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第1話:公爵の渇望と「管理」の進言

 アルカディア王城、国家予算管理官の執務室 。

 深夜の静寂の中、グレモリー公爵は手元の算盤そろばんを弾き、その乾いた音を部屋に響かせていた 。


「……ふむ。やはり、この国の『血筋』という仕組みは、あまりに不合理だ」


パチリ、と硬い音が鳴る 。


 かつての彼は、王国の誰からも信頼される「清廉潔白」な文官だった 。

 だが、「あの時」、その忠誠は「血筋」という名の不条理によって裏切られた。

 

 有能な者が使い潰され、無能な王族がその果実を貪る――。


(実力主義を謳うゼノビアでさえも、裏ではこれほどに腐っている 。

 ましてや、血筋に胡座をかいたアルカディアは言わずもがなだ )



(私がどれほど正義を積み上げ、国を支えようと、最後は『血の濃さ』で全てが決まる。……ならば、一度この国を更地にしてやろうではないか。合理性のみが支配する新世界を作り出してやる)


グレモリーは目の前にある妻と娘が描かれた絵画を見ながら、再度決心する。



「あの時」、グレモリーの中で何かが死んだ 。

 不条理な血筋も、不確かな人情も排除し、すべてを冷徹な「算盤」で管理する新世界 。


 グレモリーは、再び算盤を弾く 。


(この国の連中はさらに扱いやすい 。

 数字を少しいじり、端金を握らせれば、高貴な血を引くと誇る仮面を被る連中が、尻尾を振って私の思い通りに動き、金を運んでくる……。ははっ、面白いほどに反吐が出るな)


その復讐計画において、今最も排除すべきが、第一王子リオン・アルカディアだった 。


(血統の最高峰に座り、その地位でのんのんと幸せそうに暮らしている 。

 このまま、この国が継がれることこそ、セシリアの犠牲に対する最大の冒涜だ)


(しかし、書類を一目見ただけで鋭い指摘をしてくる能力。あれだけは厄介だ。力をつける前に潰さねば)


もしこのまま平穏のうちにリオンが王位を継承し、代替わりが済んでしまえば、不条理な支配構造はさらに盤石なものとなってしまう 。

 それを許すわけにはいかない 。


 数日前、夜の宝物庫の付近でリオンを捕らえたことは、グレモリーにとって天啓に近い好機だった 。

 王族が夜闇に紛れて蔵をうろつく。


 その事実だけでは廃嫡の口実には不十分だが、材料としては十分だ 。


 コン、コン、と扉が叩かれる 。


「失礼いたします、公爵閣下。陛下がお呼びです。執務室までお越しください」


「ああ。下がって良い」


グレモリーは算盤を懐に収めた 。

 表情を鉄の仮面のような「忠臣」へと切り替え、王の執務室へと足を向けた 。

読んでいただき、ありがとうございます。


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