第34話 新たな旅立ちと暗雲
翌朝……久々に自分のベッドで眠ったこともあり、遅い時間に起きてしまった。外を見ると、雨が降っていた。
今日は1日中雨っぽいな……
窓から外の様子を見てから居間へ向かう。居間では父と母がフォルティナを待っていた。
「おはよう、ティナ。まだ連絡は来てないのか? そのR.O.Dってやつから」
「まだ来てないみたい……」
「なら、今日はまだ家でゆっくりできるんだね!」
父と母は嬉しそうだった。これから旅に出れば、なかなか村には帰ってこられない。今のうちに家族で過ごそうと考えていたらしい。
「今日は雨だから、街がどんな感じだったか、もう一回教えてくれ!」
「いいよ! 街ではね〜……」
フォルティナは父と街と村の文明の違いについて話し合った。それを聞きながら、母はお茶の準備をし、フォルティナは1日をゆっくりと過ごしたのだった。
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一方、とある女は観光都市ランブルの街にいた。
女はフードを被っていて姿は見えないが、両手を前に伸ばし、全指につけた指輪から垂れる不可視の糸を操作しながら、街で一番高い屋根の上から街中を見渡していた。
「うふふ……ここは賑やかで良いわね〜。お友達もたくさんできそうだし……でも、今回はお父様の言いつけを守らなきゃね……」
女は、糸の先を街の人々に付けていた。
「さぁ……これからどうなるか楽しみだわ〜。まぁ……あの子に最後会えなかったのは残念だけど……これもお父様のためだものね……少しくらい我慢しなきゃ……うふ……うふふふふ」
雨の中、その女はさらに多くの人々に目に見えない糸を付けていき、甘く爽やかな香りを放ち続けていた。
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夜になり、フォルティナは自室で荷物を指差しながら確認していた。
「斧よし! R.O.Dよし! 食料よし! スコップよし! あっ、あとはこれ!」
大事なコンパスをポケットから出し、ちゃんと持っていることを確認する。
これで、いつ連絡があっても大丈夫! あとは連絡を待つだけね!
リリリリリン! リリリリリリリン!!!
そう考えていると、R.O.Dから突然音が鳴り、フォルティナは驚いて跳ね上がった。
「なになになに! 突然R.O.Dが……」
恐る恐るR.O.Dを拾い、画面を確認すると、メッセージが届いていた。
【Fランク冒険者フォルティナ・ロックス様へ。パートナー冒険者が決定しました。男性Dランク冒険者モルトと、共和国西の街ランブルで合流するように。】
これがメッセージ? 音はびっくりしたけど……こんな感じで届くんだね。次に行く街はランブルか……どんな場所なんだろ?
フォルティナは、期待と、まだ見ぬ「モルト」という冒険者がどんな人物かという興味で胸を膨らませる。連絡が来たことを両親に伝えるため、居間へ向かった。
「パパ! ママ! 連絡が来たよ! アタシが次に行く街がランブルってとこみたい……知ってる?」
すると父が答えた。
「ランブルってのはな、この村を出て西に行ったあたりだな。行商人の話でしか知らないが、中立都市と帝国との国境も近くて、ちょっとした観光地になってるらしいぞ。比較的、いい街だって聞いてる」
「へ〜……観光地か〜……楽しみだなぁ」
「はっはっは! 家族で旅行もしたことないしな〜。気になるのも仕方ないさ」
メッセージが来たからには、早めに出発したほうがいいんだろうな……パートナーの人を待たせるのも悪いし……
「パパ、ママ、アタシもうランブルに行くね。パートナーの人、待たせたら悪いし……」
急な出発を申し訳なさそうに両親に伝えると、父と母もそれに応えた。
「ティナ、お前はもう冒険者になったんだ。連絡が来たんだろ? なら早く行かなくちゃな。それが仕事ってもんだ。寂しいが、それは分かっているつもりだ」
母は少し大きめな弁当を手渡しながら言う。
「はい、これ。気を付けて行っておいで? 仲間に迷惑かけちゃいけないよ? それと、たまには帰ってくるんだよ?」
「分かってるよ、ママ!」
ティナはパンパンのリュックから鍛錬用に詰めていた石ころを少し取り出し、弁当が入る隙間を作って収納する。
「じゃあ、行ってきます!」
「「行ってらっしゃい……」」
外は雨だった。コートを羽織り、フォルティナは家を旅立つ。
家を出て、ジルとマルクスの家に寄り、出発することを伝える。
「こんな雨なのに行くんだね? また帰ってくるよね?」
「あったりまえでしょ! ここがアタシの故郷なんだから! またお土産買って帰ってくるからね!」
マルクスは少し寂しそうだった。試験のときはすぐに戻ると分かっていたが、今回はいつ帰ってくるか分からない旅になるからだろう。
「変なやつに引っかかんなよ? いいか? お金は大事に持っておくんだぞ! それに!」
「ちょっとジル! アタシそこまで何も知らない子どもじゃないわよ!」
「それも……そうだな。でもお前、バカだからさ」
ジルの目にも涙が浮かび始めていた。
「もう行けよ! どうせまた帰ってくるんだろ? 俺たちに涙の別れは似合わない! またな、ティナ!」
「もう! カッコつけちゃって……でもありがと。もう行くね」
「ティナちゃん、気を付けてね」
「うん……行ってきます」
そうして、フォルティナは村を旅立つ。今度は長い旅になりそうだ。今は寂しいが、時間が経つころには、きっとまだ見たことのない場所に心を震わせることになる。そんな予感がしていた。
「さぁ! いざランブルに! 今回はR.O.Dもあるから道にも迷わないし!」
フォルティナはパンパンのリュックと斧を背負い、雨の中を歩く。R.O.Dに指定された観光地、ランブルを目指して――
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モルトは一足先にランブルに到着し、R.O.Dにインストールしている【香水魔法】を振りまきながら、自慢のショートリーゼントを手櫛でセットしていた。
「ちょっと早く着いちまったな……とりあえず、指定された場所はこの喫茶店だから、ちょくちょく様子を見に来るとして……今は、そうだなぁ。新たな美人との出会いを楽しむとするか! なーはっはっは!」
そうしてモルトは、ランブルの街でナンパをしながらフォルティナを待つことにした――街中の人々の異変に気づかないまま……
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