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第18話:教授回:学問の夜明けと、定義された「世界平和」

五百年後。アルカディア帝国大学、歴史学部の大講義室。


教壇に立つ老教授は、恍惚とした表情で巨大なスクリーンを指し示していた。


「前回も触れたが、これこそがかつて『愚帝リオン』と呼ばれた男が、平和に対し、いかに凄絶な葛藤を抱いていたかを示す、ルネサンス絵画の一部だ」


教授は教鞭を右側のリーゼへと向け、声を一段と張り上げた。


「これは聖母リーゼ様によって開催され、今も続く平和の祭典『リオンピック』の原点とされる絵画だ。まず右側を見たまえ。天使のような笑みを浮かべる聖母リーゼ様だ。」


「彼女が抱える『花冠』には、国の『再生』、そして民を祝福し富をもたらす『祝祭と富』の暗喩が込められている! 彼女こそは祭典の魂であり、アルカディアに光をもたらした太陽だったのだよ!」



学生たちが感嘆の溜息を漏らす中、教授は一転して左側の不穏な一角を指した。



「対照的に左側を見たまえ。両手で顔を覆い、深く俯くリオン。そしてその肩に触れるシルヴィア。……これは『銀魔女』シルヴィアが、リオンに良からぬ『企み』を授けている瞬間なのだよ!」


教授は机を叩き、確信に満ちたドヤ顔で断言した。


「なぜリオンは顔を覆っているのか? それは右側のリーゼ様がもたらした『国民の幸せ』という祝福の光が、策謀に染まった彼にはあまりにまぶしすぎたからだ! 己の野心と、眼前の清らかな幸福との間で引き裂かれる、愚帝リオンの痛切な『葛藤』……! この仕草こそ、彼の孤独な人間性を表現しているのだ!」


講義室が静まり返る中、最前列のアリアがボソリと呟くように手を挙げた。


「あの……教授。この絵、リオン様は単に「リオンピック」なんて名前をつけられたショックと恥ずかしさで顔を覆ってるだけで、シルヴィア様は『大丈夫?』って純粋に心配してるだけにしか見えないんですけど……」


アリアは絵画の細部を凝視しながら、素直な感想を述べる。



教授は一瞬の沈黙の後、憐れむような溜息を漏らした。


「アリア君。君は相変わらず、歴史という名のロマンを矮小化したがるね。いいかね、世界の産業を統合し、平和の礎を築いた英雄たちが、そんな『ただのドジや丸投げ』を歴史的資料として残すはずがないだろう?」


「教授!それならばなぜ「リオンピック」などと言う名前がついたのでしょうか」


「いい質問だアリア君。ヒントは「愚帝リオンの葛藤」だよ」



彼は再び、スクリーンの中の神々しい「五つの輪」に酔いしれる。


「いいかね。愚帝リオンは、平和の礎を築こうと聖母リーゼ様たちと協力するが、葛藤の結果、何かのきっかけで(たもと)を分かったのだろう。聖母リーゼ様とリオンのこの距離感がそれを示している。」


教授は確信に満ちた声で締めくくった。




アリアは、目の前の絵画に描かれた男の表情を改めて見つめた。

 自分の目には、どう見ても「ただの恥ずかしい失敗」にしか見えない。それなのに、目の前の権威ある教授は、これを「気高い葛藤の記録」だと信じて疑わない。


(……私の感覚が、おかしいのかしら)


アリアは、自分の考えと、あまりに高潔な「歴史」との埋めようのない乖離に、言いようのない困惑を覚えた。

アリアの微かな呟きは、今日も老教授の熱弁が響く講義室の中へ、跡形もなく吸い込まれていった。

読んでいただき、ありがとうございます。


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