65本目 炎上の戦い
探索者チームは、非常に善戦していた。これは相手が異世界の勇者パーティである事を考えれば尚の事。
偶然相性が良かったのだろう、とはいえ奇跡に近かった。
それを見た尼崎は戦いの素人である為、「あ、これ自分は下手に触らない方が良いな」と控えていたのだが、とんでもないお鉢が回ってきてしまった。
「(どうしましょう、どうしましょう!? これ下手に口を出したら状況悪化しますよねっ! こんな、丁度拮抗している状態でどうすればっ!?)」
尼崎はそう考えるが、決して拮抗していない。何とか抑え込めているに過ぎないのだ。
尚、勇者パーティを相手にして一番優勢に立っているのは意外にも高砂で、高砂は聖女にパワーボムを食らわせた後馬乗りになって聖女をタコ殴りにしていた。
とても聖女相手に嗾けていい技ではないが、まぁ妨害は出来ているので良しとする。
何にせよ、そんな戦いの素人である尼崎に現状を好転させろと言うのは無理な要求のように思える。
しかし護も考え無しに尼崎に託した訳では無い、それ相応の理由があった。
「《解析鑑定》!!」
尼崎は元々探索者協会の分析班をまとめる立場にあった。
それは豊富なダンジョンやモンスターの知識、現場経験、コミュニケーション能力の高さを買われての事であるが、何よりもそのスキルにあった。
尼崎のスキル《解析鑑定》は非常に稀なスキルで、対象の詳細情報を詳らかにする《鑑定》と、その場の状況をあらゆる角度で情報化する《解析》を併せ持つ『デュアルスキル』と呼ばれるものである。
このスキルは尼崎の豊富な知識を駆使する事で、最大の効果を発揮する。
「(相手の魔力の線は全部あの黒い人型に繋がってる、つまり虚柄さんが言っていた様にあちらが本体で勇者達は分身もしくは駒。倒すこと自体に意味は無い、アンデッドである事を考慮すると何度でも再生すると考えるべきです)」
尼崎は守るから得た情報にスキルで得た情報を混ぜて脳内でピース化、パチパチと攻略法を組み立てていく。
「戦闘力の分析っ!」
九冬 流々:33200+1100【状態:空腹】
虚柄 護:25800+5050【状態:極度の疲労】
工藤 炎樹:2700+3500
工藤 胡愛:3800+500
高砂 美月:1900+2220
尼崎 さなえ:520+2500
勇者:13800+9700【状態:傀儡】
剣聖:10300+24200【状態:傀儡】
賢者:5500+8970【状態:傀儡】
聖女:3800+5200【状態:傀儡】
欲望の汚泥:300+0
「あの人型が・・・300?」
尼崎はマザーの戦闘力が異常に低い事に気が付いた。
そういえば護の話でも一度も戦いに参加していない。そこで尼崎は、マザーが召喚師と同じではないかと考えた。
「もしそうなら、誰でも良いから手が空けられれば勝ち筋が見えるっ! 次っ、属性相性分析!」
勇者:闇・不死(弱:火<光)
剣聖:無・不死(弱:火・光)
賢者:不死(耐性:火水風土、弱:火・光)
聖女:闇・不死(耐性:光、弱:火<光)
欲望の汚泥:混沌・不死(弱:火<光)
やはりと言うべきか、当然弱点は統一されていた。
そうなるとマザーに向かわせるべきは胡愛か炎樹、しかし現在二人でやっと賢者を抑えられている状態である。ならば──。
「胡愛さんっ、全力で辺りを燃やして下さい!」
「そんなことして皆は大丈夫なの!?」
「大丈夫ですっ、やっちゃって下さい!!」
「分かった、皆上手に避けなさいよ!」
「皆さんは胡愛さんの援護をっ!」
胡愛は賢者の相手を一旦炎樹に任せ、地面に手を着いた。
胡愛の体が燃え上がり、炎は手へ集束する。
「焼き尽くせっ、《大噴火》!!」
胡愛を中心にして、床から蜘蛛の巣状に炎が噴き出す。
その勢いは凄まじく人の背丈ほどの炎璧となり、余ったエネルギーがあちらこちらで火柱を上げた。
景色はまるで火山の中、胡愛が作り出せる最大火力である。
胡愛の魔力が敵を追跡し、立ち止まれば瞬時に噴火に巻き込まれる災害のような力。だがこの技には致命的な弱点があった、技の発動中胡愛は床から手が離せなくなるのだ。
完全な無防備状態となった胡愛、しかし彼女が狙われる事はなかった。
「敵が火を避けて動いたっ」
「心なし力も弱った気がすんでっ! おらぁっ!」
勇者達が強すぎる火を嫌がって避けた。
お互いが協力し合える距離すら離れるなど、それは戦いに慣れた本来の勇者達ならば絶対に取らない行動だ。
しかし今の彼等は戦うことだけをインストールされたロボットに近く、そこにはメリットデメリットの考えしか無い。
培われた経験だけが抜け落ちており、勇者達はそこを尼崎に突かれた。
そしてこの攻撃は想像以上の効果を齎した。
「あああああああああっっっ!! 熱いっ、熱いいいいいいい!?!?!?」
「思った通りです。このダンジョン全体が、たぶんあのモンスターで出来ています。他の攻撃ならいざ知らず、火ならばとは思いましたが・・・効果は思った以上でしたね!」
「オ前えええええっ!」
「ひぃいいいっ!? ごめんなさいごめんなさいっ!」
尼崎が微妙に締まらないが、その作戦は完璧であった。
胡愛の炎により階層を火の海に変えることで敵の力を削ぎ、行動を縛る。
更に周りが炎で満たされることで、炎樹は近くに胡愛が居なくても全力で攻撃が出来るようになった。
解析鑑定で見る限りマザーの魔法耐性は飛び抜けて高い。正直尼崎には胡愛の炎が何処まで通じるか分からず、ほぼ賭けであったが、炎はその耐性を安々と貫通。実に僥倖であった。
これを期に、最も余裕のあった護は早々に勇者を始末する。しかし勇者は火の海の影響で中々復活出来ない。
村正も足場が減り機動力が低下、そうなると流々に敵う筈もなくあっという間に窮地に陥る。
全てが完璧、しかし全ては高砂が聖女を抑えていたからこそ成功したと言える。
聖女を野放しにすれば、ステータスアップだけでなく最悪弱点を無効化されていたかもしれない。
高砂、実にファインプレーである。
ちなみにその高砂はというと、聖女に馬乗りになり反磁力で跳ね上がってくる頭を上から殴り続けるという、悪役レスラーも真っ青の所業を敢行していた。
「おらおらおらおらおらおらおらぁっ!」
高砂・・・。
高砂の事はさておき、このまま倒せるのではと護は考えた。
しかし尼崎の《解析鑑定》には焼けたのがマザーの表層だけである事が示されている。
確かにダメージは通っているのだろう、だがそれは全体の僅か一部であることが伺えた。
現にマザーは燃えた身体の端々を炎ごと飲み込み、徐々に消化している。
胡愛の炎は弱点こそ突けるがマザーを仕留めるには足りないらしい。
先にも言った通り、胡愛と炎樹は二人合わされば関西トップクラスの炎の使い手である。
その二人がいて、最大火力をぶつけても僅かに均衡を傾ける程度にしかならなかった。
その事実に尼崎が焦りを滲ませる。
胡愛のこの技が長時間維持できるとは思えない。
護はまだ勇者相手に余裕を残しているが、高砂と胡愛、炎樹はそうでは無い。どちらかが勇者に駆けつければ護とて抑えるのは容易ではないだろう。
また、剣聖もその戦闘数値から見て流々以外には抑えられないだろう。
そしてその流々の限界が近い。流々の戦闘数値が徐々に下っていた。
手の空いている自分が向かうべきか?
確かに戦闘数値で言えば尼崎でも倒せるかもしれない、まぁ尼崎には攻撃スキルが無いが。
戦闘数値は参考であり、尼崎が向かった所で足手まといになるか、最悪人質にされる可能性も否定できない。
最早勇者達を倒し、復活するまでの間に総攻撃をするしか無い。
尼崎が護身用にと持っていた魔法杖を握り締めた、その時──。
『──よく持たせた』
低く重い、しかしどこか安心する声が響いた。
みんな忘れていたクトーさん。
たぶん流々しか覚えてない。




