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本当の仲間

こんにちは、薬師実です!

最近少し忙しくて投稿が遅れてしまっているのですが、夏になれば時間が取れるので書けると思います!


 「放して!! こんなところにはもう居られないのよ!!」


 「何を言ってるんだ君は! 大人しくここに居なさい!」


 俺たちが休憩所から出てみると、ラウンジ棟の扉の前で女子学生と長澤先生が揉み合いになっていた。


 「何があったんですか長澤先生!?」


 俺は事情の説明を求める。


 「槙野くん! 実はこの子が突然扉を開けて出て行こうとしたんだ!」


 「嫌! 私は(たかし)に会いに行くの! 隆からアパートに向かうって連絡が入ったんだからぁ!」


 隆?隆とはこの女子学生の恋人の事だろうか?


 「ちょっと落ち着いてください、その連絡はいつ来たんですか? その連絡の手段は?」


 「今よ、今!! 今隆からラインで連絡が来たの!!」


 この人は完全に冷静さを失っているようだった。


 「その通知画面を見せてもらってもいいですか?」


 「はあ!? 何でそんなことしなきゃいけないのよ!!」


 すると、横から上迫さんが女子学生の肩を掴んで諭すように話す。


 「私にも焦る気持ちは分かるよ、だって大好きな人が危ない目にあってるかもしれないんだもんね⋯⋯、 でも槙野くんの言うことを聞いてあげてくれないかな? 槙野くんはこういう時にとっても頼りになる凄い人なんだから!」


 「う、うん⋯⋯ 」


 上迫さんは俺の方を向いてウインクをする。ことコミュニケーション能力において、彼女の能力はピカイチだ。人は閉鎖された空間では、情緒不安定になり判断力が欠如しやすいため、争いや(いさか)いが発生しやすくなる。


 俺が絡まれた時は結局暴力でしか解決出来なかったが、上迫さんがいれば違っていたに違いない。彼女のそういったところは尊敬すべきであり、見習うべきでもあると俺は思う。


 「えっとじゃあスマホを見せてくれる?」


 「はい⋯⋯ 」


 彼女のスマホの画面には、アパートに向かうというメッセージが表示されていた。しかし、送信時間を見ると朝の9:32となっていた。今は昼過ぎなので数時間も前のメッセージと言うことになる。


 俺は残酷とも言える事実を彼女に突きつけるべく説明を始めた。


 「この送信時間のところを見て欲しいんだけど、その隆さんは数時間前に送ったんだろうね、それに対する君の返事に既読が付いていない」


 「だから何よ」


 ラインは通信が混み合っていると、数時間前に送信されたものが遅れて通知されることがある。おそらく色々な人が連絡を取るためにラインを使ったのだろう、それが今処理されて送られてきたと言うわけだ。


 「隆さんは既に死んでいるか、連絡が取れない状況にあると思う」


 「はあ!? あんたどういうことよそれ!!」


 「槙野どういうこったよ、そりゃあ」


 「なら何故、彼は君の返信に既読をつけないんだろうね?」


 何故今頃になってラインが届いたのか、それは単純に電波の混み合いが少なくなったからだ。つまり、電波を送る人間自体が少なくなっていることを意味する。そう、ゾンビの手によって。


 「それは⋯⋯、 スマホを見てないとか忙しいとかでしょ!」


 「仮に生きていたとしてもどうやって会うつもりなんだ? アパートに向かうといった情報だけで、連絡も取れないのに? それに君は丸腰じゃないか、そんなんでどうやってゾンビに立ち向かおうって言うんだよ」


 「うるさい、うるさい! とにかく私は行くから! 止められるもんなら止めてみなさいよ!」


 「君も少し冷静になろうよ、今行っても無駄死にするだけだ」


 小野寺が仲裁に入るが、ヒステリー女は小野寺を突き飛ばす。


 「ちょっと顔がいいだけで調子乗ってんじゃないわよ! そうやってヘラヘラして、なあなあにしながら生きてきたんでしょ!? 私はあんたみたいな口だけの優男が一番嫌いなのよ!!」


 「待って」


 望月先輩がヒステリー女の手を掴む。


 「出ていくなら非常口から出るべき、扉の奥にはゾンビだらけ、あなたは死ぬ」


 「っ! 分かったわよ! お望み通りにしてやろうじゃない!」


 「丸腰じゃ危険だ! この角材を渡すからそれを使うといい!」


 長澤先生が平均台を分解したであろう木材を渡す。


 「じゃあね! あんたらはここで野垂れ死んだらいいわ!」


 ヒステリー女は休憩所から非常口へ出て行ってしまった。


 「へっ! 気が強ええ女だったなあ、おい!」


 俺は中山に肩をバシンと叩かれる。


 「笑い事じゃないよ全く、ああ言うタイプが一番苦手なんだ、やっぱり女の子はお(しと)やかじゃないと」


 「ま、槙野くん! 私っておしーー」


 「光、私はお淑やかだから」


 望月先輩が一歩前に出て胸を張る、元より大きいものが強調されてすごいことになっている。上迫さんも何か言おうとしてなかったか?


 「ん? 望月先輩はお淑やかって言うか無口ですよね」


 「う⋯⋯、 私無口⋯⋯ 」


 「ははっ、槙野はモテるなぁ」


 イケメンに言われると皮肉以外の何ものでもない。


 「まーた騒ぎを起こしおったかクズどもめ」


 すると町田が、小言を言いにわざわざ俺たちの方へ近寄ってきた。


 「あ? 前の騒ぎはテメェも関わってんだろぉが」


 「全く! 長澤先生は学生の一人も言うことを聞かせられんのか! 講師としてなっていないんじゃないのか!!」


 「はい⋯⋯、 すみませんでした⋯⋯ 」


 町田は唾を吐き捨て、去って行った。


 「長澤先生はどうしてあんな奴にヘコヘコしてるんですか? 言っちゃ悪いですけど、あいつは普通じゃないですよ」


 「それでも町田先生は先輩だからね⋯⋯、 とてもじゃないが逆らう気にはなれそうもない」


 街中がゾンビだらけになったと言うのに、未だ以前の関係に縛られている長澤先生はとても滑稽(こっけい)に見えた。いや、自ら進んで縛られているのかもしれない。人間は緊急事態でも普段通りに振舞うことで、冷静さを保つということがあるらしい。長澤先生も心の底では、普段通りでありたいという願いがあるのかもしれない。


 「そうだ! あの人のラインが繋がったなら、今メッセージ送れば届くかもしれないよ? みんなも送ってみようよ!」


 上迫さんが手をポンと叩いて全員へ話す。


 「ん、それがいいと思う」


 「じゃあ休憩所に戻ろうか、みんなも疲れてるだろうし、少し体を休めよう」


 小野寺の声が皮切りとなり、俺たちは休憩所に戻ることになった。



 それから俺たちは家族へと連絡するべく、スマホを使っている最中である。上迫さんの母親は最玉(さいたま)に住んでいるらしく、どうやら連絡が取れたらしい。上迫さんはとても喜んでいた。


 一方、俺は母さんへ電話をかけたが繋がらなかった、電波は生きている筈なので、おそらく母さんはもう⋯⋯


 俺は鬱屈(うっくつ)な気持ちを振り払うべく、父さんへ電話をかける。何回かのコールの後、父さんの電話が繋がった!


 「光!? 無事なんだな!? 母さんと美乃梨も一緒なのか!?」


 俺は父さんの声を聞き、思わず立ち上がってしまう!!


 「父さん!! こっちは無事だけど、美乃梨とは合流出来てない! 母さんはおそらくもう⋯⋯、 父さんは今どこにいるんだ!?」


 「そうか、母さんは⋯⋯ 、分かった!お前が無事だって確認出来ただけでもいい!! 東都(とうと)は酷い有様だ! 今は市部谷(しぶや)真宿(しんじゅく)池嚢(いけぶくろ)あたりはもう奴らで埋め尽くされている! どうやら自衛隊は奴らの封じ込めに失敗したみたいだ!! 今は会社のオフィスに立て籠もっている!! 奴らどんどん集まってきているんだ!! 」


 父さんの電話の奥からは悲鳴や怒号が響き渡り、バンバンと何かを叩くような音が聞こえる。


 「父さん⋯⋯、 今どんな状況なの⋯⋯? もしかして奴らに囲まれてるのか⋯⋯?」


 「⋯⋯」


 父さんは何も答えてくれない。


 「ねえ父さんってば!!」


 「光⋯⋯、 大事な話がある、俺からの最後の教育だ!」


 俺は父さんの最後という言葉に、思わず涙が出てくる。悲しくて、切なくて、今まで当たり前だと思っていたことは、もう取り戻せなくて。俺は泣き叫びながら、感情を(おもむ)くままにぶつける。


 父さんはよく冗談を言う人だった、冗談で家族を笑わせ、家族を明るくしてくれていたのは父さんだったんだ!


 「最後なんて言わないでくれよ父さん!! 父さんも生きろよ! 生きて四人で暮らすんだよ!! それでまた馬鹿みたいに冗談を言ってくれよ!!」


 「っ!! 聞け光!!」


 俺は一瞬止まってしまう。俺は初めて父さんの一番真剣な声を聞いた。電話の向こうにはガラスが割れる音が響く。


 「光!! お前は何としてでも生きろ!! どれだけ生き汚くてもいい! 卑怯でも、臆病でも! お前は生きるんだ!!」


 「父さん!!」


 「生きろ光!! お前は俺の自慢の息子だあぁぁ!!!」


 すぐ後ろにはゾンビの唸り声が聞こえてくる!


 「嫌だぁぁ!! 死なないでくれぇ!! やめろおおおぉぉ!!」


 スマホからは、ツーツーと通話が切れたことを知らせる音が響く。


 「うぅ⋯⋯、 父さん生きてくれぇ⋯⋯」


 「槙野くん⋯⋯ 」


 何で父さんがこんな目に遭わないといけないんだ!! 父さんはいつも家族のために働いてくれて⋯⋯


 「槙野くん、元気だしてよ⋯⋯、 お父様だってそんな槙野くんは見たくないはずだよ⋯⋯ 」


 俺はその言葉に、理性のタガが外れてしまった。


 「分かったような口を聞くなああぁ!! 」


 俺の言葉に上迫さんはビクリと反応する。ヤバい、こんなってしまっては自分じゃ止められない。


「お前は良いだろうよ! 母親と連絡が取れたんだからさぁ!! でも父さんは! 父さんはもういないんだ!! 俺の前で死んだんだよ!!」


 そんな時だった、ピコンとスマホの音が鳴り、美乃梨からのメッセージが表示されていた。


 助けて。


 これだけの文章なのに、俺の心臓は激しく高鳴っていく。


 「行かなきゃ⋯⋯、 美乃梨を助けなきゃ⋯⋯!  もう家族を失いたくは無いんだ!!」


 俺はバールとリュックを持ち、非常口へ向かっていく。


 「この馬鹿野郎!! 考えなしに動いてんじゃねーぞ!!」


 「うるせえ!! てめえに俺の何が分かるってんだよ!!」


 「分かるから止めてんだろうが!!」


 「ぐっ!」


 俺は中山に殴られ、襟を両手で掴み上げられる。


 「家族と連絡が取れねえのはお前だけじゃねぇんだぞ! 伊織が連絡が取れたのだって奇跡みたいなもんなんだよ!」


 俺ははっとして、周りを見回してみる。


 上迫さんは目に涙を浮かべながら、俺を慈しむような目で見ている。その目には決して俺を非難する感情は感じられなかった。


 他のみんなも俺と同じような顔をしていた。きっとみんなも家族と連絡が取れなかったのだ。このとき俺は、家族を失ったのは俺だけじゃないということに気づく。すると、上砂さんが倒れている俺と同じ目線になるように腰を(かが)める。


 「槙野くんごめんね⋯⋯、 私の配慮が足らなかったよね、大丈夫なはず無いのにね⋯⋯、 ごめんね⋯⋯、 辛かったね⋯⋯」


 上迫さんは俺を抱きしめながら、背中をさすってくれる。それはとても暖かく感じた。


 「上迫さん⋯⋯、 俺はなんてことを⋯⋯ 」


 俺は彼女に言ってはいけないことを言ってしまったことに気づいた。俺が父さんの死を悲しんでいる間、彼女もまた悲しんでくれていたのだ。こんなに優しい彼女が俺の気持ちが分からないなんてこと、有るはずがないのに。


 「すまない⋯⋯、 許してくれ⋯⋯、 あんな事を言ってしまった俺を許してくれぇ⋯⋯」


 俺の目には再び涙が流れ落ちてしまう。この涙は何の涙なのか、俺には分からなかった。


 何がいつも冷静だ! 理性を失って、仲間を傷つけて! これじゃさっきのヒステリー女と同類じゃないか!! 


 人のふり見て我がふり直せとは、まさに俺に向けられた言葉であったと感じた。


 「うん、光くんが謝ってくれたから許してあげる、その代わり私の事を伊織って呼んで欲しいかな⋯⋯ 」


 「ありがとう⋯⋯、 伊織⋯⋯ 」


 するとみんなが俺と伊織の周りに集まってきていた。


 「そうだよ槙野、槙野が冷静じゃなかったらどうやって美乃梨ちゃんを救うって言うんだい?」


 「へっ! おめえはスカしてるくらいが丁度良いんだよばーか」


 「ん、辛い気持ちはみんな同じ、みんな同じなら仲間⋯⋯ だよ」


 「お前ら⋯⋯、 ありがとう⋯⋯ 」

 

 みんなの声が荒んだ心を溶かす。頑張ろうという気持ちになっていく。


 これが仲間⋯⋯、 なのかな。


 俺は初めて、本当の意味での仲間が出来たような気がしたんだ。

主人公はいつも理性に従って行動していますが、それに反してしまうこともあると言うことですね。こういった事態では冷静な判断を出来る人が生き残れると思います!

今回も読んでいただきありがとうございました!(^O^☆♪


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