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SAN値偽装の邪神ちゃん ~TS少年は人間界に戻りたい~  作者: 草食丸
2章:邪神ちゃんの春は爆炎に吹かれる
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64本目 勇者PT VS 探索者

 マザーは非常に苛立っていた。



「(モう少しだった。モう少しだったノに、水ヲ差された)」



 マザーは昔から欲しい物が沢山あった。


 あの顔が欲しい、あの綺麗な顔が。

 だってあれは私の物だった筈なんだから。


 あの声が欲しい、あの麗しい声が。

 だってあれは私の物だった筈なんだから。


 あの両親が欲しい、あの優しい両親が。

 だってあれは私の物だった筈なんだから。


 あの地位が欲しい、あの自由な地位が。

 だってあれは私の物だった筈なんだから。


 欲しい、欲しい。

 だって全ては私が持っていた筈のもので。


 欲しい、欲しい、欲しい。

 だって全ては私が持っているのは当然で。


 欲しい、欲しい、欲しい、欲しい。

 だって全ては、私が羨む全ては私の物で。


 欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい。

 だって全てが、私の物でなければ可怪しい。


 マザーは欲しい物を必ず手に入れてきた。

 何故ならそれは自分が人間になる為に必要な物だから。

 いや、自分は人間だった。完璧な人間だった。

 だから自分の欲しい物は全て元々自分の物だった筈だ。

 そうでなければ可怪しい。




 欲しい欲しい欲しい。



 欲しい欲しい欲しい欲しい。



 欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい。


 欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい。


 私は、全てが欲しい。


 私はその美しい容姿が欲しい、優れた強さが欲しい、優しい姉が欲しい、可愛い妹が欲しい、二人の愛が欲しい、なのに何で? 何故邪魔をする?


 それは私の物だろう?



「邪魔ヲ、するなあああああああああっっっ!!!!!!」




 ◆




 ビリビリと赤壁の向こう側からマザーの殺気が伝わってくる。

 それだけで、既に尼崎は気絶しそうであった。



「オ前達知ってるぞ、上に居た奴だなっ! 邪魔にならないと放置してれば、調子にノりやがってええええええっっっ!!」

「ひぃいいいっ!?」

「せんせぇ、よぉ此処まで来る気ぃなったな。ほんま尊敬するわ」

「せせせ生徒を置いて、に逃げられ、ませんっ!」

「凄いわねぇ」



 そんな尼崎の様子を横目に、護は流々に話しかける。



「流々、お腹いっぱいになった?」

「ん〜、ちょこっとだけ!」



 流々が摘むように、指先で「ちょこっと」の形を作る。指のすき間は1mmほど、本当にちょっとだけらしい。



「アンタ、あれだけ食べて・・・」

「帰ったらすぐにご飯よ」

「分かった!」



 全員の準備が整った。

 第三ラウンド開始である。



「準備は良い? 赤壁を解くわ──っ、そんな必要も無かったわね・・・」



 胡愛の悔しげな声と共に炎の壁を突き破ってきたのは、水で出来た龍の顎だった。


 散り散りになって消えてゆく炎の向こうには、魔女然とした格好の美女が此方に杖を向けている。

 付近には剣を構えた勇者、禍々しい光を放つ聖女、そして剣聖村正の見飽きた顔もあった。


 全員が虚ろな目をしており、先程までの村正と同じ状態であることが伺える。



「もう爺さんばっかり出さないのかしら?」

「魔女さんが出てきたのは、胡愛ちゃんと私が居るからかしらぁ?」

「なら、私達の相手はあの女ね」

「ならウチはあっちの聖女ちゃんか? 正直、勇者とガチンコとか一秒も保たへんわ」

「アタシが勇者に行くわ」

「ぼ、僕はおじいちゃん!」

「せせせ先生は、応援しています!」



 尼崎が情けない限りである。


 開幕の合図は賢者からであった。

 賢者の使う魔法が流々達の足場を針の山に変える。

 流々はとっさに全員を持ち上げ安全圏内に投げ飛ばし、自身は残りのタコ足で守った。


 宙で体勢を整えた胡愛と炎樹が、極細の熱線を賢者に向けて四方八方から撃ち出す。

 しかし賢者は水壁を呼び出し防ぎ、更にその水壁から水弾を生み出す。

 水弾が胡愛に迫る、だが水弾は当たる既で弾けてしまう。


 賢者は虚ろな目を左へ向ける。

 そこには胡愛に向け手をかざす高砂の姿があった。


 高砂の背後に勇者が迫る。それは禍々しい光を従えた剣を彼女へ振り下ろそうとしていた。

 高砂は気付いていない。

 凶刃が彼女に触れる、その既で護が勇者を聖剣ごと殴り飛ばした。


 人間から発生したとは思えない凄まじい衝突音が響く──が、その拳は勇者に触れること無く、薄皮一枚の所で止まっていた。

 勇者の背後には、杖を構えた聖女が場を俯瞰(ふかん)する様に浮いている。


 聖女が続いて魔法を唱える。

 どうやらそれは支援魔法だったようで、勇者の力が数段上がったのを護は拳から感じ取った。

 厄介だ。皆がそう思った時、聖女の身体が急に引き寄せられる。


 あまりの力に、聖女は成すがまま引っ張られるしかなかった。

 その先で待ち構えていたのは高砂。

 高砂は飛び込んで来る聖女に、全力のエルボーを入れた。

 支援効果が解除される。


 とどめを刺そうとする高砂の、立っていたすぐ脇の足場に突然罅が入る。

 彼女は驚き視線を向けるが、そこには何も無い。

 その間にも天井が、床が、壁が、柱が、あちこち次々と砕けていく。

 特に胡愛や炎樹、高砂の傍で何かが砕けるのがよく見える。


 三人には何が起こっているのか全く分かっていない。

 しかしただ一人、護だけがそれを目で追っていた。


 目にも留まらぬ速さで二つの影が戦場を駆け抜ける。

 影のひとつが神速の一刀を持って少女達を狙うも、タコ足がそれを阻止する。

 袈裟斬り、避ける、殴る、受け流される、逆さ薙、防御、武器破壊、燕返し、破壊断念。


 数秒の間に繰り出される技と攻撃の応酬に駆け引き。

 これらは決して突然二人の動きが速くなった訳では無い。

 この応酬は先程まで何度も繰り返されていたものだ、ただそれを常人の視点で見るとこうなる。

 ただそれだけだった。


 手数はやや流々が劣る。

 しかし気を抜けば一撃で戦闘不能に追いやられる流々の腕力を前に、村正は半端な攻撃が繰り出せない。

 二人の状況は五分。いや、やや流々が押していた。


 だがこの状況は長く続かない、流々には制限時間があるからだ。

 流々がお腹を空かせる前に状況を好転させる必要がある、もし流々が動けなくなれば誰も村正を止められない。



「先生っ、何か考えて!」

「えぇっ!?」

「今のままじゃ流々が動けなくなるわっ、早くっ!」

「わ、分かりましたっ」



 若きダイバー達の未来、そして日本の未来が、尼崎の双肩に託された。

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