第2話「青ヶ丘新聞部」
次の日。登校すると一年二組の教室に入る前に、水崎が俺の姿を見つけ教室の中から出て来て僕の前に立ちはだかる。
「今日の放課後までに、部員を何人か拉致しておきなさい。あたしは学校側と生徒会へ提出する書類を作るから」
「はいはい。わかったよ」
それにしても、少しは言葉を選べよな拉致とかもろ物騒だぞ。どうやら水崎は僕が登校するのを待っていたのかそれだけを言うと、教室には戻らずにどこぞへと行ってしまう。教室に入り自分の席にカバンを賭けて椅子に座る。
「災難な奴に目をつけられたな」
と前の席で身体ごとこっちを向けてくる立花。
「水崎さんの事?」
と斉藤も僕の机の横に来て言う。
「その通り。俺はあいつとは同じ中学だったから知ってるんだけどな。中学の時もわけのわからん新聞を月一で刊行しては学校中の掲示板に張り続けていたな。新聞の内容は毎月バラバラでな、UFOやUMAの事について書かれていた時もあったな」
その他にも立花は中学時代の水崎ほのかの奇行を語り続けていた。それによると水崎ほのかは実に様々な事件を起こしているらしい。毎月の新聞刊行に校庭に落とし穴を作ってみたり。時効になった事件を片っ端から調べたおしてみたりとその奇行行為を語りだしたら止まるとこを知らない。
「中でも一番衝撃的だったのは、学校ピラミット事件だな」
「なにそれ?」
「GW明けに学校に登校すると、校庭に机が運ばれていてそれでピラミットが作られていたんだ。で、それを作った張本人があいつだ」
立花は弁当のウィンナーをつまみながら説明をする。朝から始めた説明が昼休みまで長引くとはね。それにしても立花。お前随分水崎に詳しいな?
「嫌でも耳に入ってくるからな。あいつの伝説は」
「でも、彼女どうしてそんな事ばかりするの? 理由は?」
知らん。と言うのが立花の答えだった。そりゃそうだろう、水崎の性格を考えるのならば、自分の行動を他人に理由をつけていちいち説明するなんて事ないだろうさ。大体、僕に何か言う時でさえも理由を言わないのだから。
「先、部室に言ってて!」
あっというまに時間が過ぎ、帰りのHRも終わり後ろの席の水崎がそれだけを言って、教室から出て行く。斉藤と立花が僕の横を通る時に立花は僕の肩に手を置いて人を哀れむような目で見つめてくる。
気色悪いから、見つめないでくれ。男に見つめられるなんて気分が悪くなる。
「頑張れよな」
ああ。適当に頑張ってみるさ。掃除当番の二人を横目に僕は教室を後にする。ぶらぶらと散歩気分で見慣れない校舎を歩いていく。中学校に比べると当然のように大きい高校の校舎はまだ何処に何があるのかを把握出来ていない。
迷子になるなんてことはないだろうが、せめて図書室の場所くらいは知っておきたいな。以外かもしれないが、僕は本が好きだ。新聞も読む方だから活字が好きなのかも知れない。
図書室を探そうかとは思ったが遅れていくと水崎にどやされそうなので、部室へと足を向ける。昨日までは英語部とプレートがかけらていた部室のドアには「青ヶ丘新聞部」のプレートが掛けられている。
ドアを開けて中に入ると、水崎の姿は無かった。まだ来ていないらしい。長机に鞄を置き、椅子に座る。本でも読もうかと鞄の中を探るが、あいにくと全部一度読んでしまった本ばかりだった。新しく買った本を持ってくるべきだったな。暇だ。このままだと寝てしまいそうなので僕は立ち上がって、水崎の私物のノートパソコンに目を留める。確か昨日回線を引いて来てインターネットに接続できるようにしたんだよな。
暇を潰すのには最適そうだが、勝手に人のパソコンを使う事は出来ないな。窓を開けて、外の様子を眺める。ここは四階なので眺めはいい。部活動をしていない二、三年生やまだ部活動に加入していない一年生が校門をくぐってそれぞれの帰り道についている。一年で、それに入学二日目で既に放課後の時間に拘束されている僕にしてみれば羨ましい限りだ。
ふと桜の木の枝が手を伸ばせば届く位置にある。僕はなんとなくその枝に向かって手を伸ばした。
部室のドアが乱暴に開けられ、その音に驚いた僕はあやうく四階からダイブしてしまいそうになる。なんてタイミングで現れるんですかあなたは。
「どんなタイミングで現れようとあたしの勝手でしょ。それよりほら、新入部員!」
水崎が連れて来たのは、一見中学生かとも見間違うほどの童顔と背の低い少女だった。
「坂上桜です。宜しくお願いしますね」
同じ一年で名前は坂上桜さんというらしい。水崎とは正反対の控えめな外見からは清楚という印象を受ける。水崎のどんな口車に乗せられたのかは知らんが、同情いたしますよ。
「で、ユキあんた誰か勧誘してきたの?」
「すっかり忘れていた」
僕があっさりと言い捨てた事に対してか、その事自体を忘れていた事に対してかは知らないが、水崎がその黒い瞳で睨んでくる。
「そういえば、どんな新聞を作るんですか?」
フォローの様に坂上さんが水崎に問いかける。助かります。水崎は満面に笑顔で、
「よくぞ聞いてくれたわっ! UFOは実在するのか、UMAは居るのか、ピラミットはどうして作られたのか、この世界の全ての謎の真実を追究して、世界に向けて私達の存在を知らしめるための新聞を作るの!」
アホな事を言い出すのだった。
マジか。本気か。正気か。まぁこいつの事だろうからマジで本気で正気なんだろうな。 それはあくまで水崎にとっての正気であって僕みたいな一般人には理解できそうにない。
「面白そうですね」
坂上さん。あなたまでそちら側の人なのですか。何を持って楽しいなどと。
「ここの高校は長刀部が無いらしくて、お家に帰っても暇ですから。丁度いいです」
元々坂上さんは楽天的な性格なのかもしれない。可愛い女の子が二人もいるこの部活が、何故かとんでもなく疲れる気がするのは何故だろうか。
「あの、僕帰ってもいいですか?」
「不許可。第一あんた部員を誰一人として集めてないじゃない。今からでもいいわ、さっさと行って誰か連れてきなさい!!」
今からって言われても、もう大半の生徒は帰ったと思うんだが、まあいいかこれで逃げ出す口実が出来たというもの。僕は鞄を掴み部室のドアを開けようとする。
「鞄は置いていきなさい、逃亡阻止の人質よ」
鋭い。
仕方が無いので、一年の教室がある校舎から回る事にしたがやはりそんなに多くの生徒は残っていなかった。残っている奴らも中学の時の知り合いは皆無で、あんな正体不明の部に誘う事は出来そうにない。
僕が教室の中を眺めながら歩いていると、前からドン! と何かに衝突される。転びこそはしなかったが、少し体制を崩す。
「あ、すいません。よそみをしてたから」
「俺こそ悪いな、ぼーとしてて・・・あれ? お前ユキか?」
その呼び名は本名ではないがな、僕はいつの頃からかユキと呼ばれるようになっていた。なんか女の子みたいな名前なのであまりそう呼んではほしくないのだが。斉藤や僕を知っている奴らのせいで高校でもその呼び名が定着しそうだ。
どうやら僕を知っているらしい男子生徒は一見して背が高かった。身長の低い僕にしてみれば随分羨ましい限りだ。それよりも、僕には目の前の男子生徒に見覚えは無かった。向こうは知っているのに僕は知らないと言うのがなんだかとてもアンフェアなように思える。
「えっと、誰だっけ?」
「ええ!? 忘れたのかよ!?」
そんなに驚かなくてもいいだろう。なんだかとても罪悪感が募る。
「仕方ないかな、俺だよ中一の時同じクラスだったけど転校した創野誠之だよ」
「創野誠之?」
脳を定期テストの時のように回転させて、昔の記憶を掘り返す。中学一年の時転校していった。思い出した。あれは確か中学一年の時の自然体験学習とか言う奴で。変な場所に泊まり。土日をはさんで月曜に登校したら約一名がいなくなっていた。
「思い出した。確か自然体験学習のときの夜に皆で集まって」
「そうそう、応援団の奴が」
―――――創野君の勝利を祈り三三七拍子!
「って叫んで皆で三三七拍子をしたんだっけか」
「ようやく思い出したか。まあ三年ぶりだから忘れていても仕方ないかもしれないな」
「悪いな。ところで創野どうしてここにいるんだ?」
転校したはずなのにどうしてまたここに舞い戻って来てるんだよ。そんなに中一の時のやつらが恋しかったのか。
「違う違う。中三の冬に親父の仕事の都合で春先にはこっちに戻ってくる事になったから。高校はここを受けたんだよ。そんなに頭良くないしな」
「確かにお前は自由ヶ丘高校には受からないだろうな。あそこはバリバリの進学校だし」
「そういえばさっき斉藤にも会ったな。あいつはすぐ解ったけどな俺だって」
そうですか。それは大変申し訳ありませんでしたね、何か最近物忘れが激しくていかんな、もう年かな。そういえば、何か大変な事を忘れてるような気がするな。何だっけか。
「そういえばさ、何か面白い部に入ってるんだって? ユキ」
「誰に何を吹き込まれたかは知らないが、面白いかどうかは不明だ」
「UFOやUMAを探し回るなんて面白い事この上無いと思うぞ? お前だってそういうの好きだったんじゃなかったのか?」
さてね、疑う事を知らない無垢な少年の時だったら、好きだったかも知れないな。だが、今では好きでもないし。興味も無い。何故ならそんな物は最初から実在しないからだ。宇宙人? 未確認生命体? いるはずがない。
「どうしてそう断言できる。誰かが証明でもしたのか?」
「さあな」
こうして青ヶ丘新聞部に新しい新入部員が入り四人になったわけだが、この四人に。もちろん僕も含む四人に運命的なものがあるとどうしてこの時の僕に知りえるだろうか。もしかしたら坂上さんや創野。それにほのかは既に知っていて知らなかったのは僕だけだったのかもしれないが。
プロローグにしては少し長めだったかもしれないが。これからの事を思えばまさしくこれはプロローグにしか過ぎない。




