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第14話:銀の姫の報告書と、覇王が震えた「尺度」

冬の柔らかな陽光が差し込む、アルカディア王宮の自室。

 シルヴィア・ヴァレリアスは、故郷の父、ゼノビア皇帝へ宛てた手紙を認めていた。

 ペンを走らせる彼女の脳裏には、あの日、リオンの執務室で繰り広げられた光景が浮かんでいた。


(……本当に、あの人は。私が隣で指を赤くして真円を導き出している間も、暢気にココアを啜って「いいじゃん」なんて……。でも、あの人のことを考えると、なぜか筆が止まってしまうの。まったくもう)


シルヴィアは少しだけ頬を膨らませ、誇らしげに、そしてちょっぴり恨みがましく、また筆を動かした。



『お父様、お元気ですか?

 前回のジャガイモの件、我が国でもお役に立てているようで何よりです。


さて、今回はリオンがまた新しい「遊び」を始めましたわ。

 木の板を投げるだけの単純な遊具なのです。これを作るのに私は大変苦労しましたの。

 リオンが適当に皿をなぞっただけのガタガタな図面を見て、私は王家の誇りにかけて、その場ですぐに完璧な円へと引き直して見せました。

 ペンを握る指が赤くなるほど力を込め、寸分の狂いもない「真円」を導き出した私の横で、あの方は暢気にココアを啜りながら「いいじゃんそれ」なんて眺めているだけでしたのよ。信じられますか?


リオンはこの遊具を「1リオン」という独自の単位で規格化し、あろうことか地方の村々にまでその「型」を配って量産させたのです。

 お父様、これは恐ろしいことですわ。

 どこで作らせようと、同じものが出来上がってきます。現にアルカディアではギルド制度が崩壊しつつあります。ですが、引き換えに工業製品の質と生産速度が以前とは比べものになりません。

 お父様も、このフリスビーを一つ送ります。これが、リオンが描く新しい世界の「物差し」ですわ。


追伸。

 いつものようにルネが描いた絵画も同封しますわ。

 リオンに新しい冬服を買ってあげるよう、私からも国王陛下にお願いしておきました。予算が三倍になったと喜んでいる彼の顔、お父様にも見せてあげたかったですわ。

 相変わらず放っておけない人ですが、そのおかげで私は毎日とても元気に過ごせています』



数日後。大陸随一の威容を誇るゼノビア帝国の帝宮。


「申し上げます! シルヴィア皇女殿下より、お手紙と贈り物が届いております!」


報告が響いた瞬間、玉座の間を支配していた覇王の威圧感が、音を立てて霧散した。


「……シルヴィア!? シルヴィアたん! シルヴィアたんからの手紙だってぇえええ!? チュッチュ! パパ寂しかったぞぉぉ!」


皇帝は玉座から身を乗り出し、使者から手紙をひったくると、公衆の面前で封書に頬ずりを始めた。側近たちは、もはや悟りを開いたような無表情でその光景をやり過ごしている。



「どれどれ……。おお、ルネの絵画か! 相変わらず素晴らしい。リオンの横で笑うシルヴィアたん……。うむ、このシルヴィアは勇ましいではないか、実にいい! おい、いつもの保管庫へ入れておけ」



皇帝はデレデレと手紙を読み進めていた。シルヴィアが指を赤くして図面を引いた箇所では「リオンめ、我が娘に重労働をさせるとは……!」と憤慨していたが、後半の「規格化」の内容に差し掛かった瞬間。


――皇帝の顔から、だらしない笑みが完全に消えた。

 一瞬にして、謁見の間に真の「覇王」が帰還する。


「…………ギルドを介さぬ量産。全土で共通する『型(規格)』の配布……。そして『1リオン』という名の共通尺度……」


皇帝は立ち上がり、同梱されていた木の円盤を手に取った。その瞳には、もはや親バカの影はない。冷徹なまでの先見の明が、その円盤の「意味」を見抜いていた。


「……おい」


皇帝が短く呼ぶと、玉座の影から一人の男が音もなく姿を現した。


「……あり得ると思うか?こんなもので、職人の不可侵の領域を廃し、国家の製造能力を根底から作り変える……。本当に、そんなことが……」


問いかけられた影の男は、深く頭を下げ、苦渋に満ちた声で答えた。


「……事実でございます、陛下。これには……私も、そして我が配下の者たちも、いささか苦渋を舐めさせられましたので」


「……何だと?」


「ああ、いえ。リオン王子の定めた『1リオン』という規格。これが普及した後では、不備のある部品が即座に弾かれます。ギルドで作成していた部品についても同様です。この定められた『尺度』の前では、どこで誰が作っても同じ規格品になるのです」


皇帝の背筋を、かつてない戦慄が走り抜けた。


「ふむ。ギルドを解体してもなお利があると。。。なるほど、地方の工業化か」


皇帝は戦慄しつつも、どこか楽しげに口角を上げた。


「……我が帝国も直ちにこの『1リオン』を解析せよ。そしてリオン王子に伝えよ。我が娘を支えてくれている礼として、最高級のココアを送るとな。!」


読んでいただき、ありがとうございます。


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