私の意地
お久しぶりです薬師実です。
約一ヶ月の期間を経ての投稿となります。
今回のお話は主人公槙野光が物資調達に向かった時の、望月美優の視点での話です。
小野寺悠人、上迫伊織、望月美優の三名のいる中山家にとある人物が訪問して⋯⋯
「ん、何かご用ですか?」
「いえ、突然すみませんね。 少しお話しさせて頂ければと思ったのですが⋯⋯」
私、望月美優と小野寺くんで中山家の防御を固めるべく作業していたところ、メガネをかけたスーツ姿の男性が話しかけてくる。
「先輩どうしますか?」
小野寺くんが怪訝な顔でこちらに耳打ちをしてくる。
メガネをかけた男性の手元を見てみると、武器のようなものは持っていない。
「ん、両手をあげてその場で周ってください」
メガネの男性は特に抵抗をする事なく、こちらの指示に従ってくれる。
その様子を見て、私は小野寺くんに小声で囁く。
「武器のようなものは持っていないし、敵意がある様子も無い。 話だけでも聞いてみる?」
小野寺くんは無言で頷いてくれたため、私は正門の扉を開く。
大丈夫、いざとなったらこちらの人数は多いし私には銃があるから。
「いやぁ、いつ奴らに見つかるかとハラハラしてしまいましたよ、お招きいただきありがとうございます」
「それであなたの要件は何ですか?」
小野寺くんが少し警戒しながら私を庇うように前に立つ。
「私はこの辺りに住んでおります伊原と申します、今朝車のエンジン音が聞こえたので誰か生き残っているのではと思いまして⋯⋯」
今朝光たちが調達に出かけるために乗っていったバンの事を言っているのだろう。
「こうしてあなた達と情報交換も兼ねて連絡を取りたいと思ったのですよ⋯⋯、 いくつか質問させて貰っても?」
「構わないです」
「いやぁありがたい! ところであなた達はどこから来たのですか? 元々この家に住んでいたわけでは無いのでしょう?」
「ここは俺たちの仲間の家なんです、大学にいた時に奴らに襲われたので、成り行きでこちらまで来たという感じです」
「なるほど、あなた達は何人でこちらに住んでいるんです?」
「ん、六人です」
「ほぉほぉ、今朝出かけていった方々はどちらへ?」
「物資の調達です、生きるためには色々必要なものがありますから」
さっきから質問され続けだったため、こちらからも質問させてもらうことにした。
「私は望月、こっちにいるのが小野寺くんです、私からも質問よろしいですか?」
「ええ、何でも聞いてくださいな」
「さっきからどこを見ているんですか?」
伊原さんは私たちに質問しながらも、視線は私たちに向いてはいなかった。
そう、まるで私たちの後ろ側を見ているかのように。
「ああごめんなさいね、私は人と目を合わせるのが苦手でして⋯⋯」
この人のスーツ姿を見る限り社会人なのだろう、社会人が人と目を合わすことが出来ないなんてそんな事があるのだろうか。
「ん⋯⋯、 私から見たところ武器も持っていない様ですが、奴らがいる外で丸腰で移動したのですか?」
「それは、私の家には武器となる様なものが無かったので⋯⋯」
私はこの人が武器を持っていなかったから家に入れた、自分が襲われる心配が少ないと思ったから。
でも外で武器を持っていないことは"不自然"では? 今までそれが"自然"だったとしても、この状況でそんな事が"自然"なのだろうか。
それが"自然"であることが意図されたものだとしたら⋯⋯。
「ちっ! おい、お前らもう出てきていいぞ!」
伊原が私たちの後ろに何らかの合図を送った時、塀を乗り越えて二人の男が侵入する。
「後ろです先輩!」
私が後ろに注意が向いていた間、突然小野寺くんに腕を引き寄せられてしまう。
元いたところを見れば、伊原が折りたたみナイフで切り掛かっているところだった。
小野寺くんは携帯していた木刀を構える。
金属製のバットを持った体躯の大きい男はニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながらこちらに近づいてくる。
もう一人のスタンガンを持った男は隙を伺うようにジリジリと詰め寄ってきていた。
「伊原、あなた最初からそのつもりだったの」
「いやぁ悪いですねぇ、この家は元々俺らが目を付けていたんですわ」
私と小野寺くんは壁を背にして囲まれていた。
まだだ、まだ銃を出すのは早い。 銃では一斉に掴みかかられたら対処が出来ないから。
「おかしいと思っていた、あなたの質問はこちらの戦力を測るようなものばかりだから」
「あちゃー、警戒される要素なんてどこにも無かったと思うんですがねぇ。 後学のために教えて貰っても?」
「まずあなたの服装、スーツなんて動きづらい筈なのにそれを着ている意味が分からない」
「ガキンチョには分かんないもんですかねぇ、他の家の奴らはスーツを着ているってだけですぐ家の中に招いてもらったんですが」
「他の家だって!? お前たちこんな事を繰り返しているのか!」
小野寺くんは伊原へ怒りをぶつける。
「この世は所詮奪い合いなんですよ、金も物も強い奴が手に入れるんです。 じゃあ君たちにはここで退場してもらいましょうかねぇ!!」
「美優ちゃん! 小野寺くん!」
声の聞こえた方を見ると包丁を持った伊織がこちらに走って向かってくるのが見える。
「伊織来ちゃだめ! 逃げて!」
伊織は私の言葉に固まってしまう。
「おい笠井! そいつを殺せ!」
笠井と呼ばれたスタンガンを持った男が、伊織に向かって走る。
「嫌! 来ないで!」
伊織は両手で包丁を構えながら笠井という男に対峙する。 その足はかすかに震えているのがこちらからでも見えた。
「どうして逃げないの! 伊織!」
「足手まといは嫌だもん!」
伊織は涙目になりながら叫ぶ。
「私は光くんたちのお荷物にならないように色々な事をしたけどそれじゃダメだったの! 私がやらなきゃいけないことはそんな事じゃない! そんなんじゃ光くんの隣にいる資格なんて無い!」
「ごちゃごちゃうるせぇんだよこのアマが! てめぇを気絶させてぶち犯してやっから大人しくしろやぁ!」
「やめろぉ!」
小野寺くんが伊織の元へ駆け出そうとするが、バットを持った男に阻まれる。
その間に笠井はスタンガンを振りかぶりながら伊織へ突進していった。
「だめぇーーーー!!」
ズガンと鳴り響く銃声が閑静な住宅街に響き渡る。
その原因は私の握っている拳銃のせいだ。
笠井はスタンガンを地面へと落とし、呻きながら倒れていった。
伊織は何が起きたのか分からずに目を見開いている。
「て、てめぇ隠してやがったな!!」
「嫌!」
伊原は私の腕に掴みかかり、握っている拳銃を奪おうとしてくる。
「先輩今助けますから!」
「てめえもよそ見してんじゃねぇ!」
バットを持った男が小野寺くんへ殴りかかっていった。
「きゃ!」
私は大人の男の力には勝てずに、地面へ押し倒されてしまう。
「大人しくしろコラァ!!」
伊原に頬を殴られ、拳銃を掴む力を緩めてしまう。
だけど私は絶対諦めない。
光の⋯⋯、 仲間たちの帰ってくる家を守らないと!
「おらっ! これで銃は俺のもんだ! その綺麗な顔面ぶち抜いてやるからなぁ。 あっはっはっは!!」
「美優ちゃん!!」
伊原は私に銃口を向けるが、その引き金が引かれる事は無い。
「あれ、あれ!?」
「ねえ伊原さん」
私は手にあるものを忍ばせる。
「安全装置って知ってる?」
私は伊原のネクタイをグッと引き寄せ、ドライバーでメガネのレンズごと目を串刺しにする。
「ぎゃああぁぁ!! 目が、目がぁ!!」
伊原はドライバーが刺さった目を抑えながら、痛みに悶えて地面をのたうちまわっている。
「あなたが奪った拳銃に安全ゴムを付けさせてもらった、だからあなたは引き金を引く事が出来なかった」
私はベルトに括り付けていた小型のハンマーを握る。
作業していて本当に良かった。
私は運が良いみたいだ。
伊原は私が近づいてくるのに気がついたようだ。
「い、嫌だ! 助けてください助けてください助けてくださいぃ!!」
「人を殺すなら自分が殺される覚悟を持て⋯⋯、 どこかで聞いた台詞だけど本当にその通りだと思う」
地面に倒れている伊原に馬乗りになりながら、ハンマーを振り上げる。
「私はあなたを殺した事を背負って生きていく⋯⋯、 だから私たちのために死んで」
私はハンマーを振り下ろす。
「ぐぇ!」
まだ足りない、あともう少し。
「ぎぃぁ!」
私の頬に血がかかる。
「ゴプッ!」
最後に私の記憶に残った音は、死にゆく彼の声なのか肉が砕ける音なのか、私には分からなかった。
でもこの感触は昔お母さんと一緒に肉のたたきを作った時によく似ていた。
「ちゃん⋯⋯、 美優ちゃん!!」
「先輩!」
誰かの声に意識が覚醒すると、後ろから抱きしめられる。 後ろを見ると涙を流していた伊織だった。
「もう良いんだよ⋯⋯、 もう大丈夫」
伊原のぐちゃぐちゃになった頭に気づいて、私の手からハンマーがこぼれ落ちる。
「どうして伊織が泣いているの⋯⋯?」
「だって! 美優ちゃんが泣いてるから!」
目元を拭ってみると袖が湿っている。
私は泣いていたの⋯⋯?
「先輩、あの大柄な男の身動きは封じてあります、だから今は休みましょう」
「ん⋯⋯、 小野寺くんちゃんと勝ったんだ」
「俺は剣道の有段者です、得物を使った戦いなら簡単には負けませんから」
「そう⋯⋯」
私は二人に肩を抱えられて家の中へ向かう。
随分と音を出してしまったため、道路に奴らが集まってきているかもしれない。
光には申し訳ない事をしたと思う。
そして私が殺した二人の死体は物となって沈黙している。
人の命を絶ってしまった重圧を感じながらも、私は今生きていることに喜びを感じていた。
今回も読んでいただきありがとうございます。(^O^☆♪
今回の美優の話は生きるという彼女の意地のお話でした。




