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後日談 ~大公邸キッチン魔改造~


 グラフィアスに来ています。

 通い慣れた大公邸敷地内の訓練施設ではなく、大公邸内のキッチンに。

 以前、ちょっとエルをレティの護衛として借りていた時のお礼、というか交換条件と言うか。

 まあ、とにかく俺がこれまでに作ったキッチン用の魔道具をですね、一通りお届けに上がったわけですよ。正直、この大公邸もエルの影響でかなり魔改造されてるんだけどね。

「あら、これいいわぁ! ね、エル。これでパイを作りたいわ!」

「妃殿下」

「あ、これはなにかしら? ここが動くの? 何に使うのかしら?」

「妃殿下っ」

「あら、これ! エル、これピザが焼ける道具よね? 久しぶりに食べたいわ!」

「わかりました。わかりましたから、まだ触れないでください。……妃殿下、先に説明した通り、一通りの設置と設定が終わるまではお使い頂くわけにはいきませんので。まだ、ここに合わせた状態にしなければならないのですから」

「ええ、すぐに使えそうなのに」

「安全にご使用いただくためには必要な作業です。……ですから、まだ駄目ですって! ミサキが珍しいお菓子を作ってきてくれましたから、休憩なさってください。お茶を淹れるように言っておきましたので」

「もう、わかったわよ。使えるようになったら、すぐに教えてね」

「畏まりました」

 エルと大公妃さまの攻防、決着がついたようです。すげーよな、十分以上、あんな感じの言い合いが続いてたからね?  まあ、俺とミサキがいろいろ持ち込んだ時から、大公妃さま興味津々だったんだけどさ。まさか、そのまま居座ろうとするとは思わないじゃん。


 大公妃さまは、近くで見学したい。

 エルにしてみたら、ごちゃごちゃするのが分かってる場所に大公妃さまを同席させたくない。


 わかるよー、俺だってこの場に護衛対象がいたら、さっさと退出するように促すよ。エルが側にいる以上、何が起こっても大丈夫な気はするが、そこはほら、ね。しかも大公妃さま、臨月だし。あの大きなおなかを抱えてこのごちゃごちゃした中をうろちょろされたら、そりゃいくら心配しても足りないだろうよ。


 まあ、俺が口を挟める事じゃないので、こっちは勝手に作業を進めます。

 今回俺が持って来たのは、以前にも持って来たことがあるピザ窯の改良版とミキサー二種類に細々とした便利道具色々。

 ミキサーは何で二種類かというと、サイズの違い。

 用途によって刃を変えられる小型ミキサーは奥さん用に作ったやつで、こっちは刃の部分を変えればお菓子作りにも大活躍! 

 大型のは、パン生地をこねる為だけに作った奴です。これはウチの料理人たちの負担を減らす為にお試しで作ったヤツの改良版。ほら、ウチはお抱えの騎士連中がよく食べるからさ、パンの消費量も半端ないわけですよ。なので、生地をこねる作業くらいは省略させてやりたいなと思いまして。ウチの料理人たちからは大好評を頂きました。我が家では、今日持って来た奴よりも遥かにデカいサイズが毎日パン生地こねてます。自分で言うのもなんだけどなかなかの良い出来。義兄経由で王宮にバレて、いくつか作らされたけどな! 王宮の職員用や騎士用の食堂でも使ってんだよ。ウチのよりさらにでかいサイズのが。

「ルシアン、これもちょい小さいのねーの? これほしい」

 ミサキがパン生地用のミキサーに目をつけたようです。

「これの半分くらいのサイズなら頼まれていくつか作ってる。今のところは量産する予定はないが、欲しいなら作るぞ」

「頼んだ」

 注文が入りました。

「あ、私も欲しい」

 なんとか大公妃さまを退出させたエルからも注文が入りました。お菓子を作る時に色々と便利そうとの事です。

 そして、大公邸の料理人の皆さんも、俺たちが持ち込んだ道具に興味津々な様子。使い方は後でエルから聞いてください。

「さーて、それじゃあデカいのから手を付けますかねぇ」

 大公邸キッチンの魔改造開始です。


 改造とは言っても、持ってきた魔道具の設置と設定が主。まあ、その前にキッチン全体をちょっと特殊な方法で強化やらなんやらするわけですが、付与魔法が使えるのが三人もいれば、この辺りはサクッと終わる。ついでに現状で使っているオーブンなんかのメンテナンスとちょっとした改良、そんなことをしつつ、作業を進めていく。


 エルの陣頭指揮により魔改造はサクッと終了。いやぁ、本当に、色々とわかってる付与魔法使いが三人いると作業が早い。足りないモノはその場で作るなりして対処できるしな。

「うん、良い感じ。これなら妃殿下も安全に使えるかな」

 エルも上機嫌。なんかね、ここのキッチンは大公妃様もちょいちょい使うからって事で、防火対策とか防塵対策とか耐火性能とか消火設備とか、とんでもない事になっているんですよ。正直、どこの軍事基地だと言いたくなるくらい。


 そして、作業の終わりを察していたかのようなタイミングで、またいらっしゃいましたよ。大公妃さまが。


「あら、終わったのね!」


 お付きらしい侍女たちが止めるのも聞かずに、満面の笑顔で入ってきましたよ!

 本当にじっとしていないな、この方!


「妃殿下……」

 珍しい。エルが頭を抱えてる。

 しかしまあ、これはエルが目が離せないと言うのも納得だわ。ちょっといくら何でも行動的すぎませんかね大公妃殿下。しかも、そんな大きなおなかで歩き回るって、なんなの。

「お呼びしますと申し上げたはずですが?」

「いいじゃないの! 終わったのでしょう?」

「終わりましたが」

「じゃあ、早速色々と…………あら?」

 入口で目をキラキラさせていた大公妃さまが、唐突に、首を傾げて。

 目の前にいたエルも、釣られたのか首を傾げている。

「妃殿下? どうされました?」

「あの、ね」

「はい」

「破水、したみたい……」

 もじもじと可愛らしくおっしゃったそれに、居合わせた全員が凍り付いた。


 一瞬、何を言っているのかマジでわからなかった。

 そして、俺の頭が再起動するよりも前に、エルが再起動した。


「じ、侍医と大公殿下に連絡を!!!」

 そう指示を飛ばすと同時、大公妃殿下をさっと横抱きにしてかなりの速足でエルが移動して行き、周囲にいた使用人たちもそれぞれあたふたしながら動き始め、大公邸は上を下への大騒ぎに。

 その光景を、ポカンと見ているだけの俺とミサキ。


 まだちょっと、頭が動いてない気がする。


「あー……」

 珍しく、ミサキが言葉に詰まってる。うん、俺もどうしたらいいのかわからない。

 いやもう、すでに大公邸は大騒ぎになってるしなぁ……さっきから同じ奴が何度も目の前を駆けて行ったりとかしてて、混乱ぶりがうかがえるよ。ちょっと落ち着いた方がいいんじゃないかな、これ。自分でも何やってるかわかってねーんじゃねーの?

「一応、待機しとくか」

「……そうだな」

 さすがにここで帰るのも、ちょっと違うよなと思ってミサキに同意する。そもそもエル宅の転移門がある部屋、エルがいないと入れないんだから、帰れねーし。それに、治癒・治療系の魔法は聖女様に次ぐとまで言われているミサキが待機していたほうが、ここの連中も心強いだろう。……レンブラントもそっち系は相当な使い手らしいけど、同性のミサキの方が色々と対処しやすり事も多いだろしな。


 そんなわけで、強制的に居残り決定。マジでいつ帰れるかわからない状態となったので、ザックには連絡入れておいた。奥さんが心配するといけないからね!

 取り敢えず俺は応接室へと案内されて当分は待機……となるはずだったんだけど。

 二時間くらいかね? 無事に生まれたと、疲れた顔のミサキが戻ってきました。女の子の双子だったようで、駆け付けた大公殿下、部屋の外をずっとうろうろしてたらしく、我が子と対面して感激して泣いていたそうです。普段、あんなにひょうひょうとしてらっしゃるのにね。待ちに待った我が子との対面は、感動ものだったらしい。

「大公殿下、余計な継承争いを避けるために、第一王子の立太子が確定するまでは子供を設けないと宣言していたからな」

 うん、それは俺れも聞いている。

 大公殿下の兄でもあるグラフィアス国王は気にしないで良いと散々言ってたらしいんだけど、やっぱりね、妙なことを考えるおバカさんってのはどこにでもいるもんで。大公殿下が国の軍部を掌握しているから余計にクーデターを起こしやすいとか、大公殿下を担ぎ上げようっておバカなことを考えている連中がいるらしいんだよ。そのために自分の娘や姪とかを大公邸に送り込んで、大公殿下を篭絡しようともしているようだし。

 まあ、この辺りはエルがきっちり調べ上げて監視しているとは聞いているけど。入り込んでいる行儀見習いの数人は、大公ご夫妻のプライベート空間である二階には立ち入り禁止となってるそうです。期間限定の受けいれなんで、本当に雑用しかさせてないらしいよ。にも拘わらず、余計なことをしようとしたら即追い出せる状態にしていあるんだとか。

グラフィアスだと、行儀見習い先の判断で中断されて家に戻されるのって、結構な恥となるらしい。もちろん、正当な理由がないとそんな事しないよ、普通は。

 そもそもだけど、あいつが大公妃殿下に害なすものを見逃すはずがないんだよな、これまでにもかなり暗躍してきたみたいだし。怖いから詳しくは聞いたことないけど。

 それに、大公殿下も俺と同類で奥さん大好きな方なんで、他の女性に目を向ける可能性は限りなくゼロに近いんじゃないかと思う。

「にしても、双子か。……お祝い、何がいいかな」

 ミサキが隣でボソッと呟いた。

 そうだよ。俺も義兄に連絡入れておかないとだな、これは。個人的にもお祝い考えないと。帰ったら奥さんい相談だな。


 その後、しばらくして大公殿下がわざわざ来てくださいました。俺とミサキがお祝いを伝えると、本当に嬉しそうに笑顔を浮かべていたよ。ついでに、子供用品の相談された。この世界で一般的な子供用品ではなく、俺たちの知識の中に何かいいものはないかという相談だった。防犯グッズ関係はエルがすでにいくつか作っているらしいので、それ以外で。

 なので、ミサキとも相談して、赤ん坊が喜びそうなものをいくつか作ることになった。


 これがのちに評判となり、商品化されることになろうとはこの時は考えてもいなかった。

 なんつーか……本当に、何がウケるかわからないもんだなって思った出来事だった。

 






ファイルの整理してたら出てきたので、投稿してみました。

他にも、もうちょっと手直しすれば投稿できそうなのがいくつか見つかったので、そのうちUPするかもです。

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