61本目 シャル・ウィ・ダンス
しれ〜っと始まります、ただスローペースです。
二つの影が手を繋ぎ戦場で踊る。
迫る刃を、流々は上体を反らし擦れ擦れで避ける。
入れ替わりに差し込まれた護の手が村正の胸を貫く。
続いて放たれた護の横薙ぎの蹴りを、次の村正が身を引いて避ける。
しかし蹴り足に掴まっていた流々が、振り子の動きで村正に迫る。
四方から護を囲めば、抱えられた流々のタコ足で全て防がれ弾かれる。
かといって宙へ逃げれば投げられた護に打ち落とされ、流々に潰される。
群がる無数の剣閃の中をまるでそれすらも演目の一つであるかのように避け、打ち返し、二人は踊り続けた。
その姿は双翼、自由と力強さの象徴。
一人では飛べない、二人だからこそ大空へ飛び立てる。
そして妹を見ればこれが蝋の翼でないことなど疑うまでも無い。
護は流々と二人ならば何処までも飛んで行けた。
その姿は双牙、勇気と護りの象徴。
一人では討ち破れぬ敵も、二人ならば不安なく立ち向かうことが出来る。
そして姉を見れば、この牙が決して折れない全てを穿つ牙であると確信できる。
流々は護と二人ならばどの様な恐怖にも打ち勝てた。
常人では一瞬で絶命する剣撃の中を、二人は楽しそうに舞い続ける。
拳一つの所へ迫る刃は、肌擦れ擦れに差し込まれた手により防がれた。
致死の拳を避けようとするも、触手によって初動を封じられる。
宙へ逃げれば叩き落され、知っていたかのように下で触手に捕まる。
下を見れば上から。
右を見れば左から。
捉えたと思えば影から。
互いの行動をお互いが予知しているとしか思えないその動きに、感情を持っていないはずの村正達は恐怖した。
当然、流々達にそのような力は無い。
二人を繋ぐのは互いの手のみ、視線すら交わさぬその動きは己の全てを託した互いの手によって完成されていた。
二人はまさしく、二人で一匹の獣であった。
脅威で言えば、護の変貌した姿のほうが強かった。
あれは理不尽の権化であり、それこそ欲望の汚泥のような生物でなければどうにもならない化け物であった。
あれの動きを捉えるなど人間には不可能であり、達人による物量戦しか選択肢がない。
それに比べれば今の二人は動きが予想しやすく、人体を無視した攻撃などもしてこない。
対人戦を得意とする村正の独壇場、そうなる筈だった。
──だが捉え切れない。
捉えられないムナガラーと、捉え切れない流々と護。
どちらが有利かと聞かれると判断が難しいが、今この場において有利に立っているのは間違いなく流々と護であった。
「もう効かないもん!」
「流々に危ないもん向けんじゃ無いわよっ、クソがっっっ!!」
成す術がない。マザーにとってジリ貧としか言えないこの状況だが、ひとつだけマザーに有利に働いている点があった。
それはマザーの安全が確保されているという点である。
護が変貌していた時、ムナガラーは捕食という形でマザーにダメージを与えることが出来ていた。
それ故どうにかして護を排除する必要があったが、今二人はただ村正を倒しているだけである。
つまり倒されるのみでリソースが減る訳では無い為、マザーはノーダメージであった。
奥の手を出している状況ではあるが、仮にこのまま全ての村正達が倒されてしまってもマザー本体に手出しできないのなら何も問題ない。
階層の出入り口を閉じて流々達が衰弱するのを待ち、マザーが回復し次第再び村正達を作り出す。
一度でダメなら二度、二度でダメなら三度、四度五度繰り返せば如何な流々達とて倒すことができるだろう。
それがマザーには可能であった。
「(勝てるっ、私が負けるはずが無い!)」
事実、マザーの読みは当たっていた。
二人にはマザーを直に攻撃する手段が無いのだ。
当然、その事に気が付かない護ではない。
しかし手段がなく、また本能的に今マザーの行なっている行動が切り札なのだろうことを察し、ひとまず村正を全滅させようと『力こそパワー』な思考回路で戦っているに過ぎない。
流々? 流々は大好きな姉と踊っているのに満足していた。それはもうニッコニコである。
「どうしたものかしら・・・」
「んぅ? お姉ちゃん、どうしたの?」
「何でもないわ、それより早く全員倒しちゃうわよ」
「うんっ!」
◆
それから何度目か分からない村正達との戦いが続き、その様子を見たマザーはより一層自身の考えが間違っていないことを確信する。
あれから村正達は何度も全滅させられている。
仮にも異世界で頂点に上り詰めた真の剣豪が100人だ、それがものの十数分で全滅してしまう。
マザーは認めるしかなかった、自分ではこの二人にどうあっても敵わない。
だが『勝てない』と『敗北』はイコールではない。
その証拠に、村正達が一度全滅してから次に投入するまでの数時間、やはり流々達はマザーに何らダメージを与えられなかった。
その事にマザーは醜笑を浮かべた。
そして状況は更にマザーへ傾く。
「うぅぅ・・・」
「流々っ!?」
突然流々が膝を着いて蹲った。
元気そうに見えてやはり何処か問題があったのかと護は焦るが、流々から返ってきたのは何とも気の抜ける答えだった。
「ぉ・・・」
「お?」
「お腹、すいた・・・」
マザーに捕まって既に十数時間。
その間全力の戦闘が続き、怪我をし、回復し続けた流々のエネルギーは切れかけていた。
流々のエネルギー切れはそのまま戦闘不能を意味し、敗北に繋がる。
流々の食糧庫も既に空であり、これ以上の戦闘は悪手である。
そして、それを見逃すマザーではない。
「(やっぱり私は間違ってなかった、コのままオせば勝てる! ソうすれば、コノ二人が手に入る!)」
再び始まる村正達の猛攻。
飛び交う斬撃と拳撃の嵐。
戦いの終幕は近い、マザーはそれを今か今かと待ち侘びていた。
「(二人に勝てる、やっト手に入る)」
だがマザーは気が付いていない、それが人間で言うところの『執着』であることを。
流々達を欲するあまり盲目になっていることを。
そして──何かを見落としていることを。




