閑話:私は人間になりたかった
何も無い暗闇の中を、一体の小さなスライムが漂っていた。
それはただ死を待つだけの存在。消滅寸前の次元に飛ばされたモンスター、『欲望の汚泥』がこれまでに得た全てを失った姿であり、根源のようなものであった。
「(あぁ・・・消えていく)」
何かを求め、我執した先にあったのは何も無い自分、そして最後は失った。そんなマザーに最後まで残ったもの、それは『疑問』であった。
結局自分は何を求めていたのか? 人間になりたかった。完璧な人間に、美しい人間に、最強の人間に。
自分が元は人間だったのだと、そう思い違いを起こしてしまうほど、マザーは自分が人間である事を求めていた。それだけは分かっている。
だが分からなかった、どうして自分はそうしてまで人間になりたかったのか。
「(分からない、分からないよ・・・ミリー)」
それはいったい誰の名前だったか、最早朧気にすら覚えていない。だがマザーはその名前に酷く懐かしい感情を覚えた。
しかし渇きを覚える程の欲求を失ったマザーにとって、全てがもうどうでもいい事。マザーは静かに目を閉じた。
◆
地球にて人知れず猛威を奮っていたモンスター、『欲望の汚泥』。
半覚醒した護を制し、流々に瀕死の重傷を負わせたその化け物の始まりは、異世界で生まれた小さな小さなスライムであった。
セージスライムと呼ばれるそれはスライムの特殊個体であり、異常発達した知性を得た引き換えに戦う力を全て失ったスライムである。
知略を駆使して外敵の目を欺き、逃げ、隠れ、泥水に浸かりながら雑草を食む。ただそれだけを繰り返すだけの存在。時折見つける死体の腐肉や木ノ実がご馳走であった。
そんなスライムの一体が偶然人里に行き着き、そこで一人の幼い赤毛の少女に出会う。
「あなたは、だあれ?」
「りり、りり、りりり・・・(大きい、生き物。牙や、爪が無い、生き物。これが人間・・・)」
少女の名は『ミリー』。何か特別な力を持っているわけでもない、小さな村に住むただただ平凡な少女であった。
ミリーはそのスライムを見つけると、手のひらに乗るほど小さかったせいもあるのだろう、特に怖がることなく家に連れて帰る。
「お家がないなら、ミリーのお家においで!」
セージスライムは特殊個体ではあるもののその存在は広く知れ渡っており、無害なモンスターであると知っていた大人達は特に警戒する事なく、ペットとしてそのままミリーに与えた。
ミリーはセージスライムをとても大事にした。寝る時も、出掛ける時も、ご飯だって一緒に食べた。
セージスライムも会話こそ出来なかったが、人間の言葉を理解しており、ミリーやその周りが味方である事を知っていた。
そこでセージスライムは生まれて初めて、『安心』という感情を知る。
「そうだ、名前をつけてあげる。なにが良いかしら・・・そうだ、『リリ』! あなたの名前はリリよ。これから、よろしくね!」
「りり、りりり・・・(『リリ』、それがオレの名前。何だろう、ぽかぽかする・・・)」
子供らしい、なんて安易な名前なのだろうと思いつつ、リリは心が温かくなるのを感じた。
セージスライムは新しく『喜び』を学び、初めて名前を得た。
リリは嬉しかった。危険の無い場所に辿り着いた事や、美味しい食事が貰えることもそうだが、何よりミリーの存在だ。
ミリーがリリに向ける眼差しや感情はキラキラと輝いていて、リリはそれがとても眩しく、嬉しく、誇らしかった。
「リリはミリーの一番の友達だよ。ずっと一緒にいようね!」
「りりっ!(オレもミリーとずっと一緒にいたい!)」
二人が親友になるのに時間は掛からなかった。そしてそんなリリが少しでもミリーを知りたいと、期待に応えたいと、人間を観察し始めるようになったのも当然の事だろう。
リリは片時もミリーから離れず、生活を共にした。
少しづつ体も大きくなり、ミリーたち家族の仕事を手伝うようになった。
ミリーを守る為にと持ち得ないはずの戦う力を身に着け、山ではミリーを野生の獣から守る為に身を挺して守り、重傷を負うこともあった。
その度ミリーは泣きながら看病し、惜しみない愛情を注いだ。
リリはミリーに申し訳ないと思いつつも、彼女のキラキラした感情が自分に向けられていることが嬉しくて、より一層張り切った。
そんな生活が長く続く。気付けば十年の時が経ち、ミリーは少女から大人に美しく成長していた。
『村一番の器量良し』、彼女を褒めるそんな言葉がリリには誇らしかった。皆が褒めるそんな彼女の一番は自分なんだぞと、喧伝して回りたかった。リリがこの時ほど話せないことを悔しく思ったことはないだろう。
しかし最近リリには気になる事があった。あれほどどこに行くのも一緒だったミリーが、一人行動をするようになったのだ。
「これから友達と会ってくるから、リリは少しお留守番しててね」
「りり、り・・・(ミリー、オレをおいて何処に行くの? オレだって友達だよ・・・)」
リリを置いて出掛けるミリーはキラキラしていた、でもリリにはそのキラキラが綺麗に見えなかった。
一方的とはいえ大切なミリーとの約束、リリは破るような事はしない。
「りり、りりり(最近ミリーは、オレにキラキラを向けてくれない。どうしたら良いんだろう)」
リリはここで、知らぬ内に『嫉妬』という感情を学んだ。かといって暴れるような事はしない、何故ならミリーが悲しむからだ。しかし現状に不満があるのも確か、そこでリリは森に出掛けることにした。
「り! りり、り!(そうだ、花を摘もう! 確か女の子にはプレゼントをすると喜ぶって、誰かが言っていた!)」
森にはミリーの好きな黄色の花がある。ミリーによく似合う、小さな可愛い花だ。
リリは一匹、森へと入る。
──それが全ての始まりだった。
「──っ、りりっ!(──っ、ミリーの声が聞こえる!)」
そんな筈がなかった、何故なら大人達に森への出入りは禁止されていたから。しかし声がする、何かあったのかもしれない、もしかすると前のように盗賊が来たのかもしれない。
リリの頭に悪い予感が過る。そして駆けつけた時、ミリーの姿は意外にも村のすぐ近くにあった。
村の直ぐ側、しかし生い茂る木々で村からは様子が見え辛い場所にミリーは居た。
「りりっ! り、りり・・・──っ!?(良かった、無事だった! ミリー、黙ってこんなところ来たら危な・・・──っ!?)」
ミリーは一人ではなかった、誰か男と共に木に寄りかかって話をしていた。
リリの知らない男、しかしその男と会話をするミリーは幸せそうで──手には可愛い、小さな黄色い花が握られていた。
それはリリがミリーに贈ろうと探していた花だった。
それは誰よりも先に、リリがミリーに贈りたいと思っていた花だった。
その笑顔を得る為に、贈りたいと思っていた花だった。
気付けばミリーは男と抱擁を交わしていた、ただそれだけ。抱擁なんて今迄沢山の人と交わしていた、今更誰とも知らない男と交わしていたところで──ミリーはとてもキラキラしていた。
ミリーのキラキラが全て男に向いていた。
自分だけのキラキラが、他の者に向いていた。
リリは何も告げずミリーの元を去った。
リリには、この時心に渦巻く感情が何なのか理解できなかった。このグルグルとした吐き気を催す感覚は、今迄誰にも教えて貰った事がないものだから。
ただ一つだけ分かっている事があった、それはミリーのキラキラが他の人に向いていることが堪らなく嫌だと感じている事だ。
「(こっちを、リリを見て、ミリー。もっとオレを見て、ミリー)」
こっちを見て、もっと見て、他を見ないでと、いくらそう思っても傍にミリーは居らず、想いは届かない。それは親を取られた雛のような感情だったのかもしれない、あるいは恋人を奪われたようなものだったのかも。
どちらとも付かないその感情だが、どちらであってもリリの行き着いた答えはきっと同じだったのだろう。リリは生まれ持った特別な思考力で、一つの想いに行き着いた。
──人間になりたい。
人間になりたい。
人間になって、もっとミリーの傍にいたい。
誰よりもミリーの近くにいたい。
誰よりもいっぱいキラキラを自分に向けて欲しい。
その日からリリの人間になる練習の日々は始まった。
幸か不幸か全身が万能細胞で出来ているスライムの体、そして十年に渡る大勢の人間との接触と観察がリリに人間へと化ける能力を与えていた。
初めは人型のスライムでしかなかったそれは徐々に人間の細部を現し始め、数日経つ頃には完全な人間の上半身を作り上げていた。しかしまだ上半身、これでは不完全。リリは練習を続けた。
そもそも二本足で立つことの無いリリにとって、人間の下半身を作り上げることは困難を極めた。だが人間になる為にこれは必要な事、リリは必死で努力した。一切飲まず、食わず、スライムゆえ休む事も眠る事もなく、ただ日に何千回とそれを繰り返した。そしてどれだけの日が経ったか分からなくなった頃、遂に下半身が完成する。
まだ立つだけだが、それでも完璧な人間の下半身。リリが変化を行なったそこには、感情が抜け落ちていて人形のようではあるが、紛れも無い人間が立っていた。
「りり。りりり? り・・・(すぐにミリーに見せに行こう。どれだけ時間が経ったか分からないけど、きっと心配してる。人間の姿を褒めてくれるかな? いや、先に怒られちゃうかな・・・)」
ミリーがどんな反応するかと、少しの不安と喜びを胸にリリは村に向かう。しかしそんなリリの姿を見ていたのは、ミリーではなく黒尽くめの男達であった。
男達は邪神崇拝の一派だった。邪神を呼び出して世界を崩壊へ導き、その後の世界で邪神の眷属として暮らすという傍迷惑な集団だ。
リリはそんな集団に捕まり、そのまま邪神の降りる素体として蠱毒の大釜へ放り込まれた。
嫉妬、怨み、怒りといった様々な悪感情を物質化するまで煮詰めた大釜に様々な魔物を放り込む。放り込まれた魔物達はそれに体を乗っ取られ、死ぬまで殺し合い、殺されたものは喰われどんどん一つになる。そして最後の一体となった時、邪神の体が完成するのだ。
男達も特にリリに何かを期待していたわけではない。ただ人に化けるというその力を邪神に捧げようと連れてきただけなのだが、男達の予想に反しリリはその何ヶ月という地獄を最後まで生き抜いた。生き抜いてしまった。
「おぉ、何ということだ・・・まさかこれが生き残るとは。だが神の体としてこの上ない素体が出来上がったぞっ、すぐに降臨の儀に入る!」
「「「はっ!」」」
歓喜に震える男達は即座に行動へ移った。
そして祭壇に掲げられているリリは、地獄を生き抜き尚意識を保っていた。
「り、り・・・(ミリ・・・オレ、からだ・・・どうなっ・・・)」
体はピクリとも動かず、意識は朦朧とする。それでも決して体を受け渡さなかった、ミリーに会いたいという心だけは失わなかったのだ。
しかしそれも間もなく限界を迎える。
「さぁ、我等が神よっ。いざ此処へ参られよっ!!」
「「「我が神よ、いざ此処へっ」」」
男達がリリを祭壇に天を仰ぎ、魔法陣を起動する。魔法陣はまるでそれ自体が生き物であるかのように脈動し、文字から吹き出した何かが血のように撒き散らされた。
その中心にいるリリもただでは済まなかった。
何か得体のしれないものが身体の中に入り掻き乱すような、まるで蟲が全身にたかり脳の中を這いずり回るような。自分が自分でなくなる感覚に身体を、心を、魂を犯された。
「りっ、り_h#'りっ!? り%vf>リり"Mミ,Ruミりリリッッッ!!」
皮肉な事に、この想像を絶する苦しみがリリに初めてミリーの名前を呼ばせた。
自分が自分で無くなる、リリはその事自体に抵抗はしなかった。ただ、自分の中からミリーの思い出が消えていく事だけは許容出来なかった。
彼女が教えてくれた『幸せ』、彼女が与えてくれた『愛情』、彼女とした『約束』、彼女から貰った『名前』。
リリの存在する全てがミリーによって作られたと言っても過言では無い。それを、こんなにも一方的に、乱暴に──。
リリの全身が、黒く染め上がる。
「ミリり_h#'りWV|lv5}ミリリリj_oミリィイイイッッッ!!」
リリの意識が途切れた。
突然電源が入ったかのように、リ■はハッと意識を取り戻す。■リは見覚えの無い場所にいた。
此処は何処だろうと考えると、頭の中で何かがチリチリと焼ける感覚がある。見渡せど周りは瓦礫の山、さっきまで自分は何をしていたのだろう?
浮かんでくる疑問に対し、何一つ答えが出ない。
「※;¿り・り・・・(に£げん・・・)」
仕方なく■■はピョンピョンと何処かへ移動し始める。その動きは何かに導かれるように迷いが無い。
それは、そこに祭壇のような物や、原型の留めていない人らしい物があった事に、気付くことはなかった。
ピョン、ピョンと■■は何かに向かって進む、その先に何かがある気がして。そして小さな村に辿り着いた。
喧騒や争いとは無縁な、長閑な村だ。村人達は農作業に従事しており、丁度収穫時期なのだろう、腕には豊かに実った金色の麦穂を抱えていた。その中から一人の女性が顔を見せる。恐らく20代の半ば、やや日に焼けた肌をした赤毛の女性だ。
■■は女性から何故か目が離せなかった、そして無防備に茂みから体を見せてしまう。
最初に気付いたのは近くで作業をしていた男だった。
何やら黒いものがあると目を凝らせば、それはモンスター。男からは悲鳴が上がった。
当然の事だろう、戦った経験の無い村人にとっては角兎ですら脅威である。それが子供ほどもある、それも真っ黒なスライムなど悪魔にしか見えなかった筈だ。
村人達は子供達を逃がし、農具を手に恐怖の眼差しを■■に向けた。しかし■■は一切反応しなかった、それよりも大切な事があるからだ。
見覚えのある赤毛、見覚えのある顔付き、覚えのある雰囲気、■■が視線を向ける先で女性も騒ぎに気が付いた。■■を見て、驚愕の表情を浮かべている。
村人の制止を振り切り、■■に近寄る女性。その瞳には徐々に涙が溜まっていった。
「・・・リリ?」
女性は更に大人へと成長したミリーだった。
■■が最後に見た時、僅かに残っていた少女らしさは消え、しかし子供の頃の雰囲気はそのままにミリーは大人の女性になっていた。
「り・り(・・・れ)」
「あんた、ずっと何処へ行ってたのよっ!? どれだけ探したと思ってるのっ、もう会えないかもしれないって思ってたのよっ!!」
「─り・リ(──お・・・れ)」
突然姿が見えなくなり、ずっと気に病んでいたのだろう。ミリーは■■を抱き締め、泣き始める。
■■はその様子に、頭の中がチリチリと焼ける感じがした。
「こんな色になっちゃって・・・。私よ、分かる? ミリーよ」
「──ミ、リ・リィ(──お・・・れだ)」
「リリ、私の名前が言えるようになったの? すごく嬉しいわ!」
■リの中に温かいものが広がっていく気がした、向けられるキラキラしたものがとても心地いい。
ミリーの様子を見て古参の村人達もリ■の事を思い出したようで、次々に向けていた農具を下ろしていく。
そんな村人たちの向こう側から一人の若い男が近寄ってきた。
「ミリー・・・いきなりモンスターに近寄っていくから、気が気じゃなかったぞ」
「ごめんなさい、ダニエル。でも嬉しくて・・・ダニエル、この子がリリよ。前に話したわよね?」
「あぁ、耳にタコが出来るほど聞いたさ。君がリリだね、君のことはミリーから沢山聞いているよ」
「リリ、聞いてっ。私あれからダニエルと結婚したのよ! 子供はまだ居ないけど、生まれたらあなたに妹か弟──」
「これから一緒に──」
リ■は向けられていたキラキラが男に向いた気がした。
「テ──リ・り(お──、れだ)」
「リリ、どうしたの?」
「どうした、調子でも悪いのか? ミリー、奥で休ませてあげよう」
ミリーが不安げな視線を■■に向けたその時──。
「──テケリ・リ(おまえは、だれだ)」
これが『欲望の汚泥』と呼ばれる災害級ネームドモンスターが生まれた瞬間である。その後も欲望の汚泥は二十を超える村や街、そして首都に住む全ての人間を飲み込み、成り代わっていった。
全ては『人間になりたい』という願いを叶える為。
リ■は何故なりたいのかという目的を忘れ、大切な記憶は上書きされ、その願いが“人間になりたい”から“人間に戻りたい”という形に歪んでも尚、人間になることを諦めなかった。
「り・・・(そっか、そうだったんだ・・・)」
全てを失い、欲望の汚泥は、■リは漸く全てを思い出した。
「り、り。ミり・・・(食べるつもりなんて無かった、ただ一緒に居たかった。ミリー・・・)」
押し寄せる後悔、しかしミリーはもう居ない。何故なら自分が食べてしまったから。
ミリーだけでは無い、優しくしてくれたミリーの両親や村の人達。ミリーをこれから幸せにしてくれたかもしれないダニエル。人々を救う為に立ち上がった勇者達。そして何の罪もない沢山の人々。全て全て自分が食べてしまった。
もう何をしても償いにならない。ならばせめてと、リ■は自ら遠くに見える何かへ歩み始める。
今居る次元を食い破っている何か、恐らくあれに触れれば文字通り消滅してしまうのだろう。
理性を取り戻したリ■の本能が最大の危険信号を告げている、だがそれが自分への罰だと、気が狂うような恐怖を押さえつけ一歩また一歩と近付く。
だが、その体を優しく抱き上げる者がいた。
『あんた、バカじゃないの? 一人で何処に行こうとしてるのよ』
「りりっ!?(──っ、ミリー!?)」
小さな黄色い花の似合う赤毛の女の子、■リの大好きで大切な女の子だ。
「ミ・・・りり?(ミリー・・・どうしてここに?)」
『知らないわよ、リリがここに居るからじゃない?』
どうしてミリーが此処にいるのか。
どうしてリ■の言葉を理解しているのか。
どうしてあんな事を犯した自分を抱き上げてくれているのか。
全く分からなかった、しかしそれらがどうでも良いと思える程、リ■は喜びに震えていた。
ミリーは手の平サイズになったリ■を優しく撫でる。■リは記憶の彼方にあったミリーの温もりを思い出していた。
「ミ、・・・りり(ミリー・・・ごめん、怒ってるよね?)」
『当たり前じゃない』
「りり・・・(ごめん・・・)『──でも』」
『リリの事、嫌いになんかなってないわ。なるわけないじゃない』
「〜〜っ! りりっ(〜〜っ、ありがとうっ)」
リ■は泣きそうだった、しかし涙は流せない。だから体をミリーに擦り付け、精一杯の喜びをミリーに示した。
■リはそれから暫くミリーに甘えると、ピョンとミリーの手から降りる。
「ミ、りり。りっ(ミリー、ありがとう。最後に会えて嬉しかった。ばいばい)」
■リは再び崩壊の顎へと向く。
勇気はミリーに貰った。リ■がまた歩き出したその時、駆け寄る足音がする。そして──。
──ペシーーンッ!
「りりっ!? りりり!(いたいっ!? 何するのっ、ミリー!)」
『リリ、何回同じ事言わせるの? 一人でどこ行こうっていうの、貴方が行くのはアッチじゃなくてこっちでしょ?』
そう言ってミリーが指差したのは、先程までリ■が向かっていた先ではなく、自身の背後であった。
指差す先を■リが視線を向けると、そこに居たのは──。
「りり・・・(みんな・・・)」
共に暮らしたミリーの両親、親切にしてくれた村の人々、そしてミリーの夫であるダニエルだった。他にも沢山の人の姿がある。
『リリが最初にやる事はアッチに行くことじゃないの、皆の所へ行って謝ることよ』
「り・・・りり、りりり(そんな・・・許して貰えないよ、オレは凄く悪い事をしたんだ)」
『何当たり前の事言ってるのよ。許してくれるかは関係無いの、許して貰えるまで謝るのよ、一緒にね!』
「ミ・・・りりり(ミリー・・・君は何も悪くないのに)」
『私達は親友、そうでしょ?』
り■は嬉しさと情けなさで言葉がなかった。
『そして全員に許してもらえた後、どうしてもアッチに行きたいって言うなら、行くと良いわ。私もついて行ってあげる』
「りりりっ、りり!?(そんなの駄目だよっ、行くのはオレだけじゃないと!?)」
『リリ、まさか私との約束をまた破るつもりなの?』
「り?(約束?)」
ミリーは首を傾げる■リを持ち上げ、宝物を扱う様に優しく抱き締めた。
『“私達はずっと一緒”、忘れたの? そりゃ一回離れ離れになったけど、あれは私も悪かったの。リリがそんなに寂しがってるなんて、知らなかった。ゴメンね・・・』
ミリーはそのまま皆がいる方へと進み始めた。
「り、ミりり・・・(ありがとう、ミリー・・・)」
り■はミリーの温もりに包まれながら、初めて出会った頃のことを思い出していた。
そして心地よい心音にゆっくりと目を閉じる。
『・・・リリ、眠ってるの?』
■リから反応は返ってこなかった。
『仕方ないわね。着いたら起こしてあげるから、少し休むのよ』
リ■の体が徐々に灰になる。
ミリーはそんなリ■を慈しむように見た。
『リリ──お帰りなさい』
──ただいま。
こうして迷子だったリリは、漸く家族の元に帰ることが出来たのであった。
◆
散っていく灰を握りしめ、二人を見詰める女性がいた。
女性は二人の行く末を最後まで見届けると何処かを見詰め姿を消す。
その後あらゆるものが飲み込まれ、世界は崩壊を迎える。
最期の瞬間、ミリーのこんな言葉だけが静かに残った。
『リリ、次は同じ事しちゃダメよ?』
再びお休みに入ります、ご了承ください。
代わりに明日から『異世界ウサキック物語』を投稿します。お楽しみ頂けたら幸いです。
ただ続けるかどうか悩んでいる作品なので、いっぱい評価を頂けたら続けたいと思います。ぜひ★★★★★をお願いします!




