第1話「RESTART」
サッカーの試合に置いてボールがコートの外に出た後に始める事を「RESTARTという。これはプレイを再開するという意味だが、この言葉を他の状況にも当てはめてみてはいかがだろうか。そう、例えば学校生活。学生といえば小学生から高校生、大学生だが、それを一つのゲームをプレイしているかのようにたとえてみる。当然進級や進学のシーズンになると一時ゲームは中断となる。そして進級かもしくは進学をしてゲームはリスタート。再開される。
長々と何が言いたいのかといえば。つまるところ今の僕は学校生活というゲームを一時中断してリスタートに向かって歩き出しているのだ。それに今回は中学校から高校へと進級した後の再開だ。今までと何かが変わってくるのかなと密かに期待と希望を抱いて、能天気にも桜が咲き誇る階段を一段飛ばしで駆け下りていた。
今日は合格発表の日だった。中学校の卒業式は昨日挙式されたのだが、正直な話全然卒業式なんか覚えていない。覚えているのは落ちていたらどうしようかな。とひたすら一心に考えていた事だけだ。ともあれ、無事合格も果たしてこれからの始まる高校生青春の一ページに色々と思いを馳せてみたかったのです。
「うるさいわね! 謝ったでしょ!」
青ヶ丘高校(通称青高)に続く長い階段を降りた先には、道路があり歩道がある。その歩道にはバスの時刻表もといバス停が立っている。そのバス停の前にいる少女が大声をあげたようだった。さっきの語気からするとなにやらまずい雰囲気かもしれないな。
「あぁ!? 人にぶつかっておいてその態度はなんだ!?」
「昼間から酔っ払ってそっちからぶつかって来たんじゃない、それでも謝ったんだからむしろ感謝して欲しいくらいだわ」
うわ。酔っ払って少女に絡む大人もみっともなくてあまり関わりあいになりたくは無いけど、少女の方も凄く気の強い。これまた関わりあいにはなりたくはないな。僕平和主義だし、暴力嫌いだし。
「生意気なガキに社会の厳しさを教えてやるよ!」
酔っ払いの大人が少女に殴りかかろうとする。それを見た僕は回れ右をして見ないフリを・・・・どんだけ薄情な男だよ。僕は酔っ払いと少女の間に割って入ろうと走り出そうとしていた。そんな中でも少女の瞳が「あ、座った」なんて事を思えるのだから観察眼はあるのかもしれない。
「ひぃぐぅぁ!」
その時聴いた断末魔の叫びのようなカエルが絞め殺された時の声のような、はてまた鳥が生きたまま焼き鳥にされたというなんだかよく分からない叫び声が周囲に響いた。この時の状況はちょっと忘れるのに半年は掛かるんじゃないだろうか。
少女が持っていたカバンが酔っ払いの男の勲章にクリーンヒットしていた。というかめり込んでいた。風が止まっていた。空気も止まっていた。世界も時間も止まっていた。長い長い沈黙を(正確にはカップ麺を作ろうと蓋を開けるまでの時間)打ち破ったのは、一台のバスだった。
バスはバス停の前で止まる事もせずに、ブッブーと廃棄ガスを撒き散らしながら道を下っていった。酔っ払いの男はその場に崩れ去り、少女は何事も無かったかのようにバスの時刻表に顔を向ける。なんだかよく分からないけど、このままずらかったほうがいいと思うのは僕だけかな。と言う訳で回れ右をして忍び足で歩き出した。
「そこのあんた」
「ひぃ?」
恐る恐る振り返ると、バス停の時刻表を見ていた少女が僕に視線を向けていた。僕はとっさに辺りを光速の勢いで見渡し、他に人影がいないことを確認する。
「・・・僕ですか?」
「他に誰がいるのよ」
そこの地面に崩れ去っている酔っ払いの人。とは言わなかった。
「今何時?」
「はっ?」
あまりにも突拍子も無く聞かれたので、間抜け丸出し的な声で聞き返してしまう。その反応に少し機嫌を悪くしたのか、さっきよりも険しい顔で、大きい声でもう一度問いかけてくる。
「今何時!?」
「え、え〜と」
とっさに左腕にしている腕時計を見る。大きい秒針が一。小さい秒針が十二を指していた。つまり、
「十二時五分」
という事になる。少女はお礼も言わずに十二時五分という言葉を小さくぶつぶつと呟きながらバス停の時刻表を指でなぞる。今の内に逃げておくか。なんとなくそう思う。というか何かがそう告げている。と言う訳で僕は回れ右をして。
「ちょっと」
この人は後ろに目でもあるんですか。そしてどうして僕の逃亡を許してくれないのですか。
「なに?」
「もしかしてさっきのバスがこの十二時三分ってやつ?」
この場合もしかしてもくそもなく、さっきのバスが十二時三分発のバスだろうな。その事をストレートな表現で伝えていいものか。こう変化球を交えた方が得策かもしれない。
「時として、人生は不幸の重なりが起きるもので、しかしだからといってヤケになってはいけないので」
「あたしが聞いてるのは人生の講義じゃなくて、バスの行方よ」
「十二時三分発のバスは残念な事に僕達の横を通っていったね」
事態を悟ったのか、少女はバスの時刻表と睨めっこを始める。ちなみに僕もそのバス停の時刻表チェックしたけど十二時のを逃がすと、次は三時になるんだよね。ビバローカル路線の便の悪さ。僕もあのバスに乗らないと家に帰れないので、少し困っていた。青高は街より少しはなれた山に建っているから交通の便が悪いのだ。
「あんた。自転車を調達して来なさい」
「はっ?」
「あんた耳遠いの!? さっさと自転車を調達して来なさい!」
いや、はっきりと聞こえてはいるのだよ。自転車を調達して来いと言っているのははっきり聞こえるが、どうして僕が自転車を調達してこなければならないのか、その辺の明確的な説明が少しは欲しいような。
「あんた、歩いて帰るつもり?」
「いや、さすがに無理・・・」
「だったらさっさと自転車を調達してくる!」
何かとてつもなく理不尽で納得は出来ないけど、僕は回れ右をしてさっき一段飛びで降りてきた階段を二段飛ばして駆け上がっていく。といっても校舎に戻った所で、自転車なんかそこらへんに転がっているわけでもないだろうし。
前言撤回。職員玄関の前に手頃な自転車が一台放置されていた。茶色のような赤色の自転車でフレームに「職員緊急時用」と書かれていた。僕の今の状況も緊急といったら緊急なので(主に僕の命の緊急問題)チャレッド号。(命名僕)にまたがり、さっきのバス停まで戻る。
「遅い!」
いや速いだろう。命じられてからまだ十分と経っていないはずだ。そんな速さで自転車を調達できる人間はそんなにはいない。五万といるだろうけどさ。
「あんた漕ぎ役ね」
「はい?」
「自転車一台だけなら二人乗りするしかないじゃない、ほら行くわよ」
三月二十三日。高校入試合格発表直後のお昼に僕は見知らぬ少女と自転車で二人乗りして家への帰路に着いた。チャレッド号は快調に進み、一時少し前には駅前まで戻ってこれる。ここまで来ればバスも多いから一人でも帰れるだろう。
「あんた今日暇よね?」
「えっ、いや」
「暇ね? はい決定」
断る暇も無く、無理矢理少女に付き合わされることになった哀れな僕ではあるが、その少女はよく見ると結構可愛かった。長い髪に整った顔立ち、どちらかと言えば僕の周りよりかはテレビの中で動き回っていてもおかしくないほど可愛かった。
その後、僕と少女はバスの運営を管理している営業所に殴りこみに行った。いや、定期券の購入とかじゃないですよ、本当に殴りこみに行ったのだ。
何故かって? 答えは一つしかない。あのバスの運転手に尋問じみた事をするためだ、どうしてバス停の前に立っている人間がいるのに止まりもせずに行くのかを問いただしていた。
営業所から出ると、駅の近くにあるデパートに拉致されて。よく解らないものを買っていた。つまりは僕は荷物持ちなのだろうな。その後はこれまた駅の近くの喫茶店でコーヒーをおごってもらったからよしとしようか。喫茶店から出ると荷物が多い少女が自転車で帰り僕は歩いて帰ることにした。
この日。この時からであろう僕の未来が決定付けられたのは。今は関係ないがターニングポイント。人生の転機が訪れるのはいつだって突然なのかもしれない。
宿題の無い春休みは駆け足のように過ぎていって、入学式の日がやってきた。四月四日。なんという不吉な日に式を挙行するんだ。呪われたらどうしてくれる。
入学式が終わると自分のクラスに行く。僕は一年二組だ。ちなみに小学校の時も中学校の時も一年二組だった。どうでもいいことだけどね。
クラスメイトを見渡していると。一人の男子生徒が近づいてきた。
「ユキも同じクラスか」
「斉藤か。中学の時の知り合いはお前だけだな」
声を掛けてきたのは中学校の時の知り合いの斉藤。性格はどちらかと言えば大人しく、服装も学校の校則を守って崩した着方をしない。どちらかと言えば真面目なのだが、成績は僕とあまり変わらない。
「よ〜す。俺。立花よろしくな」
僕と斉藤が話をしていると前の席の立花と言う男子生徒が会話に交じって来る、いかにも軽そうな奴だ。クラスの所々でも自己紹介と携帯のメアドと番号を交換している奴が男子でも女子でも何人かいる。どうせこの後のHRで自己紹介するだろうに。
案の定担任がクラスに入ってきて、担任の自己紹介が終わると窓際の席の奴から順に自己紹介をする事になった。
自己紹介といってもやはりそれは個人個人でまるで違う。なんかウケを狙っている奴や、少しでも早く簡潔に終わらせたい奴とか、もじもじしている人とか。自己紹介は人の数ほどある当たり前だがな。
「と言う訳で、一年間よろしくお願いします」
別段ウケを狙おうともせずに、普通に自己紹介を終えて安堵の息と共に席に着く。
「青ヶ丘中央中出身。水崎ほのか。新聞に興味がある人、もしくはジャーナリストを追及したい生徒は放課後私の所まで来てください。以上」
後ろから何処かで聞いたことのあるような声が聞こえてきた。それになんか言ってる事も恐ろしいほど意味不明だし。それに今のは自己紹介といえるのだろうか。当惑している僕の事なんかシカトして時間は過ぎていき、HRが終わり放課後になった。入学式の日だから授業が無いのだ。
クラスメイトがそれぞれに帰途に着く。僕も斉藤と立花と一緒に教室から出ようとすると、ブレザーの後ろ襟を思いっきり引っ張られて危うく窒息しそうになる。
「な、な!?」
「逃がさないわよ」
逃がさないって、僕があなたに対して何かしましたっけ水崎ほのかさん?
「じゃあ、僕達は先に帰ろうか」
と斉藤。
「そうだな、じゃあなユキ死ぬなよ」
立花は不吉極まりない事を言い残し、教室を出て行ってしまう。一年二組の教室に残っているのは僕と水崎ほのかさんの二人だけだ。当然のようにあんな意味不明な言い回しじゃ人も集まるわけは無い。
「で? 何僕に何の用?」
「何の用? じゃないわよ。あんた新聞部の一員だって自覚あるの? サボりなんて言語道断!」
ちょっと待て。どうして当然のように僕は新聞部の一員にされているんだ? そんな部に入るなんて承諾した覚えは一度たりともありませんが、一体どういうことでしょうか。
「どういうことも無いわ。あんたは強制入部」
「なぜに?」
「合格発表の日に会ったでしょ。以外と役に立つかもしれないと思ったから」
以外とかよ所詮以外とかよ。と言うか僕に選択の権利は無いのかよ。高校に来たら帰宅部に入部して毎日練習にいそしみ、帰宅部の全国大会で優勝する事を誓ったのに。あんまりだ。
「じゃあ一つ聞かせろ、これは部活なのか?」
「そうよ」
「部室は?」
部室という単語が出て来たとたんに水崎はと不敵に微笑む。
「文化部の部室棟に空き部屋があるのよね」
嫌な予感。物凄くいやな予感がする。
「学校側から正式な許可が下りるまでその場所を不法占拠すればいいのよ」
よくないよ。不法占拠って何だよ。おまけに人数も集まらない表向きは新聞部だけど本当に新聞を作るのかも怪しいのに学校側から正式な許可が下りるのかね。四月四日。入学初日にして文化棟の部室の空き部屋を不法占拠する事になる。
その部室のドアには英語部という札が掛けられている。どうやら元は英語部の部室だったらしい。今はもう廃部になって空き部屋状態か。
英語部の部屋の中には当然のように何も無かった。長机すらない。そのため僕は水崎に言われるままに会議室から椅子と長机を拝借してくる。
僕が長机と椅子を教師に見つからないように運んでくると、部室に様々な物が出現していた。本棚にポットに食器棚に普通の机がありノートパソコンが置かれている。
「一通りこんなもんかしらね」
「何処から持ってきたんだ、この家具は」
水崎に言われるままに僕は持ってきた長机を部室の真ん中に運びパイプ椅子をセットする。部室らしくなってきたと言えば部室らしくなってきた。辺りを見渡していると、水崎が僕の事を睨んでいる事に気づいた。何かしたっけ、何でそんなに睨むんだよ。何か恐ろしいだろ。
「あんた、何処かで会ったことある?」
「合格発表の日に会った」
「違う。もっと前に何処かで」
記憶に無いな。少なくともあの合格発表の日以前に会ったことはないはずだ。
「そう。ならいいけど」
深刻そうな表情をしていたのはその時だけでまたさっきまでの表情に戻り、僕に無理難題を押し付けてくる。
どうも。相沢です。お読み下さりありがとうございます。今回はどちらかと言えば長編になると思いますので、どうか最後までお付き合い下されば幸いです。更新もなるべく早くしたいと思いますので、宜しくお願いします。




