているわけで、単純に生きるという意味では角材などの物資と食料では重要度は段違いなのだ。
「それなら俺たちが得たゾンビについての情報や習性、戦い方なんかを教えます。 ですからそちらの何人かとこちらで、スーパーを制圧するというのはどうでしょう。 そうすればあなた達は食料を手に入れるだけで無く、奴らから生き残る確率は確実に上がります」
交渉においては相手が成立した方がメリットが大きいと思わせる事で成立する可能性が高くなるはず。
「仕方ない、私たちもスーパーの制圧に協力しよう。 みんなもそれで良いな?」
冴木の仲間達も冴木の言葉に賛成していく。
「野川さん、彼らに建物の中を案内してやってくれ。 俺は中にいる人たちを集めて制圧に協力してもらえる人を探そうと思う」
そう言うと冴木とその仲間達は建物の中へ戻っていく。
俺たちはヒステリー女もとい野川にホームセンターを案内されることになった。




